中医学の弁証論治の歴史:八綱弁証と気血弁証

2018年
「現代中医弁証体系の変化と発展研究」
现代中医辨证体系的变化与发展研究
王慧如,刘哲,王维广
《中国中医基础医学杂志》 2018年09期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-ZYJC201809002.htm
http://www.lunwenstudy.com/zyzhenduan/135961.


世界保健機構(WHO)のICDー11に中医学の弁証論治が入ったことをきっかけに弁証論治の理論形成の歴史を調べてきましたが、まさにこの論文は決定版でした。気血津液弁証は1974年に導入された「新しい弁証方法」なのです。八綱弁証も1944年に提唱され、1974年に中国の教科書に入ったので、中国伝統医学の歴史からみれば新理論なのです。臓腑弁証もかなり新しいのです。

この2018年の最新論文の「臓腑弁証の地位の向上」によると、中国の第1版(1960年)の教科書では「臓腑経絡病証」として臓腑弁証と経絡弁証はまとめられていました。第2版(1964年)では、心の病証は「心虚証」のみでした。第3版(1974年)では「心気虚」「心陽虚」「心陰虚」「心血虚」の4種類に虚証が増加し、痰擾心神が痰火擾心と痰蒙心神に変化し、心血瘀阻が加わります。第5版(1984年)では心血瘀阻は心脉痹阻と名前が変わります。私はこの第5版の教科書派になります。第6版(1995年)では心陽虚脱、瘀阻脳絡が増加しました。そして2019年の世界保健機構(WHO)のICDー11の心の臓腑弁証では11種類の心臓の臓腑弁証が書かれています。現在の臓腑弁証もまだ開発されて100年も経っていない未検証の新理論なのです。

弁証論治は1950年代に任応秋先生と秦伯未先生が創った新理論です。陸痩燕先生がさらに1958年に「鍼灸医学の発展道路」と 「針灸弁証論治における処方から配穴に至る順序の原則」を発表されて、鍼灸弁証論治という方向性がうちだされます。

1958年「鍼灸医学の発展道路」
针灸医学的发展道路——访问江苏省中医学校观感
陆瘦燕 黄羡明 《江苏中医》 1958年04期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-JSZY195804001.htm

1958年12月「針灸弁証論治における処方から配穴に至る順序の原則」
从针灸的辨证论治程序谈到处方配穴原则
陆瘦燕 《上海中医药杂志》 1958年12期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-SHZZ195812005.htm…

また、承淡安先生の門下である、 内科医であった楊長森先生が、中医薬の理法方薬を応用して鍼灸弁証論治の「理法方穴術」という考え方をクリエイトしました。楊長森先生は1950年代に『鍼灸学講義』という教材を作成し、これは教材(第一版高等中医院校针灸学教材)となり、1980年代に『鍼灸治療学』という教科書となりました 。

また、承淡安先生の門下である邱茂良先生は1956年に『内科鍼灸治療学』を出版されました。
1959年には鍼灸による肺結核の治療を報告し、1978年には鍼灸による胆石症と細菌性下痢の治療を報告し、1982年には鍼灸による脳卒中の治療で血流量の変化を調べています。鍼灸による内科、臓腑病の治療を検証され、1962年に以下の論文を書かれています。

1962年「針灸療法と弁証施治」
针灸疗法与辨证施治
邱茂良《江苏中医药》 1962年05期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-JSZY196205000.htm

邱茂良先生の著作『中医針灸学の治法と処方―弁証と論治をつなぐ』(2001年東洋学術出版社)は一つの鍼灸弁証論治の到達点だと思います。 邱茂良先生は実際に結核や胆石症などの内臓疾患を治療しており、その経験は貴重です。

2019年の世界保健機構(WHO)のICDー11への中医学の弁証論治導入をきっかけに研究しましたが、1950年代の創成期の中医学鍼灸はやはりレベルが高くて面白いです。現在は主流が間違った方向に突っ走っていますが、同時に傍流に新時代の萌芽も感じられるようになってきました。

【八綱弁証】
中華民国の祝味菊先生が、1944年に『傷寒質難』の中で、最初に「八綱」の概念を提唱しました。1960年の第1版の『中医診断学講義』にも八綱という言葉は入っています。

广州中医学院诊断教研组.
中医诊断学讲义
人民卫生出版社, 1960.

しかし、文化大革命の時期に中医学は混乱し、1980年に文化大革命が収束し、鄧鉄涛先生が書かれた1984年の第5版の教科書で八綱は復活します。

邓铁涛.
中医诊断学.
上海科学技术出版社, 1984.

中国の教科書に正式に八綱弁証が入ったのは1974年の第3版の教科書だそうです。

北京中医学院.
中医学基础
上海人民出版社, 1974.

【気血津液弁証】
世界保健機構(WHO)のICDー11の弁証論治では、 気血津液弁証はBody constituents patterns(身体成分パタ ーン)と表現されています。中国の教科書に正式に気血津液弁証が入ったのは、1974年の第3版の教科書だそうです。

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