実証「肝気逆」と虚証「肝気鬱結」

2015年「肝気逆と肝気鬱証候概念と病因の研究概況と構想」
肝气逆、肝气郁证候概念与病因研究概况及设想
魏盛 乔明琦
《世界科学技术-中医药现代化》 2015年04期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-SJKX201504008.htm
(オープンアクセスPDFファイル有り)

以下、引用。

1950年代末に秦伯未先生は明確に肝気鬱結と肝気逆は正反対の概念であり、肝気逆は疏泄が太過であり、故にその性質は横逆となる。肝気鬱結は疏泄作用が不及であり、疏泄の能力がなくなり、その性質は消沈であると指摘した。

この記述は秦伯未先生の『谦斋医话讲稿』に収録されているようです。この2つの概念は納得できます。見た目は実証タイプの肝病でありながら、実際は肝血虚がベースの肝鬱という虚証の肝病が多いというか、日本の鍼灸の患者さんの大多数であるというのが、臨床経験を積むと実感してきます。太衝(LR3)とか行間(LR2)で肝経の瀉法などしたらてきめんにに悪化し、調子が悪くなるタイプです。セミナーでは参加者の方に「肝実証とみせかけての隠れ肝虚証の存在が重要です」とずっと強調してきました。ちなみにWHOのICDー11には肝気欝結は存在しますが肝気逆証は存在しません。

肝気逆は宋代の「聖済総録」巻四十一に初出しているようです。

肝气逆面青多怒 
论曰肝在色为青,在志为怒,故其气逆则面青多怒,盖本藏气逆于内,干之而出,则多怒而面青也。
治肝脏气逆,手足拘急,面青多怒,胁下苦满,或时眩冒。竹沥汤方
《圣济总录》 肝气逆面青多怒 
http://www.zysj.com.cn/lilunshu…/shengjizonglu/122-45-8.html

清代、 林佩琴著『類証治裁』でも肝気逆は論じられています。

胁痛吐血者,肝气逆也。
《类证治裁》卷二  吐血论治

头眩口苦,胆气泄也。胁痛入脘,肝气逆也
《类证治裁》 巻三诸气论治

肝气逆而为聚者,解肝煎。三焦壅滞,气道不利,中满肿胀者,廓清饮。
《类证治裁》 卷之八癖瘕诸积论治

清代、王旭高先生の『西溪书屋夜话录』にも肝気という名前で肝気逆が詳細に論じられています。

明代、李用粋著、1687年刊の『证治汇补』には「肝鬱では脇脹して曖気する」という肝鬱という表現がありました。

《证治汇补》郁症
http://www.zysj.com.cn/lilunshuji/zhengzhihuibu/636-8-7.html

清代、沈金ごう 著、『雑病源流犀燭』肝病源流では以下の記述があります。

肝の性質は条達であり、鬱するべきではなく、気が偏れば急に易怒となり、故にその病の多くは逆する。逆すれば頭痛・耳聾となり、頬が腫れて目も膨満し、少腹に引いて痛む。よく怒り、よく痙攣し、四肢はつまったようになる。

これはほとんど実証の肝気鬱結だと思います。

秦伯未先生が実証の肝気逆と虚証ベースの肝気鬱結にわけていたのはすごいことだと思います。

2006年「肝気鬱・肝気逆は、肝が疏泄を失った最初の徴候である」
肝气郁、肝气逆是肝失疏泄的始发证候
马月香 张惠云 乔明琦 张珍玉
《江西中医药》 2006年07期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-JXZY200607007.htm

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