ファッシャと 間質

『医道の日本』2018年6月号はファッシャ(膜・筋膜)の特集です。
2018年3月に報道された間質についても詳しい記事があります。
今回の『医道の日本』は買う価値があると思います。

【結合組織(connective tissue)・電気抵抗・経穴とFascia】

バーモント医科大学のヘレン・ランジュバン先生は、2002年に「鍼の経絡経穴と結合組織の関係」(※1)という論文を発表しました。
この論文は革命的で、2010年にはハーバード大学のアンドリュー・アンがヘレン・ランジュバンやテッド・カプチュクとともに「経絡の電気抵抗:皮下組織のコラーゲン・バンドとの関連」(※2)という論文を書き、経絡経穴と結合組織と電気抵抗の研究は完全にリバイバルしました。

同じく2010年に『ネーチャー・ニューロサイエンス』にナナ・ゴールドマン先生の革命的な論文(※3)が掲載されます。
鍼は神経を刺激するのではなく、皮膚・皮下組織を歪ませることでケラチノサイトからATPが放出されて、P2X3受容体を介して鎮痛作用を発現するというのです。

さらに、2014年に台湾の研究者らがマウスの足三里に鍼をして、ウエスタン・ブロッディングという免疫蛍光発色法を用いてTRPV1受容体の関与を証明しました。TRPV1受容体は筋、筋外膜、皮下組織に多く発現していました。これで鍼の受容体がほぼ解明できました。

ヘレン・ランジュバン先生が最初の論文を発表した2002年から2018年までは「皮下の結合組織の歪み・引っ張りという物理刺激がTRPV1受容体やP2X3受容体を刺激して神経信号に変換されて鍼による鎮痛作用を起こす」ことを解明した16年間でした。

2009年には、マッサージセラピストでロルフィングを専門とするトマス・マイヤーズの『アナトミー・トレイン ― 徒手運動療法のための筋筋膜経線』(医学書院) が発表されます。
この筋膜のラインは経絡そっくりです。


2015年には、フェルデンクライス教師、ドイツの研究者ロバート・シュレップの『人体の張力ネットワーク 膜・筋膜 ― 最新知見と治療アプローチ』( 医歯薬出版)が出版されます。ここで、筋膜リリースやカッサ、トリガーポイント鍼、ロルフィングやヨガなどが 膜・筋膜から分析されました。


2018年3月には間質の発見が三焦や経絡と関連付けて報道されました。

Structure and Distribution of an Unrecognized Interstitium in Human Tissues
「認識されていない人体組織における間質の構造と拡がり」
Petros C. Benias et al.  Scientific Reportsvolume 8, Article number: 4947 (2018)
doi:10.1038/s41598-018-23062-6 Published online:27 March 2018

以下、引用。

われわれは粘膜下組織、真皮、筋膜、血管外膜の解剖学的概念を改訂することを提案する。それはコラーゲンの壁のようなものではなく、流体で満たされた内腔・空間であることを示唆している。

ジャネット・トラベルが1980年代に筋筋膜性疼痛症候群について書いたことが、ファッシャ研究全体のターニングポイントだったのです。

トリガーポイントの分野でもトリガーポイントが自発的活動電位を持っていることは証明されています。だから、トリガーポイントでパルス鍼通電すると筋肉が最大に収縮します。治療ポイントの電気抵抗の低さは臨床効果と直結しています。

Myofascial trigger points show spontaneous needle EMG activity.
「筋筋膜トリガーポイントは自発的活動電位を発現している」
Hubbard DR, Berkoff GM.Spine (Phila Pa 1976). 1993 Oct 1;18(13):1803-7.

しかし、もともと経穴の研究は日本の中谷義雄から始まり、フランスのノジェの盟友ジャック・ニボイエが1950年代から1970年代に研究して世界をリードしました(※5)。

1970年代から1980年代もフランスのノジェの盟友ボッシー(※6)やドイツのヴィッテン大学解剖学臨床形態学研究所、ハルムート・ハイネの経穴の解剖学的構造や電気抵抗に関する研究はハイレベルなところまで達していました(※7※8)。

<参照>
※1:ヘレン・ランジュバン「鍼の経絡経穴と結合組織の関係」
Relationship of acupuncture points and meridians to connective tissue planes.
Langevin HM, Yandow JA.
Anat Rec. 2002 Dec 15;269(6):257-65.

※2:「経絡の電気抵抗:皮下組織のコラーゲン・バンドとの関連」
Electrical impedance of acupuncture meridians: the relevance of subcutaneous collagenous bands.
Ahn AC, Park M, Shaw JR, McManus CA, Kaptchuk TJ, Langevin HM.
PLoS One. 2010 Jul 30;5(7):e11907.

※3:「アデノシンA1受容体を介した局所の鍼の抗侵害受容的効果」
Adenosine A1 receptors mediate local anti-nociceptive effects of acupuncture
Nanna Goldman,et al.
Nature Neuroscience 13, 883–888 (2010)

※4:Abundant expression and functional participation of TRPV1 at Zusanli acupoint (ST36) in mice: mechanosensitive TRPV1 as an “acupuncture-responding channel”
BMC Complementary and Alternative Medicine 2014, 14:96

※5:「経穴の概念 主としてニボイエの経穴論紹介」
山下 九三夫『日本良導絡自律神経雑誌』Vol. 25 (1980) No. 6 P 185-190

※6:ボッシー「鍼のツボと経絡に関する形態学的データ」
Morphological data concerning the acupuncture points and channel network.
Bossy J.  Acupunct Electrother Res. 1984;9(2):79-106.

※7:ハイネ「経穴の解剖構造」
Anatomical structure of acupoints.
Heine H.  J Tradit Chin Med. 1988 Sep;8(3):207-12.

※8:山元敏勝訳「刺鍼術経穴の機能解剖学」
ハルムート ハイネ著『日本鍼灸良導絡医学会誌』Vol. 23 (1995) No. 2 P 15-20

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