砂糖業界にゆがめられた真実

『60年後にばれた米「砂糖業界」の大陰謀(上)「低脂肪ダイエット」のウソ』
2017年1月22日『ハフィントンポスト』

この記事を書いた医師の大西睦子先生は2007年からアメリカに留学して栄養学を学び、ハーバード大学で2回の学部長賞を取った研究者で、最新の栄養学を研究されています。現在、栄養学の理論は大きく変わりつつあります。

以下、引用。

【ハーバード大を抱き込んだ砂糖業界】

約60年も前から米国で始まり、今や世界中で大流行している「低脂肪ダイエット」。日本で、ヘルシーなダイエットとして、あたかも新興宗教のようにのめり込んでいる人も少なくないようです。しかし実際のところ、健康への効果はどうなのでしょう。そもそもダイエットのためになぜ脂肪の摂取だけを制限しなければならないのでしょうか。

実は1960年代、米国の砂糖業界はハーバード大学の研究者らに資金を提供し、「砂糖と脂肪の心臓病への影響」について調査を依頼しました。そして研究者らは、あろうことか砂糖業界にとって都合の良いように結果を操作し、心臓病の責任を脂肪だけに押し付けるような結論を導き出したのです。その結果、脂肪は心臓病にとっての悪者となり、そればかりか肥満についても諸悪の根源のごとく見なされ、以来、低脂肪ダイエットが大流行したのです。

この衝撃的な事実は60年を経た2016年9月12日、カリフォルニア大学サンディエゴ校のクリスティン・カーンズ博士らが『米国医師会雑誌』に発表した調査論文によって初めて明らかになりました。この論文を中心に、半世紀以上も前にゆがめられてしまった栄養学といまも混乱しているダイエット事情について検証してみます。

2016年JAMA原著論文
「砂糖業界と冠状動脈疾患の研究ー業界内部文書の歴史分析」
2016年9月12日『アメリカ医師会雑誌(JAMA)』
Sugar Industry and Coronary Heart Disease Research
A Historical Analysis of Internal Industry Documents
Cristin E et al.
JAMA Intern Med.
Published online September 12, 2016

以下、引用。

【「市場拡大」のための4カ条】

1950年代、米国では心臓病による男性の死亡率が増加しました。当時のドワイト・アイゼンハワー大統領も深刻な心臓発作に苦しんでおり、米国民は大統領の回復を願いつつ、闘病の様子をじっと見守っていました。こうした時代背景もあり、米社会では心臓病を予防するための「健康的な食生活と運動」が新たなスローガンとなりました。

そんな中、1954年、甘味資源作物の生産者団体や製糖メーカーなどが設立した砂糖研究財団(現「米国砂糖協会」)のヘンリー・ハース会長(当時)がアメリカ甜菜研究会で砂糖業界関係者向けに「砂糖の研究における最新情報」と題した講演を行いました。

その際、ハース会長は以下の4点を世間一般に強調していくべきであり、そうすることで米国人が低脂肪ダイエットをどしどし採り入れるようになれば、それがひいては砂糖業界の市場拡大のチャンスになるということを熱弁したそうです。

(1)一流の栄養士らが高脂肪の摂取によってコレステロールの形成が促進される化学的因果関係を指摘している。これをさらに強調し、コレステロールが多量に形成されると動脈や毛細血管を塞いで血流が悪くなり、高血圧や心臓病を引き起こすと喧伝する。

(2)中年男性が低脂肪ダイエットを実行すれば、たった5日で血液中のコレステロールが正常値に戻ると喧伝する。

(3)米国人の食生活では脂質から摂取するカロリーが40%だと言われている。しかし、かつてはこの半分の20%は炭水化物から摂取していたのだから、この20%を取り戻すべく炭水化物食品にかかわる業界は努力すべき。これを実現でき、なおかつ砂糖が炭水化物市場での現在のシェアを維持できれば、1人当たりの砂糖消費量が3割増える計算になる。そうすれば健康が著しく改善するのだと喧伝する。

(4)砂糖業界として生化学の知識がない一般の人に「砂糖は人間の生命を保ち、日々直面する問題への活力になる」というイメージを喧伝するために、年間60万ドル(2016年の貨幣価値では530万ドル)費やす。

【黙殺された「砂糖の問題点」】

同じ頃、生理学や栄養学の研究者らがコレステロール、過剰なカロリー、アミノ酸、脂肪、炭水化物、ビタミンなどの食事因子が心臓病に与える影響についてそれぞれ調査・研究を始めていました。そして1960年代までに2人の著名な生理学者が冠動脈性心疾患の原因についてそれぞれの説を発表しました。

1人は英国クイーン・エリザベス大学栄養学教授のジョン・ユドキン博士。ユドキン博士は過剰な糖の摂取こそが冠動脈性心疾患の原因と指摘しました。後に『純白,この恐ろしきもの―砂糖の問題点』という著書も書いています。

そしてもう1人は、米ミネソタ大学のアンセル・キーズ博士。キーズ博士は飽和脂肪酸やコレステロールの摂取が冠動脈性心疾患の原因と指摘しました。

ところがその後、ユドキン博士の説は学会や業界からまったく無視され、キーズ博士の理論が受け入れられるようになります。冒頭で紹介したJAMAの論文の共著者、カリフォルニア大学サンフランシスコ校保健政策教授ローラ・シュミット博士はCNNの取材にこういう趣旨で答えています。

