数理疫学の不確定性

2020年3月25日『ガーディアン』
「コロナウイルスはコンピューター・モデリングの問題と落とし穴を露呈した」
Coronavirus exposes the problems and pitfalls of modelling

2020年3月29日にイギリス王立協会ロイヤル・ソサエティはCOVID-19パンデミックのコンピューター・モデルの急速援助(RAМP:Rapid Assistance in Мodelling the Pandemic)の数学モデラ―を急遽、募集しはじめました。疫学データ分析の経験がなくてもオーケーです。

2020年3月29日『イギリス王立学会』
「疫学モデルをサポートする数理モデラ―の緊急募集」
Urgent call for modellers to support epidemic modelling

2020年3月31日にはスコットランド政府が COVID-19パンデミックのスーパーコンピューターのモデラ―を募集し、全世界から100件以上の応募がありました。

2020年3月31日
「スコットランド政府センターはスーパーコンピューターの数理モデラ―を募集した」
Scottish centre for Government supercomputers calls for modellers

現在は「戦争」状態であり、イギリス政府は社会的距離政策の遂行のための 数理疫学のモデラ―を急遽、召集しています。毎日、変わる状況に応じて次々とコンピューター・シミュレーション計算をアップデートしてそれをもとに政策を微調整します。

わたしは最近、この医学分野を勉強してその不確定性を感じています。そして、世界中の数理疫学のモデラ―たちが数理疫学モデルの不確定性について異口同音に同じことを言っているのを聞いて納得しました。

以下、『ガーディアン』から引用。

コロナウイルス・パンデミックから学んだ教訓は、研究者や大学教授たちを数十年も忙しくさせるだろう。それらの教訓で筆頭なのは数理モデリングの価値である。彼らの数理モデルへの無批判な依存はあなたを悪路に迷わせることになる。

オックスフォード大学は数理モデルから先週「既にイギリスの人口の半分にあたる3,400万人がコロナウイルスに感染している」という査読されていない研究を発表して猛烈な批判を浴びました。

2020年3月26日『ガーディアン』
「われわれはCOVID19感染に関するオックスフォード大学研究を信頼できるか」
Can we trust the Oxford study on Covid-19 infections?

以下、『ガーディアン』から引用。

インペリアル・カレッジ・ロンドンの、政府に集団免疫戦略を捨てさせた数理モデルはさらに厄介である。

調べていくと、現在のCOVID19感染予測に関する現存する数理モデルは穴だらけです。

以下、引用。

数理モデルは、公衆政策を実行する際に使えるインプットになるが(多方面からの)三角測量を使う必要がある。情報ソースを複数参照するべきだし、一つに依存してはならない。

イギリスの統計学者、ジョージ・ボックスの言葉は真実であるように聞こえる。「すべての数理モデルは間違っているが、いくつかは使える」

心理学における応用行動分析や社会学における数理社会学を少しでも知っている人なら、数理モデルを人間行動の予測に使うのがどれだけ難しく、不確定かわかると思います。数理疫学者の先生方が「行動変容」という行動科学の用語を使い始めたことで疑問が生じました。

COVID19感染予測に関する数理モデルは単なる思考の道具・材料の一つとみなすのが適切だと思います。複数の数理モデルを組み合わせて思考・推論する必要があり、心理学者や社会学者などのプロの行動科学者の意見も聞いたほうが望ましいです。

カナダの数理モデラ―たちもCOVID-19感染の数理モデルが不確定さを持っていることを指摘しています。

2020年3月24日カナダの新聞『ナショナルポスト』
「数学モデラ―たちはデータ欠損のため感染カーブをフラットにすることは難しいといっている」
Math modellers say lack of data makes curve flattening difficult to predict

以下、引用。

カナダ政府の疾患予測モデリング専門家であるキャロライン・コリジンは数理モデルをシミュレーションしているが、データ不足のため数学者とカナダ政府にとって困難となっている。そして、コリジンが「ノイズだらけ」というデータによって、カナダの新型コロナウイルス感染がどのようになるかを予測するのは困難となっている。「このきれいなグラフの曲線は現実を反映していない」とコリジンは言う。

冷静に考えて多くの不確定要素があります。この記事は、新型コロナウイルスの潜伏期間を一例として挙げています。1カ月の学校休校やレストランやバーの休業、5カ月のロックダウンは流行を何日、遅延させ、ICUの入院者数をどれだけ減らすことができるのでしょうか。そのデータの根拠となる調査は、いつ行われたのでしょうか。もちろん、そんな科学的調査は存在しません。

数理モデルは仮説の上に仮説を重ねたものです。医療専門家の方々は人間行動の数理モデルや行動変容についてふだん考えたことがないので、その不確定性や信頼性の低さについて適切な判断ができないのだと思います。

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