男性不妊鍼灸のEBM

2014年韓国・慶熙大学の研究
「不妊男性の貧弱な精子の質における鍼の効果と安全性:システマティックレビューとメタ・アナリシス」
The effectiveness and safety of acupuncture for poor semen quality in infertile males: a systematic review and meta-analysis.
Ui Min Jerng,et al.
Asian J Androl. 2014 Nov-Dec;16(6):884-91.

以下、引用。

鍼が貧弱な精液の質を改善するかも知れないという可能性を示す現在のエビデンスは、研究の数が少なすぎるため不十分である。

結論:このレビューは、鍼をすることで精子の運動性、精子濃度、そしてカップルの妊娠率を向上させるかについては現在の証拠が不十分であることを示唆している。

蓄積されたデータは精子の運動性と精子濃度について、鍼は乏精子症と無力精子症の患者に適用することができることを示唆している。

男性不妊症はものすごく広い概念です。

精索静脈瘤やおたふくかぜなどの原因もありますが、精子形成障害(造精機能障害)がかなり多くを占めると考えられています。

乏精子症は総精子数の数や濃度が基準以下の場合です。

無力精子症は精子の前進運動が基準の下限以下の場合です。

【精子の質について】

精子の質については、精子の運動性を改善した1997年イスラエル・テルアビブのシモン・シターマンの研究が最初です(※1)。

2000年に同じイスラエルのシターマンは精子の運動率と精子濃度も改善されたことを報告しています(※2)。

2003年にブラジル、サンパウロ大学の研究は、精液異常の患者に鍼灸を行い、正常な形の精液の増加を報告しています(※3)。

2005年の中国、上海中医薬大学がイタリアで行った研究では、電子顕微鏡で超微細構造の観察を行い、運動率や正常で健康な精子の割合は改善していました(※4)。

2009年のドイツ、ヴィッテン・ヘァデッケ大学は鍼により精子濃度は改善しないが、精子運動性は改善したとしています(※5)。

2009年のイスラエルのシモン・シターマンの画期的な論文は陰嚢の皮膚温度に注目しています(※6)。

以下、2009年のイスラエル論文より引用。

陰嚢の皮膚温度の上昇は結果的に精子形成不全をもたらすという概念は広く受け入れられている。

何人もの論文著者たちが陰嚢の高温度は現代のライフ・スタイルの一部であり、それはピッチリとした下着や高温を保つ服や座りっぱなしのデスクワーク、そして特に長時間自転車に乗る事、肥満や電磁波にさらされたりラップトップコンピューターを用いる事と関係していると論じている。

長時間、自転車に乗ることや、ラップトップパソコンを膝の上において電磁波を陰嚢に浴びせることは男性不妊症と関係があります。
長時間のデスクワークやブリーフもです。
サウナや長時間のお風呂などの高温環境も男性不妊症と関係が有ります。

2000年から約9年間、男性不妊症を研究してきたシモン・シターマンによると、鍼は陰嚢の温度が体温より高いタイプの男性不妊症には効果があり、陰嚢の温度が正常な男性不妊症(FSH高値)はあまり鍼の効果が出ないようです。

陰嚢の皮膚温が低下した場合は精液の濃度の増加が見られました。
機序として精巣に炎症がある場合、陰嚢の温度は高温となり、精子形成異常となると考えられているようです。

また、以下の情報も重要です。

精索静脈瘤の患者では、精子数について活性酸素種を介したダメージがあるため、鍼は過酸化プロセスを阻害し、精液アウトプットを改善すると予測された。事実、鍼治療は8人中2人の精索静脈瘤の患者に有用であった。精索静脈瘤の症例に治療が効いたかどうかは、治療前、治療後の活性酸素種の測定によって適応を確認する。

精索静脈瘤は男性不妊症の原因の1つであり、鍼以外にも漢方の駆於血剤である桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)や補中益気湯(ほちゅうえっきとう)で改善した症例が報告されています。

「体外受精失敗後, 補中益気湯及び桂枝茯苓丸の併用で自然妊娠した男性不妊の一例」
『日本東洋医学雑誌』Vol. 46 (1995-1996) No. 4 P 573-579

鍼では、2009年のイスラエル論文は弁証論治で配穴して治療しています。
以下、引用。

中国伝統鍼灸の弁証論治によれば、腎虚(=ホルモン・アンバランス)と湿熱証(生殖器の炎症)が重要なポイントとみなされている。

ツボは三陰交、関元、列欠、照海、気衝を両方の症候(腎虚と湿熱)に用いた。

腎陽虚(精液形成不全)には太溪と腎兪、横骨、志室が用いられた。

生殖器の湿熱証(生殖器の炎症)には陰陵泉、蠡溝、曲池、水道、足臨泣が用いられた。

次の鍼のツボは中国伝統鍼灸に従い、腎陽虚や湿熱証ではないものに使われた。
合谷、足三里、血海、神門、脾兪、内関、会陰、曲骨、気海、命門、百会、風池、太衝、復溜、五枢である。

【参考文献】
1997年イスラエル
※1:「精子の質が低いために不妊となった男性の精子への鍼の効果」
Effect of acupuncture on sperm parameters of males suffering from subfertility related to low sperm quality.
Siterman S et al.
Arch Androl. 1997 Sep-Oct;39(2):155-61.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/9272232/
※運動率の向上が見られた。
2000年イスラエル

※2:「鍼は、低い濃度の精液の男性の精液の濃度に影響を与えるのか?パイロットスタディ」
Does acupuncture treatment affect sperm density in males with very low sperm count? A pilot study.
Siterman S et al.
Andrologia. 2000 Jan;32(1):31-9.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10702864/
2003年ブラジル

※3:「精液異常の患者への鍼灸治療の効果」
Effects of acupuncture and moxa treatment in patients with semen abnormalities.
Gurfinkel E et al.
Asian J Androl. 2003 Dec;5(4):345-8.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14695986/
http://www.asiaandro.com/archive/1008-682X/5/345.htm
※鍼灸治療後に、精液の異常がある患者の正常な精液の比率は増加した。
2005年中国、上海

※4:「特発性男性不妊症の鍼治療後の精液超微細構造の質的評価」
Quantitative evaluation of spermatozoa ultrastructure after acupuncture treatment for idiopathic male infertility.
Pei J,et al.
Fertil Steril. 2005 Jul;84(1):141-7.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/16009169/
http://www.fertstert.org/art…/S0015-0282(05)00591-1/fulltext
http://www.fertstert.org/article/S0015-0282(05)00591-1/pdf
(全文無料オープンアクセス)
2009年ドイツ

※5:「深刻な『乏精子無力症(oligoasthenozoospermia)』の不妊患者における鍼の影響のプラセボ対照ランダム化研究」
A prospective randomized placebo-controlled study of the effect of acupuncture in infertile patients with severe oligoasthenozoospermia.
Dieterle S et al.
Fertil Steril. 2009 Oct;92(4):1340-3. doi: 10.1016/j.fertnstert.2009.02.041. Epub 2009 Apr 25.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19394002/
http://www.daegfa.de/…/1-2010-1%20Infertilit%C3%A4t-Gyn%20D…
(全文無料オープンアクセス※ドイツ語)
2009年イスラエル

※6:「陰嚢皮膚温度低下患者の初期精液の低レベルアウトプットの鍼治療による成功」
Success of acupuncture treatment in patients with initially low sperm output is associated with a decrease in scrotal skin temperature.
Siterman S,et al.
Asian J Androl. 2009 Mar;11(2):200-8. doi: 10.1038/aja.2008.4. Epub 2009 Jan 5.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19122677
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3735027/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4236334/

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