腰痛のヤマグチ・スタディ

2017年9月26日
『「腰痛の8割は原因不明」は間違い 痛み解消最新ポイント』
https://hc.nikkan-gendai.com/articles/214279

以下、引用。

2001年、米国の論文で「原因が明らかでない腰痛が85%」と発表されて以来、腰痛の原因の8割が原因不明という認識が定着した。ところが、山下教授によれば、01年の論文は家庭医によるもので、レントゲンで原因がわからないものをすべて非特異的腰痛とした。

整形外科医が調べればどういう結果が出るのか。16年、山口大学の研究グループが学術雑誌「PLOS one」に発表した研究結果はこれまでの認識を覆すものだった。それは腰痛外来患者320人を対象に「質問票」「X線写真」「整形外科医による身体診察」「神経学的検査」「痛みがある箇所に局所麻酔を注射し痛みが取れるかどうかで痛みの原因を探る診断的ブロック」などあらゆる検査法を駆使して腰痛の原因を突き止めたもので、結果は原因不明の非特異的腰痛が22%、原因を特定できる腰痛が78%、つまり、「原因が明らかな腰痛が8割」であった。この研究では心理的要因(ストレス)だけから起こる腰痛がごく少数であることも明らかになった。腰痛が長引くことで心理的要因が加わるのである。

私は腰痛には鍼灸が1番効くと思っています。論文を読めばわかりますが、圧痛点テストを使ってtender pointを検出して筋筋膜性腰痛を判断できれば、心理的腰痛なんて、ごく少数です。確かにストレスは腰痛の悪化要因ですが、カウンセリングや認知行動療法で筋に圧痛点のある腰痛が治るというのはプラセボです。

2016年「日本での非特異性腰痛の診断の特徴:山口腰痛研究」
Diagnosis and Characters of Non-Specific Low Back Pain in Japan: The Yamaguchi Low Back Pain Study
plosone 2016

現在は、アメリカ心理学会が「政治力」によって「認知行動療法は薬物療法と比較するとやや効果は弱いが改善効果はある」という論理を展開しており、世間はそれを信じているようです。しかし、アメリカ心理学会は同時に「カウンセリングはプラセボ効果とさほど変わらない」という事も認めてカウンセリング前にクライアントに伝えるべきだと心理学専門家だけの倫理委員会では言っています(※1)。ただ、対外的には言っていないので、この情報は臨床心理学の専門家以外は知りません。

※1:「 統合的心理療法とドードー鳥の裁定:心理療法に優劣はない」
斎尾武郎『臨床評価』41巻第2号407ー420
http://cont.o.oo7.jp/41_2/p407-20.pdf

EBMの立場から臨床試験をすると「カウンセリングはやらないよりは、やった方がマシ」「カウンセリングには多くの流派と理論があるが、流派による優劣の差は臨床試験では全く無い」「カウンセリングはやらないよりはやった方がマシだけど、改善率はプラセボ効果とさほど変わらない」などの臨床試験の結果が出ます。

腰痛に対する認知行動療法も、正直に言って、プラセボ効果としか思えないです。もちろんプラセボ効果による心身相関現象は臨床的に重要ですが、「心理的な問題は臨床心理士、筋骨格的な問題は整形外科医や理学療法士というチーム医療」は典型的な心身二元論的アプローチに思えます。

【カウンセリングの科学的検証の歴史】

まず、私の最も尊敬する行動主義心理学者ハンス・アイゼンクは、1952年にデータをもとに「精神分析などの心理療法を受けなくてもクライアントの70パーセントは自然治癒する」と論じました。ハンス・アイゼンクは後に『精神分析に別れを告げよう―フロイト帝国の衰退と没落』という本も出版しています。

この1952年から、世界では心理療法・精神分析・カウンセリングの科学的検証の歴史が始まりました。現在ではフロイトの精神分析は既に過去の理論とみなされています。

1975年にレスター・ルボルスキーが臨床心理学分野における記念碑的論文を発表しました(※2)。その結果は以下の4つにまとめられます。

(1)どんな心理療法を受けても大半のものはなにがしかの効果はある。
(2)コントロール(無治療群)よりは心理療法のほうが優れている。
(3)心理療法の流派の間で有意な優劣の差はみられない。
(4)薬物療法のほうが心理療法よりも優れている。

※2:Comparative studies of psychotherapies. Is it true that “everywon has one and all must have prizes”?
Luborsky L,et al.
Arch Gen Psychiatry. 1975 Aug;32(8):995-1008.
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/239666

カウンセリング心理療法に反応しやすい患者像も実験によって浮かび上がってきました。

以下、引用。

プラシーボ効果が最も発揮されるのは治療に好意的な期待を持ち、治療の象徴を受入れ、それに反応するような患者、すなわち信頼能力のある患者。健康で上流社会階層になる、教育程度の高い、知的で言語化能力のある、動機づけの高いクライアント。

これは、まさに催眠が効くタイプの患者そのものです。

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