【新型コロナウイルス】隔離政策にエビデンスは存在しない

2020年2月23日『CоVID-19:未来の日本で何が起こるのか?』
CoVID-19 in Japan: What could happen in the future?
Nian Shao et al.
МedRxiv
Posted February 23, 2020.

これは2020年2月23日に中国の科学者たちが出したシミュレーションです。日本におけるCOVID-19の患者の増加は武漢に似ており、隔離政策をとらなければ武漢で起きたようなアウトブレイクが起こると科学者たちは予測し、すぐに中国の採用したような隔離政策をとるべきだと書かれています。中国の科学者が善意で書いているのは疑いがありません。

中国人の医師の先生とお話ししたところ、「中国はいまだに各都市に結核をはじめとする感染症専門の隔離するための病院が必ずあります。日本のような衛生が行き届いた国よりも隔離に慣れています」とおっしゃっていました。だから、これから書くことはおそらく中国の西洋医師の先生方の受けてきた教育や信念とはかなり反していると思います。

病院での管理された「隔離」は正当ですが、その論理を社会に応用した「検疫=隔離政策」や交通や集会の制限などの「社会的距離を置く」ことに公衆衛生学でのエビデンスはありません。病院と違って社会を無菌にはできません。

2007年『アメリカ公衆衛生学雑誌』
「検疫の意思決定のためのエビデンスと効果」
Evidence and Effectiveness in Decisionmaking for Quarantine
Cécile M. Bensimon,
Am J Public Health. 2007 April; 97(Suppl 1): S44–S48.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC1854977/

以下、引用。

【結論】
検疫のシステムを行うという決定やその効果が科学的な専門用語で単純に決まり切っているように記述されたりすることは正当化できない。その不確実性が満たされることはない。

最近、起こったダイヤモンドプリンセス号の検疫(隔離政策)の大失敗をみれば、人権を制限する隔離政策が機能するかどうかは、直感には反するかも知れませんが、結果は明白です。

今回、多くの国が「旅行の制限(入国禁止)」という政策を採用していますが、これも調べてみると「エビデンスは存在しない」のです。信じがたいかもしれませんが公衆衛生学者はたいてい知っていると思います。

2020年2月23日
「コロナウイルスのような旅行制限のエビデンスは明確である:旅行制限は機能しない」
The evidence on travel bans for diseases like coronavirus is clear: They don’t work

以下、引用。

「旅行制限のようなタイプの対策はウイルス感染の拡大を抑止するには効果的ではない」とシドニー大学でグローバルヘルスセキュリティーを研究するアダム・カムラッド=スコット教授は言う。

これは、シドニー大学の アダム・カムラッド=スコット教授が1980年代のHIV封じ込め、SARS、豚インフルエンザなどの実例をあげて旅行制限がまったくウイルス伝染拡大の抑止に働かなかったことを解説する良記事です。教授は「旅行制限は政治劇場」と表現しています。

2020年1月22日
「武漢のコロナウイルス検疫は効果があるのか?」
Would the Coronavirus Quarantine of Wuhan Even Work?
「おそらく巨大都市をシャットダウンするのは不可能である。そしてシャットダウンしたところで人々とウイルスは抜け道を見つける。」

以下、引用。

「社会的距離(=検疫)」の問題点は、それが機能するというエビデンスがほとんどないことだ」とジョージタウン大学のグローバルヘルス教授であるラリー・ゴスティンは言う。「ほとんどの場合、それはアウトブレイクをほんの短い期間遅らせるだけで、ウイルスの拡大を止めたりはしない。

現在、医療関係者を含めて社会全体がパニックを起こしていますが、パニックが完全に過ぎ去って冷静になった際に、公衆衛生学の専門家の先生方に「隔離政策に堅固なエビデンスはありますか?」と尋ねたら、答えは予測できます。隔離政策にエビデンスは存在しません。

そして、真摯に公衆衛生学を学んできた先生なら、ハンセン氏病の隔離政策が世界中で差別を産んだことを語られるはずです。ハンセン氏病は感染力が弱く、隔離は何の意味もありませんでした。

また、中世ヨーロッパの黒死病ペスト大流行期には「ユダヤ人が毒を広めた」とされ、ユダヤ人はゲットーに隔離され、憂さ晴らしの虐殺の対象となりました。

世界中で精神病の人々は差別され、座敷牢や精神病院に隔離され続けてきました。第二次世界大戦中、ナチスドイツの医師たちは精神病の人たちや知的障害者を「生きる価値のない生命」と表現して積極的に安楽死させ、収容所のガス室に送りました。

最近ではHIVヒト免疫不全ウイルス感染によるAIDS患者は差別され医療にさえ診療拒否されました。HIVは血液を介さなければ感染せず、この診療拒否も何の意味もなかったのです。傷ついた患者さんを医療従事者がさらに追い詰めただけでした。

だからこそ、医療に関わる人間は歴史から学び、隔離政策や人権の制限に対して見識を持つべきです。医学生や医療従事者は先輩医療従事者がいま晒している言動をぜひ心に刻んでいただきたいです。人間は恐怖にかられると、普段言っていることを忘れてしまいます。

普段はエビデンスと唱えていても、口先だけなら「隔離政策にエビデンスは存在しない」という科学的事実を簡単に忘れてしまいます。それは人類が中世から経験的に行ってきた呪術的思考です。隔離政策は因襲的・歴史的に行われてきたことであり、EBMではエビデンスレベル最低の「権威者の意見や臨床経験」に相当します。

非常時にこそ、医療従事者は差別や人権の制限につながるエビデンスに基づかない公衆衛生学ポリシーに対して敏感になるべきです。新型コロナウイルス・アウトブレイクは、ウイルスそのものによる被害よりも社会における人権の状況、差別を悪化させ、経済に甚大な被害をもたらしています。私たちはいまだに中世に生きています。

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