新型コロナウイルスの潜伏期間

2020年2月10日『科学技術新報』
「鐘南山:新型コロナウイルスの最長潜伏期間は24日間で、CTの診断確率は70パーセント」
鍾南山:新冠病毒最長潛伏 24 天,CT 準確率 7 成


中国政府の新型コロナウイルス対策チームのリーダーである鐘南山先生が、1099例の症例をチームで分析した論文をmedRxivに発表しました。


2020年2月10日「中国での2019新型コロナウイルス感染症の臨床的特徴」
Clinical characteristics of 2019 novel coronavirus infection in China
Nan-shan Zhong(鐘南山)et al.
https://www.medrxiv.org/conte…/10.1101/2020.02.06.20020974v1
※ The median incubation period was 3.0 days (range, 0 to 24.0 days).

1. 潛伏期中位數 3.0 天:從確診 1,099 例樣本看,潛伏期最短 0 天,有個案最長可達 24 天,中位數 3 天;研究顯示,潛伏期要比此前所發現的「更短」。
2. 不能排除「超級傳播者」的存在。
3. 發燒不是檢測唯一標準:只有 43.8% 的新型冠狀病毒患者,會在「早期」出現發燒症狀,但住院後出現發燒症狀的占 87.9%;因此,檢測病毒感染患者病例,不能過分側重於是否發燒。
4. 電腦斷層(CT)準確率 76.4%:840 名樣本病人在入院時接受胸部 CT 檢查,其中 76.4% 表現為肺炎;最常見的 CT 特徵為毛玻璃樣陰影、或雙側出現斑片狀陰影。
5. 診斷需多管齊下:926 例重症患者裡的 221 例(23.87%),和 173 例非嚴重患者裡的 9 例(5.20%),並沒有放射學異常表現,最後透過症狀和 RT-PCR 陽性結果確診(P<0.001);在診斷方面,需要多管齊下。
6. 6. 肺炎是住院最常見併發症:肺炎占 79.1%,其次是急性呼吸窘迫症候群(ARDS)占 3.37%,休克占 1.00%;嚴重病例的併發症發生率 94.8%、「明顯高」於非嚴重病例的 72.2%。
7. 「糞─口」傳播具可能性:透過胃腸道分泌物的傳播,可能在病毒的快速傳播中起了作用。
8. 人口學統計:病例中位數年齡 47 歲(女性 41.9%)。醫護人員占樣本 2.09%,有野生動物接觸史 1.18%,近期到過武漢 31.3%,有接觸過武漢人 71.8%。武漢市本地居民 483 例、占樣本數 43.95%,武漢以外地區 26.0% 的患者,最近未去過武漢或跟武漢人接觸。

特に以下の部分が衝撃的でした。

以下、引用。

特筆すべきは、初期症状の患者の43.8%にのみ発熱が起こり、87.9%は入院したということである。新型コロナウイルスにおける(初期の)発熱の欠如は、SARSコロナウイルスやМERS中東呼吸器症候群コロナウイルスの発熱の欠如と比較して顕著である。

2020年2月7日 『アメリカ医師会雑誌(JAМA)』
「中国、武漢以外の13人の新型コロナウイルス感染の疫学と臨床の特徴」
Epidemiologic and Clinical Characteristics of Novel Coronavirus Infections Involving 13 Patients Outside Wuhan, China
De Chang, MD, PhD
JAMA. Published online February 7, 2020.
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2761043
※Symptoms included cough (46.3%), upper airway congestion (61.5%), myalgia (23.1%), and headache (23.1%)

咳(46.3%)、上気道症状(61.5%)、筋肉痛(23.1%)、頭痛(23.1%)でした。

2020年2月4日、日本の研究者たちが発表した論文も同じ問題を指摘しています。

「新型コロナウイルス感染の不確実性の割合:日本の避難フライトの乗客データを使った推定」
The Rate of Underascertainment of Novel Coronavirus (2019-nCoV) Infection: Estimation Using Japanese Passengers Data on Evacuation Flights
Hiroshi Nishiura et al.
J. Clin. Med. 2020, 9(2), 419; https://doi.org/10.3390/jcm9020419
Published: 4 February 2020
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32033064

