暑証の理論:朱丹渓『格致余論』夏月伏陰在内論

金元四大家、朱丹渓の『格致余論』「夏月伏陰在内論(夏月伏阴在内论)」です。

この『格致余論』の理論は「夏バテ(中暑証の陰暑)」の理論として江戸時代の貝原益軒『養生訓』にも引用されています。

人体の気は、冬に気は閉蔵されていますが、冬至に「陰極まれば、陽生じる」で一陽が生じます。

旧暦の寅月、三陰三陽の立春から春の気は昇発します。春の川に雪解け水が溢れるように、経脈にも気が溢れます。

夏はさらに気が上昇し、気は孫絡や肌肉にあります。腠理(そうり=汗腺)は開き、汗が出ます。

秋は気は皮毛に上りきり、脈はそれを反映して浮脈となります。そして陽気が皮毛に上昇しきると「陽極まれば、陰が生ずる」理論から腹中に「一陰」が産まれます。だからお腹が冷えやすくなります。

ですから、この季節は「お腹を冷やさない」「灸で身体を温める」のが養生法になります。 お勧めなのは、「神闕(へそ)の塩灸」です。貝原益軒『養生訓』では「この季節は汗腺が開ききって風邪が皮毛から入りやすいのでお灸で風を予防する」と論じられています。

子月(12月22日~)一陽五陰:冬至・小寒

丑月(01月20日~)二陽四陰:大寒・立春

寅月(02月19日~)三陽三陰:雨水・啓蟄

卯月(03月21日~)四陽二陰:春分・清明

辰月(04月21日~)五陽一陰:穀雨・立夏

巳月(05月21日~)六陽無陰:小満・芒種

午月(06月22日~)五陽一陰:夏至・小暑

未月(07月23日~)四陽二陰:大暑・立秋

申月(08月23日~)三陽三陰:処暑・白露

酉月(09月23日~)二陽四陰:秋分・寒露

戌月(10月24日~)一陽五陰:霜降・立冬

亥月(11月23日~)無陽六陰:小雪・大雪

以下、朱丹渓『格致余論』「夏月伏陰在内論」より引用。

子月(冬至)に一陽が生まれ、陽気は初めて動く。

寅月(立春以降)三陽が生まれ、陽気は初めて地表に出る。

巳月(夏至前)は六陽が生じて陽は上にのぼりきっている。人体の気は浮いている。人の腹は地気に属し、気は浮いて肌表にあり、皮毛に発散しており、腹中は虚となっている。黄帝内経が言うには、夏月に経脈は充満し地気も溢れ満ちる。気は経絡に入って血が充満すると皮膚も充実する。長夏に気は肌肉にあり表実となる理由である。表実となると裏は必ず虚す。

明代、張介賓、『景岳全書』には「夏月伏陰続論」があり、さらに中暑証を論じています。

明代、朱丹渓の学説を継ぐ汪機の『鍼灸問対』では朱丹渓の学説を論じています。
以下、『鍼灸問対』巻之下より引用。

朱丹渓が言うには、夏月に陽気は体表に浮いている。今の医師は艾で火を焼灼する。多くは夏月である。

黄帝内経が言うには、春夏は陽気を養う。火をもって陽気を養うと言うことだ。

清代、上海の鍼灸家、李培卿先生が伏鍼と伏灸を提唱したそうですが、李培卿先生は元代の朱丹渓先生と明代、汪機先生の『鍼灸問対』の論説を参考にされたそうです。

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