中間広筋と大腿四頭筋の謎

中間広筋のトリガーポイントは大腿の上3分の1に見つかることが多いです。
膝を長時間まげて座ると伸ばすことが困難になります。
触診は大腿直筋腱のまわりを深く触診します。
大腿骨前面に起止して膝蓋骨から脛骨粗面に停止しますが、深部は膝蓋上嚢に停止します。

例えば、血海には女性の月経痛の反応点が現れることがあります。
血海だけでなく梁丘や陰市や伏兎など大腿四頭筋上の胃経に女性の月経痛の反応が現れます。

米山博久「月経痛の皮電点」
『日本東洋医学会雑誌』vol12, No.4 1962
第12巻、第4号、昭和37年3月

米山博久先生は「経絡否定論」で有名な科学派を代表する先生です。
この報告では月経痛の女性を皮電計で計測したところ、伏兎に皮電点があらわれやすいことに気づき、63名で調査したところ月経痛や月経不順の症状がある女性は伏兎の皮電点があらわれやすい傾向があったというものです。

また、昭和の名灸師、深谷伊三郎先生は女性の不感症に伏兎の灸を使われていました。

伏兎とその上下点は不感症の人にはよく出ている圧痛点で、人によっては中心ではなく左右、すなわち内か外に偏って出ることもあるが、これは見逃してはいけない治療点である。
『お灸で病気を治した話第3集』鍼灸之世界社2ページ

深谷伊三郎先生は伏兎を中心にして、上下四横指の範囲を「伏兎3点」として婦人科疾患の診断点にされていたようです。

古典的には1680年、明代の『鍼灸大成』は伏兎の主治として「婦人,八部諸疾」を挙げています。
「婦人、八分諸疾」が何を意味するのかは分かりませんが、婦人科疾患に用いられていたことは類推できます。

デルマトームを真剣に研究しだしたら、凄いことに気づきました。

子宮や卵巣の神経支配が文献によって違うのです。

生理痛の鍼灸治療の西洋医学的な理論的根拠を研究して分かったのは、ヒトの子宮の神経支配について解剖学者による本格的な研究が始まったのが1984年である!!!という衝撃の事実でした。
これは佐藤優子先生の「子宮の神経性調節と鍼灸」という論文の556ページに明記されています。

「子宮の神経性調節と鍼灸」
内田 さえ、志村 まゆら、佐藤 優子
『全日本鍼灸学会雑誌』
Vol. 49 (1999) No. 4 P 555-566

ヘンリー・ヘッドが帯状疱疹からデルマトーム・マップをつくったのは1900年で、キーガンとギャレットがノボカイン麻酔注射で現在のデルマトーム・マップをつくったのは1940年代です。

そして子宮の神経支配の研究が始まったのが1984年です…。
文献によって違うわけです。

佐藤優子先生は鍼灸と自律神経反射の第一人者のあった佐藤昭夫先生の奥様で共同研究者です。「体性‐自律神経反射の生理学―物理療法、鍼灸、手技療法の理論」という鍼灸の科学的研究をするヒトの必読文献を書いたのは佐藤優子先生と佐藤昭夫先生とロバート・F・シュミット先生です。このグループはマックス・プランク賞を受賞した世界的な超一流の生理学者、子宮の体性=自律神経反射の世界的第1人者です。ここからデルマトームに疑問を持ち、デルマトームの学説史を徹底調査するハメになりました。

梁丘や血海のデルマトーム(皮膚分節)はL3です。
大腿四頭筋は大腿神経支配でミオトーム(筋分節)はL2-L4です。
血海のスクレロトームもL3です。
そして腰髄が出力して子宮体部と子宮頸部に分布する交感神経性の下腹神経はT10-L2です。
仙髄から出力して子宮頸部と膣部に分布する副交感神経性の骨盤神経はS2-S4です。

デルマトームをつくったヘンリー・ヘッドは、子宮と関連するのはT10-L1とS2-S4と現代医学と同じ見解です。
ヘッドは卵巣・卵管などの付属器はT11-L1、卵巣はT10と述べています。
L3(L2-L4)神桂支配である血海などの大腿四頭筋に女性生殖器の反応が出やすく、しかも、そこを治療すると生理痛が緩解するという臨床からの経験的事実は内臓体性反射や体性内臓反射からは説明しにくいのです。
もちろん、わたしが 内臓体性反射や体性内臓反射を真面目に考えて臨床で使っているからこその疑問です。

一つ思うのは、血海の反応は皮内針や知熱灸では効果がなく、一定の深さを刺激しないと得気が出ません。

血海の穴下の大腿四頭筋のミオトームはL2-L4で、交感神経性の下腹神経はT10-L2なので、ギリギリ重なりはします。しかし、おそらく実際には、もっと広い入力と出力なのです。

このあたりは9月の関西中医研「肩こりと痃癖の分析」で講義させていただきます。

不妊治療や生理痛など、子宮・卵巣・卵管などの付属器の神経支配と西洋医学的な鍼灸治効機序は重要だと思います。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする