眩暈:持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)

2018年11月19日『日経メディカル』
「診断が付かないめまい症の多くはPPPDだった」

以下、引用。

最近、国際学会で新たに持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)の診断基準が定められた。

めまいを研究した耳学者、ローベルト・バラーニの名前を冠した世界最大のめまい学会、バラーニ学会が心因性めまいの新分類と持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD:Persistent postural-perceptual dizziness)の診断基準を発表しました。

2017年
「Bárány Society による心因性めまいの新分類と持続性知覚性姿勢誘発めまい (PPPD) の診断基準」
堀井 新 Equilibrium Research 2017 年 76 巻 4 号 p. 316-322

鍼灸でめまいの患者さんは多く、良性発作性頭位眩暈症をやっと舌をかまずに発音できるようになったと思ったら持続性知覚性姿勢誘発めまいの登場です。BPPVとPPPDで略して言うと間違えると思うので日本語は意味がわかりやすくてよいですが、完全に早口言葉の世界です。

持続性知覚性姿勢誘発めまいの治療は認知行動療法というのはどうなのでしょうか。

2018年「慢性めまい治療における認知行動療法と前庭リハビリテーションの役割」
近藤 真前『心身医学』2018 年 58 巻 6 号 p. 517-523

腰痛治療革命の頃に一度、腰痛のエビデンスを総点検しましたが、腰痛や慢性疼痛に対して行動療法や認知行動療法を推奨する気持ちはあまり理解できません。

2010年コクランシステマティックレビュー
「慢性腰痛に対する行動療法」
Behavioural treatment for chronic low-back pain.
Henschke N et al.
Cochrane Database Syst Rev. 2010 Jul 7;(7):CD002014.

【著者の結論】慢性腰痛患者に対して、短期では行動療法は(無治療の)待機者よりも有効であり、疼痛緩和に行動療法は通常ケアよりも有効であるが、ある特定のタイプの行動療法が別のタイプの行動療法よりも有効であることはないという中程度の質のエビデンスがある。中期~長期では疼痛やうつ症状に対して行動療法とグループ運動の間にほとんど差がない、またはまったく差がない。

2010年のコクランレビューの結論は、臨床心理士がプロパガンダしているほどの効果ではないと感じます。慢性腰痛患者さんは無治療よりは認知行動療法をやったほうが良い程度だと思います。

自分の臨床的実感とあわずに腑に落ちなかったので、英語の総説論文を調べてみました。

2018年2月『ブリティッシュメディカルジャーナル』の総説論文
「持続性知覚性姿勢誘発めまい(PPPD)」
Persistent postural-perceptual dizziness (PPPD): a common, characteristic and treatable cause of chronic dizziness

※「機能性めまいへの認知行動療法(CBT)の経験は限定的である」

「認知行動療法は短期的には効果を示したが、1年後のフォローアップでは効果がない」というのがブリティッシュ・メディカル・ジャーナル(BMJ)の記述です。

この2018年『ブリティッシュメディカルジャーナル』論文の「PPPD診断におけるレッドフラッグス(Red flags in the differential diagnosis of PPPD)」はとても参考になります。「PPPDは他の全ての診断を満たさない謎のめまいでの患者の『ゴミ箱診断』として使うべきではない」と批判しているのが印象的でした。「診断が付かないめまい症の多くはPPPDだった」というのは、まさにゴミ箱診断だと思うのは私だけでしょうか。

東洋医学の眩暈は、西洋医学における回転性めまい、浮動性めまい、眼前暗黒感(ブラックアウト)を伴う立ちくらみや失神を含みます。

一番危険なのはブラックアウトを伴う失神や立ちくらみであり、出血の可能性があります。

浮動性めまいも脳の問題(頭蓋内病変)である可能性があり、レッド・フラッグスです。

回転性めまいは良性発作性頭位眩暈症と悪性持続性頭位眩暈症の違いの理解が重要です。頭の位置を変えてしばらくするとめまいが収まるのが良性で、ある頭の位置になるとずっとめまいが続くのが悪性で脳腫瘍などの可能性があります。小脳橋角部腫瘍では同じ頭の位置で持続的めまいが起こります。ブルンス眼振といって、1902年にドイツの神経学者ルードヴィッヒ・ブルンスが発見しました。

めまい診療のレッド・フラッグスは非・前庭性原因です。持続的で悪化しつつあり、早朝に深刻な頭痛があり、複視、脳神経麻痺、構音障害、運動失調などの脳神経症状です。

また、頚椎由来のめまいもあります。むちうち損傷の頚椎性めまいです。

最近の中国では、頚長筋による頚性めまいを鍼で治療した論文が掲載されていました。正しい方向だと思います。

2018年11月、中国、北京、日中友好病院の論文
「頚長筋腱炎により起こった眩暈:症例報告と文献レビュー」
Vertigo caused by longus colli tendonitis: A case report and literature review.
Shen Y et al.
Medicine (Baltimore). 2018 Nov;97(45):e13130. doi: 10.1097/MD.0000000000013130.

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