現在の中医学の弁証論治研究

2018年11月9日
「現代中医弁証体系の変化と発展研究」
现代中医辨证体系的变化与发展研究
王慧如,刘哲,王维广
『中国中医基础医学杂志』

秦伯未先生の1930年出版の『診断学講義』が最初の「中医診断学」の文献のようです。これは『秦伯未国医基礎講義』に収録され、2017年5月に出版されたようです。

また、叶劲秋先生が1937年に『中医診断学』を出版しているそうです。姜春華先生も、1947年に『中医診断学』を出版しているそうです。

「臓腑弁証の地位の向上」によると、第1版(1960)の教科書では「臓腑経絡病証」として臓腑弁証と経絡弁証はまとめられていました。わけられるのは後の時代です。どんどん臓腑弁証の地位は上がっていき、経絡弁証は片隅に追いやられていきます。

第2版(1964年)では、心の病証は『心虚証』のみでした。

第3版(1974年)では心気虚、心陽虚、心陰虚、心血虚の4種類に虚証が増加し、痰擾心神(たんじょうしんしん)が痰火擾心(たんかじょうしん)と痰蒙心神(たんもうしんしん)に変化し、心血瘀阻(しんけつおそ)が加わります。

第5版(1984年)では心血瘀阻は心脉痹阻(しんみゃくひそ)と名前が変わります。私はこの第5版の教科書派になります。

第6版(1995年)では心陽虚脱、瘀阻脳絡(おそのうらく)が増えました。瘀阻脳絡は明らかに西洋医学です。

以心之证候为例, 二版教材中所出现的“心虚证”在三版中则增加为“心气虚”“心阳虚”“心阴虚”“心血虚”4个证型, “痰扰心神”证变为“痰火扰心”“痰蒙心神”, 还新加入了“心血瘀阻”这一证型;五版教材“心血瘀阻”更名为“心脉痹阻”;六版教材中加入“心阳虚脱”“瘀阻脑络”。至此心的证候由最初的4个增加为10个, 一直沿用至九版教材。

世界保健機構(WHO)のICD-11の心臓の臓腑弁証では

(1)心気虚“Heart qi deficiency pattern”
(2)心血虚“Heart blood deficiency pattern”
(3)心気血両虚“Dual deficiency of heart qi and blood pattern”
(4)心脈瘀阻“Heart meridian obstruction pattern”
(5)心陰虚“Heart yin deficiency pattern”
(6)心気陰両虚“Deficiency of heart qi and yin pattern”
(7)心陽虚“Heart yang deficiency pattern”
(8)心陽虚脱“Heart yang collapse pattern”
(9)心火上炎“Heart fire flaming upward pattern”
(10)火擾心神“Fire harassing heart spirit pattern”
(11)水気凌心“Water qi intimidating the heart system pattern”

となっています。昔は心虚証の一つだけだったのに。わずか50年で11倍に証が増えたわけです。学生さんが可哀想です。

中医学は教育を受けた世代や年次によって使う用語が全く違います。

「新弁証方法の導入」では「第3版(1974年)教材から気血津液弁証が出現した」という凄い記述がありました!

気血津液弁証は曹炳章先生の1916年『重訂通俗傷寒論』第四章·气血虚实と、秦伯未先生の「谦斋医学讲稿」「气血湿痰治法述要」(1960年) から、この教科書第3版の「中医学基础(1974年)」という流れになると思います。

現代中医弁証の歴史を調べてきて、おそらくこの論文が最前線です。個人的意見では、臓腑弁証や気血津液弁証は素晴らしい、臨床でも応用できる発明ですし、中国伝統医学の長い歴史が背景にあります。この道具を使いやすく自分流にカスタマイズするためにその歴史的変遷を知る必要がありました。

私は精神疾患の“DSM”マニュアルなどの西洋医学の疾病分類の概念の変遷を研究したこともあります。西洋医学も時代のパラダイムという色メガネをかけており、その概念の背景を知っている人間と知らない人間ではマニュアルという道具の使い方に大きな差が出るのは確かなことです。

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