許任著『鍼灸経験方』:頭痛と熱証可灸論

李氏朝鮮時代の鍼灸医、許任が1644年に出版した『鍼灸經驗方』です。頭面部の記述は勉強になりました。

「痰厥頭痛の者は必ず頭部に灸する」「灸をすればすなわち熱を発散せしむ」という論述は最近の韓医学鍼灸にはみられない熱証可灸論です。『鍼灸経験方』の記述では、片頭痛に対しては風池(GB20)、頭維(ST8)、本神(GB13)で左なら右を治し、右なら左を治します。これはユニークだと思います。

中医学古典では、元代、王国瑞先生の『扁鵲神応鍼灸玉龍経』にハマって研究しているので、一緒に研究します。


『扁鵲神応鍼灸玉龍経』 偏正头风

头风偏正最难医,丝竹金针亦可施。
更要沿皮透率谷,一针两穴世间稀。
丝竹∶在眉后入发际陷中,沿皮向后透。
率谷∶在耳尖上一寸。针三分,灸七壮。开口剌,痛则泻,眩晕则补。

片頭痛に絲竹空と率谷です。

偏正头风有两般,风池穴内泻因痰。
若还此病非痰饮,合谷之中仔细看。
风池∶在耳后颞 骨筋下入发际,横针一寸半入风府。先补后泻,可灸七壮、二七壮。
合谷∶一名虎口。在手大指次指岐骨缝中,脉应手。直剌入一寸半,看虚实补泻。

痰飲頭痛に風池(GB20)の瀉法と合谷(LI4)です。

朝鮮の許任先生もモンゴル帝国の王国瑞先生もツボのセンスが良過ぎます。

1998年に名著、『灸縄』を書かれた中国の周楣声先生は、1986年に安徽省で大流行した流行性出血熱に対して灸治療をして効果をあげたことで有名になりました。熱証可灸の立場で虚証・実証・寒証・熱証のすべてに灸をしても良いと主張し、1穴か2穴に1時間かけるという異色の灸専門老中医でした。

私はずっと熱証可灸派で、研究会でも「現代中医学の熱証忌灸は空理空論」と主張してきました。2016年あたりから中国でも熱証可灸派の論文が増えてきたのは、空理空論でずっとやってきたけど、実際に熱証に灸法をやってみて問題が無いのに気づいたのだと思っています。

2013年「『熱証可灸』と『熱証忌灸』の思考に関して」
关于“热证可灸”与“热证忌灸”的思考
郭娜 赵建国
《针灸临床杂志》 2013年02期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-ZJLC201302022.htm

2015年「清代以前と清代の熱証可灸の文献記載の初歩的分析」
浅析清代及清以前“热证可灸”的文献记载
申伟 张永臣
《环球中医药》 2015年03期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-HQZY201503029.htm

2016年「熱証可灸の理論の基礎と作用機序の探求」
热证可灸的理论基础及作用机制探讨
翟春涛 田岳凤
《世界中西医结合杂志》 2016年03期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-SJZX201603040.htm

2017年「熱証可灸理論の古今の文献の検討」
热证可灸理论古今文献探析
张洪芳 朱永政 郑慧玲 张永臣 《四川中医》 2017年04期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-SCZY201704017.htm

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