鍼麻酔の基礎研究

2017年9月22日
「韓済生院士が医学生にキャリアパスについて語った」
韩济生院士谈医生职业之路

韓済生先生は鍼麻酔の研究者として有名です。電気鍼で2Hz連続波と100Hz連続波は作用が違いますが、それを解明したのが韓済生先生です。韓済生ご自身は2Hz/100Hzの疎密波・混合波を電気鍼で使われているそうです。

以下、引用。

2ヘルツの電気鍼はエンケファリンとエンドルフィンをリリースし、100ヘルツの電気鍼はダイノルフィンをリリースする。

鍼麻酔(電気鍼)において1-2Hzの電気鍼はエンケファリンとエンドルフィンを分泌させ、
100Hzの電気鍼はダイノルフィンを分泌させ、鎮痛の経路が違うことを証明しました。

2004年 「鍼とエンドルフィン」
Acupuncture and endorphins.
Han Ji-sheng
Neurosci Lett. 2004 May 6;361(1-3):258-61.

中国の韓済生先生は1965年頃から鍼麻酔の研究をはじめ、1987年に「鍼による鎮痛の神経化学的基礎(Neurochemical Basis of Pain Relief by Acupuncture, volume 1)」を出版されます。

私は1998年に出版された第2版である「针刺镇痛的神经化学基础(Neurochemical Basis of Pain Relief by Acupuncture, volume 2)」(湖北科学技术出版社1998年)を読んだことがあります。

【鍼麻酔の歴史】

1958年8月30日、上海市第一人民医院耳鼻咽喉科で尹恵珠主任医師が合谷の鍼麻酔を使い、扁桃腺摘出手術に麻酔薬を使わずに扁桃腺の摘出手術を行いました。

1958年12月5日、西安第4人民病院の耳鼻科医師、孟慶禄主任医師が内関と太衝の電気鍼を使って鍼麻酔に成功し、扁桃腺の摘出手術を行いました。

1971年7月26日、ニューヨークタイムズの記者ジェームズ・レストンが李永明という医師の鍼麻酔について書き、鍼麻酔ブームが起きました。

Reston, James,
“Now, About My Operation in Peking”
, New York Times, July 26, 1971

【鍼麻酔の世界への影響】

イタリアは1971年11月11日にウルデリコ・ランツァ(※1)が扁桃腫瘍の鍼麻酔手術を行います。ランツァはイタリアに鍼を導入しました。

オーストリアは1972年3月にウィーンでヨハネス・ビシュコ(※2)が最初の鍼麻酔手術を行います。ビシュコは『ウィーン科学鍼灸学派』を形成し、メディカルアキュパンクチャーに大きな影響を与えます。

イギリスは1972年4月にフェリックス・マン医師が医学雑誌『ランセット』に「歯科における鍼鎮痛」(※3)を報告します。

アメリカは1972年4月にシカゴで鍼麻酔手術が行われました。

フランスは1973年5月にリヨンの病院で外科医ロシャが鍼麻酔で甲状腺手術を行います。

1975年にスコットランドのジョン・ヒューがエンケファリンの発見を『ネーチャー』で報告しました(※4)。

ほぼ同時期にソロモン・H・スナイダーがエンドルフィンを発見します。

そしてカナダの獣医ブルース・ポメランツが1976年にエンドルフィンによる鎮痛をナロキソンがブロックすることを発見します。

1976年「ナロキソンはエンドルフィンが導く鍼鎮痛をブロックする」
Naloxone blockade of acupuncture analgesia: endorphin implicated.
Pomeranz B, Chiu D.Life Sci. 1976 Dec 1;19(11):1757-62.

1977年にはヴァージニア医科大学のデビッド・J・メイヤーがヒトにおける針麻酔にエンドルフィンが関与していることを最初に証明します。

「ヒトにおける鍼鎮痛はナロキソンで阻害される」
Antagonism of acupuncture analgesia in man by the narcotic antagonist naloxone.
Mayer DJ,
Brain Res. 1977 Feb;121(2):368-72.

1979年にはスタンフォード大学のアブラム・ゴールドスタインがダイノルフィンを最初に報告しました。

同じ1979年にアラン・バスバウムとハワード・フィールズが下行性痛覚抑制系を発見します。

1979年代から昭和大学の武重千冬教授が大量の鍼麻酔研究を毎年のように発表されます。

1979年「針鎮痛有効性の個体差とモルヒネ鎮痛及び中脳中心灰白質刺激による鎮痛の個体差の相関」
武重 千冬et al.『昭和医学会雑誌』Vol. 39 (1979) No. 4 P 413-417

1992年、昭和大学の武重千冬教授は下行性痛覚抑制系と鍼鎮痛の関係を発表します。

「鍼鎮痛の際の下行性痛覚抑制系システム」
Descending pain inhibitory system involved in acupuncture analgesia
ChifuyuTakeshige
Brain Research Bulletin
Volume 29, Issue 5, November 1992, Pages 617-634

以下の1992年の論文は昭和大学医学部での最終講義であり、経穴を使った鍼鎮痛と非経穴を使った鍼鎮痛は神経経路が違うことが明快に書かれています。

「鍼麻酔と鍼鎮痛発現の機序について」
武重 千冬『昭和医学会雑誌』Vol. 52 (1992) No. 3 P 241-255

ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
※1:『鍼麻酔 (第1報)』
ウルデリコ・ランツァ 『日本鍼灸治療学会誌』Vol. 21 (1972) No. 3 P 25-34

※2:「鍼麻酔における神経生理学的メカニズム」
ヨハネス・ビシュコ『日本鍼灸治療学会誌』
Vol. 27 (1978-1979) No. 2 P 25-30

※3:フェリックス・マン「歯科における鍼鎮痛」
Acupuncture analgesia in dentistry.
Mann F.
Lancet. 1972 Apr 22;1(7756):898-9.

※4:Identification of two related pentapeptides from the brain with potent opiate agonist activity.
Hughes J,
Nature. 1975 Dec 18;258(5536):577-80.

※5:
Dynorphin-(1-13), an extraordinarily potent opioid peptide.
A Goldstein
Proc Natl Acad Sci U S A. 1979 Dec; 76(12): 6666–6670.

※6:
The origin of descending pathways in the dorsolateral funiculus of the spinal cord of the cat and rat: further studies on the anatomy of pain modulation.
Basbaum AI, Fields HL.
J Comp Neurol. 1979 Oct 1;187(3):513-31.

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