「もし私たちが1965年に戻ってシナリオを書き直すことができれば、心臓病のリスクは脂肪だけではなく、炭水化物、特に砂糖にもあるのだと社会全体に注意を促します。そうしていればその後の状況は全く違っていたでしょう」「炭水化物が心臓病において深刻な影響を及ぼすというユドキン博士の説を無視していなければ、今日のように心臓病や肥満が蔓延している状況は異なっていたでしょう」

それではなぜ当時、ユドキン博士の説は無視されたのでしょうか。

【「5万ドル」で研究結果を操作】

カーンズ博士やシュミット博士らは1959 年から1971年までさかのぼり、砂糖研究財団の幹部と様々な科学者との手紙のやりとりを収集しました。その過程、1967年にハーバード大学公衆衛生大学院栄養学科マーク・ヘグステッド博士らにより『‪ニューイングランド‬・ジャーナル・オブ・メディシン』誌に発表された「炭水化物、脂肪とアテローム性動脈硬化症」と題する論文の総説に関して衝撃的な証拠書類を発見しました。

それによると、砂糖研究財団はハーバード大学の3人の研究者らに今日の貨幣価値で約5万ドルを支払い、砂糖業界に都合の良いように結果を操作するよう依頼していたというのです。

総説では「食事中の飽和脂肪酸とコレステロールの割合を減らし、多価飽和脂肪酸の割合を増やすことが心臓の健康のためになる。一方、炭水化物の関与はわずかである」と結論づけました。つまり、心臓病に対する悪影響という点で砂糖に「甘い」評価をつけていたのです。

医学会のトップジャーナルであるNEJM誌で発表されたその論文は、その後の科学的な議論に決定的な影響を及ぼしました。そして実際に、この論文の発表後、砂糖と心臓病を因果づける議論はぱったりと消えていったのです。その因果関係をいち早く指摘したユドキン博士の説が無視され、闇に埋もれてしまったのもそうしたことが原因だったのです。

【公開されなかった「利益相反」情報】

しかし、問題のNEJM誌の論文には砂糖研究財団から金銭的支援を受けていた事実が開示されていません。現在では信じ難いことですが、実は1984年までNEJM 誌は論文発表者に「金銭上的な利益相反」に関する事実開示を要求していませんでした。

今回、JAMA誌の調査論文が明らかになった直後、米国砂糖協会は次のような声明を発表しています。

「我々はすべての研究において透明性が必要であることを認めます。ただし、この研究が発表された時代は、金銭的支援の開示と透明性の基準は今日と異なっていました。さらに、60年前に起こった私たちが1度も見たことがない(証拠書類とされる)文書に関する問題に私たちが応じることは難題です」

こうした対応に対して、ニューヨーク大学の栄養学と公衆衛生学の教授マリオン・ネスレ博士はこう強く非難しています。

「1967年の総説のように、砂糖ではなく飽和脂肪酸だけを問題視したことで、その後数十年の間、心臓の健康について医療関係者が一般の人々に行う食事のアドバイスに極めて深刻な影響を及ぼしてきたのです」

実際、ネスレ博士のコメントの通り、1967年のNEJM誌の総説は後年、米連邦政府が策定する『アメリカ人のための食生活ガイドライン』に大きな影響を及ぼすことになるのです。(つづく)」

記事中に出てくるミネソタ大学の栄養学者アンケル・キーズさんが、現在の栄養学における高脂肪食・高コレステロール食が動脈硬化症を引き起こすという「コレステロール仮説」を創り、「低脂肪ダイエット」「地中海ダイエット」を提案した人物です。アンセル・キーズの研究を調べると驚愕の連続です。

そして、「コレステロール=動脈硬化症仮説」の中心人物となったのがロックフェラー研究所のアーレンスです。アーレンスは1952年に当時のハイ・テクノロジーであるガス・クロマトグラフィーを使って飽和脂肪酸や不飽和脂肪酸を発見した人物です。

Edward Ahrens Cholestrol Researcher, Is Dead at 85
By Carmel McCoubrey
Dec. 16, 2000, The New York Times

さらに、アンケル・キーズやアーレンスの「高脂肪食・高コレステロール食が動脈硬化症の原因である」という仮説を世界中に広めたアメリカ心臓病学会に1960年に265万ドルも財政支援したのがプロクター・アンド・ギャンブル社(P&G)です。1960年以降も毎年30万ドルを寄付し続け、「高コレステロールの食事=動脈硬化症仮説」を普及させました。P&Gの筆頭株主はロックフェラー・ファイナンシャル・サービス・インクです。

2016年にアンケル・キーズの研究データがすべて出版されておらず、再解析したところ、低脂肪食・植物油を中心にした食事のほうが心臓病を起こしやすいという全く逆のデータが出ました。

2016年4月12日『ワシントンポスト』
『このデータはアメリカ人の食生活をつくりかえたが、そのデータは全て出版されていなかったのだ』
This study 40 years ago could have reshaped the American diet. But it was never fully published.

2016年4月12日『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル』原著論文
『トラディショナルな食事と心臓病仮説の再評価:復元されたデータによるミネソタ冠状動脈研究の分析』
Re-evaluation of the traditional diet-heart hypothesis: analysis of recovered data from Minnesota Coronary Experiment (1968-73)
BMJ 2016; 353 doi: https://doi.org/10.1136/bmj.i1246 (Published 12 April 2016)
Cite this as: BMJ 2016;353:i1246
http://www.bmj.com/content/353/bmj.i1246

40年間、「低脂肪食と植物油は心臓病を悪化させる」というデータを隠蔽して、さらに60年間、砂糖の問題点を隠蔽する情報操作が現実にありました。この情報が日本の医学界や栄養学界に届く日はいつかくるのでしょうか。

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