瞑想のダークサイド

2017年5月29日『クオーツ』
「誰も話していない瞑想(メディテーション)のダークサイド」
There’s a dark side to meditation that no one talks about

以下、引用。

禅仏教では瞑想の際に歪んだ認識があらわれることを魔境と呼び、「魔」と「世界」をあわせた意味の言葉がある。アメリカン・禅マスターであるフィリップ・カプラによれば、魔境は心の深いところのストレスフルな経験をリリースするプロセスでの浚渫(どぶさらい)とクレンジング(浄化)を意味している。

座禅や瞑想をしていると魔境や禅病という領域に入ることがあります。このアメリカ禅マスターの魔境の解釈は正確です。

経絡にたまった感情エネルギーや詰まりが魔境を起こします。浄化して経絡が通れば、魔境のリスクは少なくなります。

この『クオーツ』の記事はブラウン大学医学部の精神医学の准教授が『プロス・ワン』に「瞑想の副作用」に関する西洋医学分野の初の医学的調査論文を発表したことを紹介しています。

2017年5月24日『プロスワン』掲載の論文
「瞑想体験の多様性:西洋仏教徒の瞑想関連の困難のミックスド・メソッド研究」
The varieties of contemplative experience: A mixed-methods study of meditation-related challenges in Western Buddhists
Jared R. Lindahl et al.
Published: May 24, 2017https://doi.org/10.1371/journal.pone.0176239

以下、引用。

チベット仏教の伝統ではニヤムスが身体痛を強めたり、精神障害、パラノイア、悲しみ、怒り、恐怖など多様な障害が瞑想によって経験されると言及する際に使われる。

禅仏教では魔境が認識の副作用や状態を阻害するものとして使われる。

禅の伝統では禅病として知られる、長期にわたる病的な状態が瞑想で起こることが知られている。

現在、マインドフルネス・ストレス低減法が流行しています。

もともと1960年代にベトナム反戦運動で知られたベトナム禅僧ティク・ナット・ハンが仏教の教えからマインドフルネス瞑想を始め、マサチューセッツ大学医学部教授ジョン・カバット・ジンが1966年からヴィッパサナー瞑想を行い、マサチューセッツ大学医学部教授となるとマインドフルネス・ストレス低減法(MBSR)を病院で実践し始めました。

現在、日本でもミャンマーやスリランカやタイから上座部仏教のヴィッパサナー瞑想が輸入されて流行っています。

しかし、日本の禅宗では大昔から瞑想中に魔境、禅病があると認識していました。西洋世界でも現在、クンダリニ症候群という英語があります。中国の気功でも偏差や走火入魔と言われる状態を認識しています。

以下の文献『中国気功学』では、偏差、走火、入魔などの状態を分析し、ツボを使った対処法が明記されています。基本的には経穴を叩いて詰まった経絡を通します。

中国気功学』 東洋学術出版社 (1990/03)

中国仏教では、禅病の予防と治療に自己按摩をしていました。以下の研究は、中国仏典における禅病予防のための自己按摩の記述を集めています。

「天台止観の身体観について–とくに自按摩を中心として」
影山 教俊『現代宗教研究』40号、224~242、2003年

隋代に書かれた中国仏典『禅病を治療するための秘密の方法(治禅病秘要法)』という文献には、治療法として按摩と明記されています。

中国・天台宗の開祖、隋代の高僧、天台智顗は『天台小止観』などの文献において、瞑想前に自己按摩することと、さらに禅病に対して丹田に意識を置くことを述べています。天台智顗が行っていた止観とはヴィッパーサナ瞑想や座禅のことです。

『仏教と医学 : 「丹田」考 (袴谷憲昭教授退任記念號)』
渡辺 幸江『駒沢大学仏教学部論集』 -(42), 306-290, 2011-10

以下、引用。

師匠が言うには、上気してのぼせ、胸満し、脇痛して、背中がケイレンし、肩井が痛む。胸中が熱でモンモンとして痛み、食べることができず、胃がはり、臍下が冷たく、上熱下寒し、陰陽不和となり、シワブキする。この十二の病はみな丹田で止まり、丹田は臍下二寸半である。

この天台智顗の方法論を、そのまま日本の江戸時代中期の高僧、白隠が「軟酥の法」という禅病の治療法に用いています。

以下、白隠、『夜船閑話』より引用。

前賢曰く、丹は丹田なり。心勞煩わんとする則(とき)は、虚して心熱す。心虚する則は、是れを補するに心を下して腎に交ふ、是れを補といふ。

若し心炎意火を收めて丹田及び足心の間におかば、胸膈自然に淸凉にして一點の計較思想なく、一滴の識浪情波なけん、是れ真観清浄観なり、云ふ事なかれ。

佛の言く、心を足心にをさめて能く百一の病を治すと。阿含に酥を用ゆるの法あり、心の疲労を救ふ事尤も妙なり。天台の摩訶止觀に、病因を論ずる事甚だ盡せり、治法を説く事も亦甚だ精密なり、十二種の息あり、よく衆病を治す、臍輪を縁して豆子を見るの法あり、其の大意、心火を降下して丹田及び足心に收むるを以て至要とす、但病を治するのみにあらず、大に禅観を助く。

禅病は中国伝統医学の心腎不交なので、臍輪(ヘソのチャクラ)の丹田や足心の湧泉に引火帰元して降気・降火して治療します。中国伝統医学を勉強してきた鍼灸師にとってはよく理解できます。

マインドフルネス瞑想をしている方はおそらく禅病や魔境の存在を知らないです。また、昔の禅仏教の指導者は禅病の対処法や予防法を知っていましたが、いまの指導者が知っているかどうかは疑問です。

禅病の予防には関節や経絡の気滞を按摩して取ることです。禅病の治療も按摩で、経絡を通したり虚火上炎して、心腎不交な状態を下焦や湧泉に引火帰元します。おそらく昔の鍼灸師はどんな病気でも持ち込まれたので、禅病や魔境にも対処していたと思います。

マインドフルネス瞑想のセミナーに参加する前に、禅病や魔境の病理や予防法、対処法などのリスク管理、先行研究やエビデンスを質問して、指導者の資質をストレス・テストしておくべきだと思います。

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