【新型コロナウイルス】社会的距離のエビデンスとコスト

2020年3月18日『ブルームバーグ』
「延長された『社会的距離』はウイルス蔓延を遅らせるが高いコストが必要となる」
Prolonged Social Distancing Would Curb Virus, but at a High Cost

以下、引用。

このような人々を隔離しようという野心的な努力のコストは明白というにはほど遠い。

短期間の「社会的距離(隔離)」でさえ経済的・社会的に修復するのに何年もかかるような亀裂を産む。長い混乱の結果はより重大である。

「トレード・オフが必要であり悪いアプローチは効果よりも害をもたらす」とイギリス・スターリング大学の生物学的モデリング・グループの首席研究者であるサヴィ・マハラジは述べる。

社会的距離のコストはものすごく高くなる。

「ウイルス流行のカーブの平坦化はものすごく流行期間を長くする。そして社会的距離の期間も長くなる。現実世界では(病院の隔離室と違い)完全なロックダウン閉鎖というのはありえない。わたしたちが生きている社会も完全に閉鎖できない。たとえ、わたしたちの国イギリスが完全に閉鎖されたところで、ウイルス感染が再燃するのを防ぐことができるのか?という疑問が残る」とサヴィ・マハラジは述べる。

スターリング大学の研究者が何を根拠に言っているかはわかります。世界中の新聞記事が隔離やイベント自粛などの「社会的距離」の根拠としている2007年の『アメリカ科学アカデミー紀要』の論文を読んだ人ならわかるはずです。これは公衆衛生学の社会的距離政策における最も基礎となる論文であり、必読です。

2007年『アメリカ科学アカデミー紀要(PNAS)』
「1918年インフルエンザ・パンデミックにおける公衆衛生インターベンション介入と流行の強度」
Public health interventions and epidemic intensity during the 1918 influenza pandemic
Richard J. Hatchett, Carter E. Mecher, and Marc Lipsitch
PNAS May 1, 2007 104 (18) 7582-7587; first published April 6, 2007
https://www.pnas.org/content/104/18/7582

1918年のスペイン風邪の際にフィラデルフィアとセントルイスの流行を比較しました。セントルイスではマックス・スタークロフ医師が劇場やバーや集会をすべて禁止して、学校を閉鎖して、すべてのイベントを中止し、死亡率はフィラデルフィアの半分となり、全米一、スペイン風邪での死亡率が低い街となりました。これが今、世界中の新聞で「社会的距離」のエビデンスとして根拠になっている論文です。ここまではその通りで、社会的距離に関する報道は科学的に100パーセント正しいです。ただ、論文の最後の一文が抜けています。

実際には、緊急のワクチン生産キャパシティが増えるまで、深刻なパンデミックの間、非薬物インターベンション(社会的距離・イベント自粛)は1918年の規範である2週間から8週間以上、維持される必要がある。

今までの公衆衛生学の常識では、社会的距離は8週間、学校休止はイギリス政府の計算では効果を出すには13週間ー16週間(4カ月以上)は必要で、さらに2007年のPNAS論文を読むと、イベント自粛などの社会的距離は確かに流行のピークを下げますが、社会的距離を止めると流行が再燃して「第2の上昇カーブ」があらわれることを明記しています。この第2の上昇カーブについて誰も説明していないのは、私はフェアとは思えません。

スターリング大学の研究者、サヴィさんが言う「ウイルス流行のカーブのピークをカットして平坦化すると流行期間はものすごく長くなる」「わたしたちの社会を完全に閉鎖できない」は、そういう意味なのです。集団免疫がつくまで反復して小流行が繰り返します。

社会的距離政策を採用すると流行期間は長くなる、イギリスの科学者たちはいつまで流行が続くと予測しているのでしょうか。

2020年3月16日シンガポールの新聞『ストレイツ・タイムズ』
「イギリスのコロナウイルス・アウトブレイクは2021年春まで続き、800万人が入院する」
Britain’s coronavirus outbreak to last until Spring 2021 with nearly 8 million people hospitalised: Report

以下、引用。

人口の80パーセントが新型コロナウイルスに12カ月以内に感染すると予測され、15パーセントにあたる790万人が入院を必要とする。イギリスの全人口の5人に4人が感染すると予測される。

2020年3月15日イギリスの新聞『ガーディアン』
「イギリスのコロナウイルス危機では2021年春まで流行が続き、790万人が入院する」
UK coronavirus crisis ‘to last until spring 2021 and could see 7.9m hospitalised’

「公衆にとって12カ月もこれが続くというのは本当に腹が立つし心配になるだろう」とイーストアングリア大学医学部教授のポール・ハンターは言う。「1年も流行が続くという予測は完全に妥当である。しかし、そんなことを誰も聞きたくないし理解したくない」と疫学のエキスパートであるハンターは付け加えた。

イギリスの首席科学顧問であり、公衆衛生政策の責任者のパトリック・ヴァランス先生は猛烈な批判のためメディアに出てこなくなり、イギリスの公衆衛生政策は社会的距離の採用という方針に舵を切ったので、もう社会的距離に関する耳障りの良い話しか出てこないと予測しています。

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