うつ病患者への耳鍼

2019年9月イラン、テヘラン大学の論文
「うつ病患者におけるコルチゾールレベルへの耳鍼の影響」
The Effectiveness of Auricular Acupuncture on the Levels of Cortisol in a Depressed Patient.
Pirnia B et al.
Iran J Public Health. 2019 Sep;48(9):1748-1750.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31700836
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC6825666/

以下、引用。

鍼は2,000年以上も医学において補完医療として考慮されてきている。NADAは耳鍼プロトコルのマニュアルをもっている。いくつかの研究は鍼がコルチゾールのレベルに影響するとしている。鍼はHPA軸、視床下部ー脳下垂体ー副腎皮質系の活動の調整と関連しており、副腎皮質刺激ホルモンやコルチゾールの分泌の改善と関連している。

32歳の大うつ病の複数病歴を持つ患者である。彼は結婚して21歳で離婚に至り、反すう思考が続いている。23歳でヘロイン中毒がはじまり、2年後、注射による消費がはじまった。3度の自殺未遂歴があり、2回の自殺はベンゾジアゼピンの高用量で最後のものは左手の静脈を切った。患者はうつのためにSNRIのベンラファキシンを毎日225ミリグラム服用している。

耳鍼療法の最初の結果は4週間後に唾液中のコルチゾール(副腎皮質ホルモン)が減少したことである。2つ目の結果として、鍼は自殺願望を減少させたことである。

一連の研究は、鍼は副腎皮質刺激ホルモンを促進させ、コルチゾールの分泌により視床下部ー脳下垂体ー副腎皮質活動を喘息マウスで改善させたような結果を示している。2つ目の研究結果は、鍼が深刻な自殺願望の減少を示したことである。これらの結果は別の研究でも示されている。現在の研究が示すところによれば、電気鍼は視床下部ー脳下垂体ー副腎皮質軸の機能を調節し、脳の海馬の活動を強めることで欝の症候を減少させる。

この研究結果からは、耳鍼は視床下部ー脳下垂体ー副腎皮質系統を改善してコルチゾール分泌を調節することで自殺願望を減少させ、薬物療法や精神療法の代替療法になりうる。

うつ病について「セロトニン・ウツ仮説=モノアミン・ウツ仮説」が怪しくなってきており、代わりに炎症仮説が有力になっています。

2019年4月17日北京中医薬大学『神経炎症雑誌』
「うつ病の反復における炎症の役割」
Role of inflammation in depression relapse
Chun-Hong Liu, et al.
Journal of Neuroinflammation201916:90
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/30995920
https://jneuroinflammation.biomedcentral.com/…/s12974-019-1…

以下、引用。

慢性の免疫抑制状態や炎症は将来の反復性大うつ病の病因として重要であり、過剰な炎症性サイトカインのリリースは視床下部‐脳下垂体-副腎皮質系統HPA軸のネガティブフィードバックを阻害し、血液脳関門の透過性を増加させることでセロトニン合成を低下させて神経グルタミン代謝システムを阻害し、反復性大うつ病を起こさせる。

2016年12月15日発表
「海馬MEK1の活性化は、神経障害性疼痛ラットへの電気鍼の累積的・抗侵害的効果に貢献する」
Activation of hippocampal MEK1 contributes to the cumulative antinociceptive effect of electroacupuncture in neuropathic pain rats.
Gao YH et al.
BMC Complement Altern Med. 2016 Dec 15;16(1):517.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/27978835
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5159961/

慢性疼痛の神経障害性疼痛に対する電気鍼は、大脳辺縁系の海馬において細胞分裂増殖を活性化するMEK1(MAPキナーゼ・カスケードの経路)を活性化させるという動物実験での証拠が出ています。これは鍼が脳の海馬において痛みの記憶の書き換えを行っている傍証となります。

海馬におけるMAPキナーゼ・カスケード(※1)の活性化は、実はうつ病などの気分障害の治療や脊髄損傷による神経障害性疼痛(※2)、認知症改善薬(※3)や記憶改善薬(※4)とも関係してきます。

※1:『MAPキナーゼ・カスケード』
橋本 堂史
『日本食品科学工学会誌』Vol. 55 (2008) No. 5 P 258
https://www.jstage.jst.go.jp/article/nskkk/…/5/55_5_258/_pdf
※MAPキナーゼ・カスケード(Mitogen-activated Protein Kinase cascade)

※2:「神経栄養因子の基礎研究とその医学的応用」
古川 昭栄
『薬学雑誌』Vol. 135 (2015) No. 11 p. 1213-1226
https://www.jstage.jst.go.jp/…/yak…/135/11/135_15-00219/_pdf

※3:「認知症の予防・治療技術開発の新しい戦略—天然物を用いたアプローチ—」
大泉 康
『薬学雑誌』Vol. 135 (2015) No. 3 p. 449-464
https://www.jstage.jst.go.jp/…/yaku…/135/3/135_14-00245/_pdf

※4:「記憶改善薬」
赤石 樹泰
『日本薬理学雑誌』Vol. 143 (2014) No. 5 p. 260-261
https://www.jstage.jst.go.jp/article/fpj/143/5/143_260/_pdf

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