マリア・ブロム先生のシェーグレン症候群と口腔乾燥症の鍼治療研究

スウェーデン人でストックホルムで開業されているマリア・ブロム先生は歯科医師・医学博士・認定鍼灸師です。シェーグレン症候群、口腔乾燥症の鍼の研究の知識は、西洋医学的鍼の研究をするなら必須の知識となります。

人間における軸索反射の理論は、マリア・ブロムさんという研究者のシェーグレン症候群や口腔乾燥症の研究が大きなキーポイントとなりました。スウェーデン、カロリンスカ研究所のマリア・ブロム先生は1992年頃にシェーグレン症候群の鍼治療の研究を始めました。

1992年マリア・ブロム論文
「口腔乾燥症患者の唾液流量における鍼の効果」
The effect of acupuncture on salivary flow rates in patients with xerostomia.
Blom M, Dawidson I, Angmar-Månsson B.
Oral Surg Oral Med Oral Pathol. 1992 Mar;73(3):293-8.

口腔乾燥症11人を鍼治療、10人をプラセボ治療として比較したもの。

1993年9月マリア・ブロム論文
「頭頸部の放射線治療による口腔乾燥症の鍼治療:症例報告」
Acupuncture treatment of xerostomia caused by irradiation of the head and neck region: case reports.Blom M, Dawidson I, Angmar-Månsson B.
J Oral Rehabil. 1993 Sep;20(5):491-4.

放射線治療による口腔乾燥症患者2人を2年間フォローアップした症例報告。

1993年9月マリア・ブロム論文
「シェーグレン症候群による口腔乾燥症を鍼で刺激した際の局所血流への効果」
Effects on local blood flux of acupuncture stimulation used to treat xerostomia in patients suffering from Sjögren’s syndrome.
Blom M, Lundeberg T, Dawidson I, Angmar-Månsson B.
J Oral Rehabil. 1993 Sep;20(5):541-8.

この研究からカロリンスカ研究所を代表する鍼灸研究者のトーマス・ルンドベルクが研究に参入します。トーマス・ルンドベルクは1989年に鍼をするとサブスタンスPやカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)が増加して局所血流が増えることを実験で最初に証明した科学者です(※1)。

※1:1989年ルンドベルク論文「鍼と感覚ニューロペプチドは、ラットの皮膚血流を増加させる」
Acupuncture and sensory neuropeptides increase cutaneous blood flow in rats.
Jansen G, Lundeberg T, Kjartansson J, Samuelson UE.
Neurosci Lett. 1989 Feb 27;97(3):305-9.

1996年5月マリア・ブロム論文
「放射線副作用による口腔乾燥症患者への鍼治療」
Acupuncture treatment of patients with radiation-induced xerostomia.
Blom M1, Dawidson I, Fernberg JO, Johnson G, Angmar-Månsson B.
Eur J Cancer B Oral Oncol. 1996 May;32B(3):182-90.

鍼治療群20人、プラセボ群20人で放射線治療を受けて口腔乾燥症となった患者に鍼治療を行うと1年間で20%の唾液流量の改善を示した。

1997年3月マリア・ブロムとルンドベルクの論文
「健康被検者の唾液流量への鍼の影響」
The influence of acupuncture on salivary flow rates in healthy subjects.
Dawidson I, Blom M, Lundeberg T, Angmar-Månsson B
J Oral Rehabil. 1997 Mar;24(3):204-8.

鍼の手技、電気鍼ともに局所血流の改善を引き起こし、唾液流量を増やしたが、これはCGRPやサブスタンスPなどのニューロペプチドと考えられると示唆した論文。鍼の手技の重要性を示唆した最初の論文。

1998年12月マリア・ブロムとルンドベルクの論文
「鍼の感覚刺激は、血管拡張性腸管ポリペプチドの放出を増やすことで、口腔乾燥症患者の唾液を増やす」
Sensory stimulation (acupuncture) increases the release of vasoactive intestinal polypeptide in the saliva of xerostomia sufferers.
Dawidson I, Angmar-Månsson B, Blom M, Theodorsson E, Lundeberg T.
Neuropeptides. 1998 Dec;32(6):543-8.

シェーグレン症候群の鍼治療で唾液流量が増えた患者はVIP(血管拡張性腸管ペプチド)の濃度も有意な増加があった。

1999年6月マリア・ブロムとルンドベルク論文
「鍼の感覚刺激は、口腔乾燥症患者の唾液においてカルシトニン遺伝子関連ペプチドCGRPを増加させる」
Sensory stimulation (acupuncture) increases the release of calcitonin gene-related peptide in the saliva of xerostomia sufferers.
Dawidson I1, Angmar-Mânsson B, Blom M, Theodorsson E, Lundeberg T
Neuropeptides. 1999 Jun;33(3):244-50.

口腔乾燥症患者の唾液流量増加はカルシトニン遺伝子関連ペプチドCGRPの増加と因果関係があることを示唆した最初の論文。

1999年5月マリア・ブロムとルンドベルク論文
「ピロカルピンによる鍼治療で口腔乾燥症を治療して長期的に緩解する患者を予測する」
Prognostic value of the pilocarpine test to identify patients who may obtain long-term relief from xerostomia by acupuncture treatment.
Blom M1, Kopp S, Lundeberg T.
Arch Otolaryngol Head Neck Surg. 1999 May;125(5):561-6.

実際に治療に使われた治療穴である巨りょう(ST3)、大迎(ST5)、頬車(ST6)、下関(ST7)、扶突(LI18)、天窓(SI16)、天容(SI17)、翳風(TE17)、合谷(LI4)、三間(LI3)、外関(TE5)、曲池(LI11)、内関(PC6)、神門(HT7)、足三里(ST36)、足臨泣(GB41)、太衝(LR3)、三陰交(SP6)、太溪(KI3)、水泉(KI5)が書かれている。

2000年6月マリア・ブロムとルンドベルク論文
「口腔乾燥症の鍼治療と付随的治療の長期的フォローアップ」
Long-term follow-up of patients treated with acupuncture for xerostomia and the influence of additional treatment.
Blom M, Lundeberg T.
Oral Dis. 2000 Jan;6(1):15-24.

32歳から82歳の70人のシェーグレン症候群の患者を鍼治療群と無治療群に分けて比較した。鍼治療群は、唾液流量が有意に増加していた。

これらの1992年から2000年のマリア・ブロム先生とトーマス・ルンドベルク先生の口腔乾燥症やシェーグレン症候群の鍼治療の研究は、鍼と軸索反射に関する研究の基礎となりました。

鍼によって末梢組織の求心性線維の侵害受容器が刺激された時、血管拡張性のニューロペプチドが周囲の筋肉や皮膚に放出されます。これは軸索反射として知られ、鍼の局所効果の基礎となります。人間の皮膚にはCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)やサブスタンスPが含まれます。CGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)やサブスタンスPが放出されると局所の血流は増加し、鍼の周りが赤くなるフレア反応が起こります。この局所血流の増加は損傷した組織の治癒を促します。この研究を始めて人間で行ったのがスウェーデンのマリア・ブロム先生であり、それはシェーグレン症候群や口腔乾燥症の患者で行われました。

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