澤田流鍼灸と過敏性腸症候群(IBS)

2014年の近藤哲哉先生と川本正純先生の論文
「ストレス関連疾患の鍼灸」
Acupuncture and moxibustion for stress-related disorders.
Kondo T, Kawamoto M.
Biopsychosoc Med. 2014 Jan 24;8(1):7.

以下、引用。

五藏六腑を調和させるのが太極療法の意味である。20世紀初め、日本の鍼灸師、澤田健は最初に『澤田流太極療法』とよばれるホリスティック治療を発達させた。

中枢神経システムとは離れたところで、天枢(ST25)と上巨虚(ST37)の鍼はラットにおける過敏性腸症候群の慢性の内臓過敏を緩和させた。この研究において腸組織におけるセロトニン代謝の変化が観察された。天枢(ST25)は慢性ストレスによる交感神経ペプチドであるニューロペプチドYの増加を予防する。

最近、過敏性腸症候群(IBS)患者の右背側前頭眼野の活性化とストレスによる内臓過敏が報告されている。fMRでは過敏性腸症候群の患者の前頭前野の活性化がみられている。

焦氏頭鍼の理論では、大脳皮質の機能局在の理論によって頭の領域を刺激する。前頭部の領域の鍼は皮下のグルコース代謝を変化させることが報告されている。興味深いことに焦氏頭鍼の胃区と腸区は右背側前頭眼野に相当する。この領域の頭鍼は右背側前頭眼野に影響する。そして、過敏性腸症候群においてこの領域を刺激するのは合理的なことである。

【頭皮鍼・澤田流鍼灸】

「ストレス性疾患に対する鍼灸」
近藤 哲哉
『心身医学』2015 年 55 巻 1 号 p. 84-

以下、引用。

過敏性腸症候群に有効なのは前頭の頭皮への刺激である。これは 頭皮針といい、直下にある皮質への効果が期待されている。興味深いことにこの直下にある右背側前頭眼野は過敏性腸症候群における内臓感覚の異常に関係しているという報告がされている。

2016年の中国の過敏性腸症候群の針灸治療の論文を読んでいると、頭皮鍼、口鍼、眼鍼、印堂などやたらと前頭部から顔面部のツボを使う特殊鍼法が有効であったという報告が目立ちました。

「過敏性腸症候群に対しては頭皮鍼や顔面部の鍼が有効なのではないか」と仮説を立ててリサーチしたら、案の定、過敏性腸症候群と前頭部の右背側前頭眼野が関連しているという論文が存在しました。

焦順発先生が開発した頭鍼の胃区や腸区のあたりが右背側前頭眼野あたりになるようです。松本岐子先生の背外側前頭前野皮質賦活治療を思い出しました。

焦順発先生の焦氏頭皮鍼は運動区、感覚区、舞踏震戦抑制区、暈聴区、言語二区、言語三区(=感覚性失語)、運用区、足運感区、視区、平衡区、胃区、肝胆区、胸腔区、生殖区、腸区という16の刺激区から成り立ちます(2009年に出版された第2版では19の刺激区)。

焦順発先生の文献は中国で買い集めましたが、YNSAのA点B点C点D点E点が使いやすく効果が高いので、焦氏頭皮鍼に腸区があることも忘れていました。覚えなおします。

中国の論文「頭皮鍼療法の起源と発展」によると、最初に中国で掲載されたのは1958年『上海中医雑誌』に代田文誌先生が百会や前頂で足底痛を治療したという記述だそうです。焦氏頭皮鍼の足運感区の近くです。

『鍼灸臨床生情報』の中に沢田流の謎の頭皮鍼の使い方がたくさん書かれているので研究したことがあります。

1970年代に焦順発先生の焦氏頭皮鍼、方雲鵬先生の方氏頭皮鍼、湯頌延先生の湯氏頭皮鍼がありました。

1973年に日本の山元敏勝先生が焦氏頭皮鍼の追試からYNSAを日本良導絡自律神経学会で発表されました。

1984年からこれらの頭皮鍼の標準化のための「頭鍼穴名国際標準化方案」が提案されていますが、定着していません。

1987年に朱明清先生が朱氏頭皮鍼でブームを起こします。朱明清先生は気功や手法を強調しましたが、焦順発先生は神経外科医でツボや経絡は知らなかったそうです。方雲鵬先生も外科医です。特に焦順発先生は神経外科医としての立場で脳の機能局在から頭皮鍼をつくり、メディカル・アキュパンクチャー(西洋医学的鍼)です。

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