2020年2月10日
「中国武漢から韓国に輸入された2019年の新規コロナウイルス肺炎の最初の症例:感染予防および制御対策への影響」
The First Case of 2019 Novel Coronavirus Pneumonia Imported into Korea from Wuhan, China: Implication for Infection Prevention and Control Measures.
Kim JY et al.
J Korean Med Sci. 2020 Feb 10;35(5):e61.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/32030925

中国、日本、韓国の論文のいずれもが無症候や軽症による見逃し症例を問題視しています。

ここまで書いて、新たな記事が出ました。

2020年2月23日『ロイター通信』
「ウイルス潜伏、中国で27日間の症例 想定より長い可能性」

以下、引用。

 中国・湖北省当局によると、同省で新型コロナウイルスに感染した70歳の男性が感染したと思われる時点から27日間、新型肺炎の症状を示していなかったことがわかった。同ウイルスの潜伏期間はこれまで14日程度とみられていたが、実際にはさらに長い期間である可能性も出てきた。

中国の鐘南山先生は2020年2月10日にМedRxivに発表した衝撃的な論文で中国の1.099症例を分析し、新型コロナウイルス肺炎の潜伏期間は最長24日間に及び、半数は発熱が欠如していると指摘されました。

2020年2月10日МedRxiv
「中国での2019新型コロナウイルス感染症の臨床的特徴」
Clinical characteristics of 2019 novel coronavirus infection in China
Nan-shan Zhong(鐘南山)et al.

この論文を初めて読んだ時は「本当にそう言っていいのか」と思いましたが、現実が追い抜いてしまいました。鐘南山先生の読みの深さに敬服します。

鐘南山先生はSARSの際も隠蔽を続ける政府を批判し、同時に重症のSARS患者さんたちを最前線で治療し続け、その命がけの行動をみた中国の民衆から深く尊敬されています。中国医学界の良心と呼ばれる大人物です。

今回も2020年1月17日に政府に対して新型コロナウイルス肺炎の警告を発し、1月18日には「武漢には近づくな」と一般市民に警告を発しつつ、自らは高速列車に乗って武漢入りし、隠蔽する武漢地方政府を相手にせずに現地の病院を視察して危険な感染状況を見抜くと、すぐさま北京に列車で向かい、政府要人を動かして緊急対策を発動させました。84歳ですよ!中国にはとんでもない大人物がいます。胆力、政治力、学問、医学の実力も圧倒的で人格も素晴らしいです。若い人は鐘南山先生のような人物をみるべきです。

2009年11月20日『 サーチナ』
「中国政府発表はおかしい」…声上げた専門家1人だけとは情けない

以下、引用。

中国青年報は20日、「新型インフルエンザ死亡統計に疑い、なぜまた鐘南山なのか」とのタイトルの論説を発表した。政府発表への異議を唱える専門家が1人しかいないのは「あまりにも少ない」と嘆いた。鐘南山氏は呼吸器疾患などの専門家で、2003年のSARS流行時も早い時期から政府発表に「ごまかしがある」と主張。後になり中国政府も情報の隠蔽があったことを認めた。その結果、中央政府の衛生部部長や北京市長が解任されるなど、中国上層部の人事にも影響が出た。

2014年3月7日『サーチナ』
「2年前にPM2.5警告の「気骨」の専門家に改めて注目=中国」
https://www.excite.co.jp/news/article/Searchina_20140307258/

以下、引用。

2012年の全国人民代表大会でPM2.5の危険性を主張した呼吸器疾患の専門家、鐘南山氏が6日、地元の広東省では当局が大気汚染低減に真剣に取り組んでおり、5年以内に眼に見える効果を出せる可能性があると発言した。鐘氏は2009年に新型インフルエンザが流行した際、当局による「死者数ごまかしの手口」を暴露するなどで「良心と信念にもとづいて発言する気骨の専門家」として信頼されており、同発言に改めて注目が集まった。中国新聞社が報じた。鐘氏は全人代の代表(議員)も務めている。2012年3月の全人代では「人の健康が存在しなければ、GDPをさらに増やしても何の役にも立たない」などと発言して注目を集めた。当時は鐘氏を批判する人も多かったという。

