【セミナー補足資料】肝病の治法1

中医学古典、明代、張介賓著『質疑録』
「肝に補法なしを論ずる」

邵輝先生との質疑応答です。

私:
更年期の自律神経失調症の肝欝気滞の患者さんに対して内関(PC6)、足三里(ST36)、中かん(CV12)、上かん(CV13)、下かん(CV10)、天枢(ST25)、気海(CV6)という配穴処方をしているのはなぜですか。臓腑弁証の肝欝気滞と弁証されているのに足厥陰肝経のツボが一つも使われていません。こんな配穴は初めて見ました。

邵輝先生:
弁証は肝欝気滞ですがわざと肝経のツボを入れていません。昔の老中医の先生は肝鬱に対して胃経を治療することで治療していました。更年期の女性の肝の状態は肝血虚があります。同時にイライラや肝鬱の症状を持っています。つまり、肝は虚証と実証と入り混じっている状態です。このような肝血虚(虚証)と肝欝気滞(実証)が入り混じっている時は、肝経を瀉法したら逆に肝は弱ります。肝経以外の経絡から治療しないといけません。

足陽明胃経は多気多血で、胃経を瀉法しても後天だから後で増えます。だから胃経中心に瀉法の処方にしました。今の教科書は学生が勉強しやすいように初心者向けに書いてあります。勉強する意味はありますが、日本では更年期の女性がよく鍼灸院に来ます。昔の老中医は、このような方法で(経絡病ではない)臓腑病を治していました。今の人はこのような五行を使った方法論を実際に使っていないので、経絡病は治せても臓腑病が治せないのです。

この会話の直後に読んで感動したのが『質疑録』の「肝に補法無しを論じる」です。

以下、翻訳して引用。

およそ一切の痃癖、チョウカ、痞(つか)え、奔豚気(ほんとんき)、お腹の中が盆杯のようになるもの(要するにお腹にツカエができるもの)は全て肝虚証であり、これは五行の金が衰えて金が肝木を押さえつけないために肝木が横逆した病気であり、まさに腎水を補うことでこれを治療する。けっして疏肝理気で肝経を瀉法してはいけない。

足厥陰肝経は風木の臓であり、条達を喜び、抑鬱をにくむ、ゆえに「(肝)木が欝すればこれ達する(理気する)」と黄帝内経にかかれている。

そして肝は血を蔵し、人は夜寝れば血は肝に帰る。肝は血を養うところである。肝血虚となれば肝火は旺盛となり、肝気横逆する、すなわち気実(気滞)である。有余ならばすなわち瀉法するということで世を挙げて肝を瀉法することばかり言うようになり、このため「肝に補法なし」と言う人までいるありさまである。

肝気が余れば補法してはいけない。補すれば気滞となり気は舒(の)びやかでなくなる。肝血不足すれば筋肉のこむらがえり、ひきつけ、けいれんなどが起こり、爪がもろくなり、めまいがして、頭痛がして、脇肋痛や少腹痛や疝痛となる。およそこれらは肝血が栄養できなくなった虚証の結果であるのに、どうして補法していけないことがあろうか。そして肝血を補うには腎水を滋養するののが一番である。腎水は肝木の母であり、母を強くすれば子も強くなる。これをもって腎陰を滋養するのである。

これは、肝血虚兼肝欝気滞に対する治療法のセオリーの一つです。虚証がきつくて太衝(LR3)など肝経に刺鍼できない場合、肝経を使うと調子が悪くなる場合に腎経や胃経や他の経絡を使ったほうが良かった例もあり、少数穴で治療する場合に「肝病を胃から治療する」「肝病を腎から治療する」治療法は使えると思います。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする