鍼のグルタミン代謝への影響と精神機能

2019年2月12日『精神医学フロンティア』
「うつ、不安、統合失調症およびアルツハイマー病におけるグルタミン酸ニューロトランスミッション神経伝達における鍼の効果:文献レビュー」
The Effects of Acupuncture on Glutamatergic Neurotransmission in Depression, Anxiety, Schizophrenia, and Alzheimer’s Disease: A Review of the Literature
Cheng-Hao Tu,et al.
Front Psychiatry. 2019; 10: 14.
Published online 2019 Feb 12. doi: 10.3389/fpsyt.2019.00014

これは読んでいて感動しました。最近、日本では報道されませんが、英語圏の一流医学雑誌では次々と「抗うつ薬の効果はプラセボ程度」という論文が発表されており、「セロトニン仮説」「モノアミン仮説」は崩壊寸前というか、ほぼ崩解しています。

それらの事情を踏まえた上で、グルタミン代謝におけるNMDA型グルタミン酸受容体やAMPA型グルタミン酸受容体への鍼の作用を臨床試験や動物実験からレビュー考察されています。

以下、引用。

【結論】まとめると、エビデンスは鍼治療がうつ病、不安障害、統合失調症、アルツハイマー病をふくむ神経精神疾患に効果があるかも知れないことを示している。これらの精神疾患の病理生理学によれば、グルタミン酸不全は高率のグルタミン放出とグルタミン受容体と中枢神経におけるグルタミン・トランスポーターの発現の上昇と関連している。鍼刺激はグルタミン受容体および興奮性アミノ酸トランスポーター(EAAT)発現を調整し、それは調節不全のグルタミンシステムに介入することによって鍼の治療効果を支えているのである。

基礎研究、動物実験のレベルでは、グルタミン酸代謝への鍼の効果の証拠はどんどん強くなってきています。

2018年「電気鍼は、アルツハイマー病モデルAPP/PS1マウスのNアセチルアスパラギン酸とグルタミン酸代謝による学習と記憶を改善します」
Electroacupuncture ameliorate learning and memory by improving N-acetylaspartate and glutamate metabolism in APP/PS1 mice.
Lin R et al.Biol Res. 2018 Jul 6;51(1):21. doi: 10.1186/s40659-018-0166-7.

幻覚・暴言・攻撃的行動・不安といった認知症の周辺症状に使われる抑肝散の作用機序がグルタミン酸代謝におけるNMDA受容体への作用であることが判明してきました。

「抑肝散はグルタミン酸による神経毒性に対して保護作用を示す」
小西 徹『ファルマシア』2015 年 51 巻 8 号 p. 802

2018年3月4日コクランレビュー「うつ病の鍼」
Acupuncture for depression.
Smith CA et al.
Cochrane Database Syst Rev. 2018 Mar 4;3:CD004046.
doi: 10.1002/14651858.CD004046.pub4.

以下、引用。

鍼のうつ病治療の効果は広範囲に調べられている。最近のコクランレビューは64の研究で7,104人の患者を含めて鍼治療のうつ病への効果を調べている。鍼治療のエビデンスは深刻なうつ病への効果は中程度か、またはわずかに低い。研究の質はほとんどが低いか非常に低い。ほかのレビューでは手技鍼と電気鍼は効果的で、安全で、単独治療よりは容認できる。しかし、エビデンスは鍼を抗うつ剤と併用は支持していない。

なにより、うつ病患者の睡眠は鍼治療で改善する。最近の18のランダム化比較試験と1678人の患者を含むメタアナリシスは鬱に関連した不眠の睡眠の質を西洋医学よりも改善した。

2017年ヒュー・マクファーソンの論文「慢性痛とウツ病のプライマリケアにおける鍼:研究プログラム」
Acupuncture for chronic pain and depression in primary care: a programme of research.
MacPherson et al.
Southampton (UK): NIHR Journals Library; 2017 Jan.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/28121095

2013年ヒュー・マクファーソン「うつ病のプライマリケアにおける鍼とカウンセリング:ランダム化比較試験」
Acupuncture and Counselling for Depression in Primary Care: A Randomised Controlled Trial
Hugh MacPherson
PLoS Med. 2013;10(9):e1001518. doi: 10.1371/journal.pmed.1001518. Epub 2013 Sep 24.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24086114
※鍼とカウンセリングは、標準的ケアよりも効果がある。

2016年「うつ病の針灸治療の弁証治療のルールの文献研究」
针灸治疗抑郁症辨证治疗规律的文献研究
赵晓阳 《长春中医药大学》 2016年
※肝郁气滞型、心脾两虚型、肝郁脾虚型、肝肾阴虚型

【統合失調症】

中国語では「精神分裂症」、中医学では「癲狂」

以下、引用。

【統合失調症の鍼治療】
Acupuncture for the Treatment of Schizophrenia

うつ病や不安症と比較して、比較的に鍼の統合失調症の効果を調べた研究は少ない。13のランダム化比較試験、954人の患者を含むメタアナリシスは全て中国のものであり、鍼の効果にポジティブなエビデンスを提供している。

2014年コクランレビュー「統合失調症の鍼」
Acupuncture for schizophrenia.
Shen X et al.
Cochrane Database Syst Rev. 2014 Oct 20;(10):CD005475. doi: 10.1002/14651858.CD005475.pub2.

2010年「統合失調症の針灸治療の臨床現状と思考」
针灸治疗精神分裂症的临床现状与思考
徐天朝 苏晶 《中国中西医结合杂志》 2010年11期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-ZZXJ201011004.htm
http://www.cjim.cn/zxyjh…/zxyjhcne/…/reader/create_pdf.aspx…

【双極性障害】
中国語では「躁狂症」、中医学では「癲狂」

2009年アメリカ、パデュー大学
「急性の双極性障害への付加的な治療としての鍼の安全性、受容、効果」
The safety, acceptability, and effectiveness of acupuncture as an adjunctive treatment for acute symptoms in bipolar disorder.
Dennehy EB
J Clin Psychiatry. 2009 Jun;70(6):897-905. doi: 10.4088/JCP.08m04208. Epub 2009 May 5.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19422756

【てんかん】
中医学では「癇病」または「羊癇風」

2014年コクランレビュー「てんかんの鍼」
Acupuncture for epilepsy.
Cheuk DK
Cochrane Database Syst Rev. 2014 May 7;(5):CD005062. doi: 10.1002/14651858.CD005062.pub4.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/24801225

2018年「てんかんの針灸治療の機序研究の概況」
针灸治疗癫痫的作用机理研究概况
吴立群 邹小秋 李荣蓉 谢丹 李可欣 汤顺莉 易玮
《江苏中医药》 2018年02期
http://www.jstcm.cn/ch/reader/create_pdf.aspx…

【ヒステリー】
脏躁、癔症
针灸治疗癔病的临床进展
麻春晴 《2001年全国中西医结合急救医学学术会议论文集》2001年
http://cpfd.cnki.com.cn/Arti…/CPFDTOTAL-ZGZP200109002304.htm

针刺治疗脏躁86例
孙涛 郭玉荣 《针灸临床杂志》 1997年12期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-ZJLC199712040.htm

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