2003年にはSARSの情報を隠蔽する中国政府を批判して北京市長と衛生部部長(日本の厚生労働大臣に相当)をクビにしてしまい、2009年には新型インフルエンザ情報隠蔽をただ一人指摘し、2012年にはPМ2.5を警告して中国社会を批判して「環境問題では政府を批判するだけでは意味がない。誰もが加害者になりうるのだから」と中国社会の在り方そのものまで批判しつつ、「国外の専門家はみな信じていない。しかし私は可能性があると思う。中国は挙国体制で、大事業を推進し奇跡を起こすことができる」と中国の環境問題を真摯に解決しようと努力する不屈の84歳の呼吸器専門医です。「最上の医は国を治す」とは中国の鐘南山先生や日本の中村哲先生のような人物のためにある言葉だと思います。

鐘南山先生は西洋医学の呼吸器専門医ですが、今回、漢方(中医薬)についても発言されています。

2020年2月19日『人民網』
『新型コロナウイルスに関する鐘南山氏の7つの最新観点』

以下、引用。

先ごろ確認された河南省の潜伏期間が極めて長い2症例について、鐘氏は「おかしなことだとは思わない。例外はあるものだ」とした。鐘氏は「これまで1099人の症例に対して行った研究によると、潜伏期間はだいたい2日から7日だったが、論文には忠実に0日から24日間と書いた。24日間に達した症例が1例、14日を超えた症例が13例あり、大多数も少数も合わせて考慮する必要があるからだ」と説明した。

>中医薬での治療は効果があるか?
【有効であることが証明されれば、中医薬は安心して使用可能】
鐘氏は「中医薬の実験室における新型コロナウイルスへの効果を重視している。エビデンスが得られれば中医薬を安心して使うことが可能になる。特に早期・中期患者に対しては使用できる」と述べた。鐘氏はさらに「中医薬についてはウイルスの細胞への侵入を本当に減らせるのか、サイトカインストームの発生を減らせるかについて実験室で検証を行うことが必要だ。それによって中医薬の使用にエビデンスとガイドラインを提供できる」とした。

>新型コロナウイルス感染者の遺体解剖の意義は?
【SARSとの違いがすでに判明】
鐘氏は「新型コロナウイルスに感染して死亡した患者の遺体解剖は重要だ。17年前のSARS患者の遺体解剖では肺がどのように病変するのかが判明し、肺以外の全身の臓器へのウイルスの影響状況も分かった」と指摘した。

鐘氏は「現在広東省では関連資料を入手しており、新型コロナウイルス感染患者の症状がSARSとは多少違っていることが分かった。たとえば肺には想像したほど深刻な繊維化が起こっていなかったが炎症がひどく、大量の粘液があった。これは臨床上の所見と合致しており、一部の患者は痰がそれほど多くないものの非常に粘り気があり、正常な呼吸が妨げられていた」と説明した。

鐘氏は「現在、新型コロナウイルス感染による肺炎は中国全土で減少傾向にあるが、武漢ではそれほど顕著な減少傾向はみられずせいぜい横ばいの状態だ。最も重要なのは、武漢で本当にヒトからヒトへの感染を食い止めるには健康な人と感染者を分け、感染者とインフルエンザ患者を分ける必要があるということだ」とした。鐘氏は「早急に核酸検査とIgM抗体検査を結び付け、鑑定診断率を高め、より迅速に新型コロナウイルス感染とインフルエンザを判別し、特別なルートを通じてまず武漢を支援し、武漢で効果を発揮させ、感染の疑いがある人を減らしていくべきだ」と呼びかけた。

さらに鐘氏は「SARSから17年が経ったが総合抗体はまだ開発されていない。これには時間が必要であり、ワクチンとなるとさらに時間がかかる。現時点では回復した患者の血漿治療は比較的古い方法ではあるが、比較的有効で安全だ。広東省もこの方法で重症者の治療をする予定だ」と述べた。

中医薬(漢方)は早期・中期患者に使用するという認識、中医薬がサイトカインストームの発生を減らせるか検証するという姿勢、新型コロナウイルス肺炎はSARSほどの肺繊維化が起こっていないという情報など鐘南山先生の発言は本当に勉強になります。

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