弱電と再生とイオン・ポンピング

現在、鍼による「再生医学」に関する論文が大量に発表されています。

これは、日本の明治国際医療大学、大井・井上両先生によるアキレス腱修復の研究(※2)が有名です。明治国際医療大学の井上基浩先生が2003年に電気鍼による神経再生の研究を行い(※1)、2009年には電気鍼による骨癒合促進の研究(※4)を行い、2015年には電気鍼による腱修復の研究を行い『英国医師会雑誌』に掲載されたわけです(※5)。

もともとは鍼麻酔の歴史に名前を残すカナダの獣医、ブルース・ポメランツが直流電気を鍼にかけると陰極側で神経再生が起こることを発見しました。ブルース・ポメランツは1976年にエンドルフィンによる鎮痛をナロキソンがブロックすることを発見した人物です。

1976年ブルース・ポメランツ
「ナロキソンはエンドルフィンが導く鍼鎮痛をブロックする」
Naloxone blockade of acupuncture analgesia: endorphin implicated.
Pomeranz B, Chiu D.Life Sci. 1976 Dec 1;19(11):1757-62.

電気生理学をつくったドイツの医学者、デュ=ボワ=レイモンは「負傷電流(損傷電流を発見しました。傷ついた筋肉や神桂は陰極の電流を帯びるのです。

2011年にブレークスルーが起こります。
カリフォルニアの生物学者たちが、創傷治癒の際のマウスと人間の皮膚でのみ生成される「電場」をはじめて計測しました。

2011年「ヒトとマウスの皮膚創傷におけるエレクトリックフィールドのイメージング」
Imaging the electric field associated with mouse and human skin wounds
Richard Nuccitelli, PhD,
Wound Repair Regen. Author manuscript; available in PMC 2011 May 3.

デュ=ボワ=レイモンの観察どおり、創傷部位には負傷電流が発生し、創傷部位は陰極となっていました。
この電場を除去すると、創傷治癒は50%遅くなることが実験で確認されていました。この電場にマクロファージ由来の骨芽細胞や線維芽細胞が遊走して引き寄せられるのです。

2017年の台湾の論文は、直流電流による組織治癒に関する議論がよくまとめられています。

2017年「創傷治癒のための電気刺激:電極構成の影響シミュレーション」
Electrical Stimulation for Wound-Healing: Simulation on the Effect of Electrode Configurations
Yung-Shin Sun
Biomed Res Int. 2017; 2017: 5289041.
Published online 2017 Apr 9. doi: 10.1155/2017/5289041

実は、これらのアイディアを間中喜雄先生は、1950年代に既に治療に応用していました。
外科医として、火傷で電場を変化させて鎮痛させることからイオン・ポンピング鍼療法をはじめられたのです。

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※1:「ラットの末梢神経再生に及ぼす鍼通電刺激の影響」
井上 基浩
『体力科学』52 巻 (2003) 4 号 p. 391-406
https://www.jstage.jst.go.jp/…/…/52/4/52_4_391/_pdf/-char/ja

※2:「ラットのアキレス腱修復に与える鍼通電刺激の効果」
大井 優紀, 井上 基浩, 中島 美和、 糸井 恵, 北小路 博司
『日本温泉気候物理医学会雑誌』Vol. 75 (2011-2012) No. 2 p. 112-123
https://www.jstage.jst.go.jp/article/onki/75/2/75_112/_pdf

※3:「ラットの末梢神経再生に及ぼす鍼通電刺激の影響」
井上 基浩『体力科学』Vol. 52 (2003) No. 4 P 391-406
https://www.jstage.jst.go.jp/…/jspfsm1949/52/4/52_4_391/_pdf

※4:「ラット脛骨骨折モデルの骨癒合能に及ぼす鍼通電刺激の効果」
中島 美和, 井上 基浩, 糸井 恵
『全日本鍼灸学会雑誌』Vol. 59 (2009) No. 5 P 477-485
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsam/…/5/59_5_477/_pdf

※5:「ラットのアキレス腱断裂における電気鍼のアキレス腱修復効果」
The effect of electroacupuncture on tendon repair in a rat Achilles tendon rupture model
Motohiro Inoue, Miwa Nakajima, Yuki Oi, Tatsuya Hojo, Megumi Itoi, Hiroshi Kitakoji
Acupunct Med 2015;33:58-64
http://aim.bmj.com/content/33/1/58.abstract
https://www.jstage.jst.go.jp/…/4/52_4_391/_article/-char/ja/

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