接触感染予防

2019年3月1日『接触感染予防の終わりの始まり?』
神戸大学微生物感染症学講座感染治療学分野教授 岩田健太郎

以下、引用。

例えば、接触感染予防。これは薬剤耐性菌を持っている患者のケアをするとき、手指消毒などの標準予防策では薬剤耐性菌を伝播してしまう(かもしれない)ため、追加して行われる予防策だ。具体的にはガウンを着たり、手袋を着けたりして、物々しい格好になって患者をケアする。終わったら脱ぐ。患者を診るときにはまた同じことをする。

よって、大量の脱ぎ捨てたガウンと手袋が発生する。これらは感染性廃棄物として処理されるが、その量たるや大変なものになる。環境感染学会は一番環境に優しくない、というブラックジョークはここから生まれる。

だが、問題は、だ。「こうした接触感染予防策、ちゃんと結果出しているの?」という点である。モノとヒト。多大なリソースを使い、コストをかけて対策を行っているのだから、ちゃんと耐性菌や感染症の減少に寄与していなければならないのだが、そこんとこのエビデンスはどうなってるの?

いずれも接触感染予防中止は該当する菌の感染症を増やさず、むしろ減らす傾向にあり、VREは有意に減っていた。

接触感染予防やめよーぜ!の研究は、最近たくさん出ている。MRSAとESBL産生菌をターゲットにしたICUでの接触感染予防中止の前後比較や、MRSAとVREをターゲットにした介入時系列解析(ITSA)が報告されており、いずれも接触感染予防やめてもいいみたいよ、な結果が出ている。

真夜中にたくさん素振りをしたバッターの方が偉い、炎天下で延長も投げ抜いて肩を壊すピッチャーが偉い、的なアマチュアリズムは、プロの世界にはそぐわない。プロはむしろ、(いい意味で)「いかに手抜きしながらも結果を出す」かが大事である。努力は手段であり、目的ではない。ダウンサイズできるところはダウンサイズする。結果に影響しない無駄な苦労はしない。

鍼灸の際にアメリカのドライニードリングをする理学療法士(PT)のような青いグローブをしている人をみるたびに「やっている感を出している・・・」という感想を持っていました。

大阪大学のウイルス免疫学教室の微生物学の専門家の先生に「エボラウイルスの調査に気密性の高い宇宙服を着るのはアマチュアの証明です。海外のテレビをみればわかりますが、プロの免疫学者は半そでシャツでグローブもしないです。健康な肌が最強のバリアーであり、アルコール消毒やグローブすると皮膚が荒れて感染症を起こしやすくなります」と教えていただきました。もちろん、法律で消毒義務があるので私は刺鍼の際は消毒しますし、手に傷がある場合はグローブや指サックをしますが、できるかぎり非合理行動はしないようにしています。

2000年代のカリフォルニア州では寿司を握るのも透明プラスティック・グローブでした。
しかし、2007年からアメリカでも考え方が変化してきました。

以下、アメリカCDC論文「食品産業労働者の手の消毒プラクティスに関する要素」(※1)より引用。

手洗いとグローブ使用は相互に関連しており、手洗いは、グローブを使用している活動では、より少なくなる傾向がある。

※1:「食品産業労働者の手の消毒プラクティスに関する要素」
Factors related to food worker hand hygiene practices.
J Food Prot. 2007 Mar;70(3):661-6.

今では寿司もグローブをはめて握るのは非合理行動と思われています。

昔、アメリカの理学療法士(PT)さんたちは「東洋医学の鍼師は不衛生で西洋医学を知らない。ドライニードリングは科学的で西洋医学に基づいており、安全」と言っていました。ところが、EBM調査をしたら違いました。理学療法士がドライニードリングをした場合の事故率は19.18%、5人に1人で、鍼師の事故率は0.14%でした。

2014年「トリガーポイント・ドライニードリングの有害事象:理学療法士の調査」
Adverse events following trigger point dry needling: a prospective survey of chartered physiotherapists.
Brady S1, McEvoy J2, Dommerholt J3, Doody C1.
J Man Manip Ther. 2014 Aug;22(3):134-40.

2015年11月12日イギリスの新聞『ガーディアン』
「グローブ手袋に『ノー』と言おう:なぜ私は寿司を素手で握って欲しいのか?」
Say no to gloves: why I want my sushi prepared with bare hands

以下、引用。

私は寿司職人がグローブ手袋をつけているような店からは出て行く。2010年『ジャーナル・オブ・フード・プロテクション』の論文の記述によれば、グローブ手袋をつけた手は素手の手のひらや指よりもより汚染されていたと言うのが理由だ。グローブ手袋はニセモノの安全感覚を創り出し、その結果として交差感染のハイリスク行動となるからである。

素手で寿司を握る職人のお店に行くのは考えたら当たり前の話ですが。

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