八綱弁証の起源へのミシェル・フーコー的アプローチ

 
 
2014年「中医学の学術史のなかで『現代八綱弁証』の起源の中の虚偽」
中医学术史中“现代八纲辨证”起源中的“虚假”
于晓通 李成卫
《中国中医基础医学杂志》 2014年04期
 
 
【要約】
目的:『黄帝内経』と張仲景『傷寒雑病論』と現代の八綱弁証の関係で、現代の八綱弁証が『黄帝内経』と『傷寒雑病論』が起源であるというのは虚偽であると分析した。
 
方法:ミシェル・フーコーの『知の考古学』の方法で『現代八綱弁証』と『傷寒雑病論』の起源を分析した。
 
結果:ミシェル・フーコーの『知の考古学』の方法で中医学の学術歴史を分析し、中医学術歴史の真相を明らかにすることは重要な意義がある。
 
 
フランスの哲学者ミシェル・フーコーの『知の考古学(L’Archéologie du savoir)』方式のアプローチというのに腰を抜かしました。しかもタイトルが本当にフーコーっぽいです。ミシェル・フーコー著『狂気の歴史』『臨床医学の誕生 』は医療関係者の方は読んだほうが良いです。個人的にフーコーの『性の歴史 1 知への意志』や『自己のテクノロジー』には20代の頃に影響を受けました。
 
 

 
 
 
 
 
 
現代の祝味菊先生が1944年に出版された『傷寒質難』の中で「八綱弁証」という言葉をクリエイトしました。だから、八綱辨証の歴史は厳密には2021年の現時点で77年しかありません。
 
祝味菊先生は1917年に四川の軍医学校を卒業、1919年に西洋医学を学ぶために日本に行き、1926年に上海に転居し、1931年に上海中医学院の前身の学校の教授に就任します。祝味菊先生は火神派、中西医汇通派になります。1943年に陳蘇生が祝味菊先生に入門し、その質疑応答が1944年 に『傷寒質難』として出版されました。
 
火神派は、清代に『医理真伝』を著した四川省の名医、鄭欽安先生が創始者と言われ、附子・生姜・桂枝を多用します。祝味菊先生は鄭欽安先生に学び、「祝附子」「祝火神」といわれた火神派の代表的名医です。
 
 
いわゆる八綱とは、陰、陽、表、裏、寒、熱、虚、実である。
祝味菊・陳蘇生著『傷寒質難』
 
歴史的には明代、陶華著『傷寒六書』の二巻伤寒秘要脉证指法の中で以下のように述べています。
 
吾老专以浮、中、沉三脉候而治之,察其阴阳表里,虚实寒热”
 
 
明代『傷寒六書』を読むと、表裏寒熱虚実陰陽は脈診とリンクして論じられています。明代の張景岳の『景岳全書』では表裏寒熱虚実を論じています。清代の名著、1732年『医学心悟』では「寒熱虚実表裏陰陽弁」という八綱そのままの記述もあります。
 
《医学心悟》寒热虚实表里阴阳辨
「病有总要,寒、热、虚、实、表、里、阴、阳,八字而已。」
 
 
八綱弁証はきちんと明清の中国伝統医学の歴史の中で発展してきたものを尊敬する祝味菊先生が中華民国の時代にまとめられたものです。分析ツールである八綱弁証を使って、分析しやすい場合は分析したら良いと思いますが、無理にあてはめる必要はないですし、鍼灸家はまったく話が別だと思います。個人的意見ですが、八綱弁証は鍼灸の臨床で私は使いません。なぜなら、風邪の初期の表証では風寒でも、風熱でも、お灸をしても何の問題もありません。感染性胃腸炎で裏熱実証で裏内庭の透熱灸をやって著効して以来、八綱弁証を鍼灸臨床で使うのは止めました。結核は、臓腑弁証では寝汗、潮熱、乾咳、血痰がありますから、臓腑弁証は肺陰虚で、八綱弁証では裏熱虚証です。原志免太郎先生、澤田健先生、代田文誌先生は結核をお灸で治療しています。表熱実証でも裏熱実証でも裏熱虚証でもお灸をして問題なかったので、八綱弁証は個人的に使いません。歴史を知ると理論から自由になれるのが良いです。
 
 
WHO-ICD11では八綱弁証の
 
表証=Exterior pattern(表証パターン)
裏証=Interior pattern(裏証パターン)
寒証=Cold pattern(寒証パターン)
熱証=Heat pattern(熱証パターン)
実証=Excess pattern(実証パターン)
虚証=Deficiency pattern(虚証パターン)
陽証=Yang pattern(陽証パターン)
陰証=Ying pattern(陰証パターン)
 
があります。
 
 
 
 
 

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