うつと督脈・足太陽膀胱経と腎鬱、水鬱、恐鬱、驚鬱

2008年「督脈と足太陽経がもつ鬱証の針灸治療の作用」
督脉和足太阳经在郁证针灸治疗中的作用
罗文舒 皮敏 于海波 杨卓欣
《中国医药导报》 2008年20期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-YYCY200820062.htm


西洋医学の「うつ」や中医学の「鬱証」 は督脈と足太陽膀胱経が効果的であると実感しています。『霊枢・経脈篇』の足太陽膀胱経の是動病・所生病にも「狂」や「癲(てん)」などの精神病が入っています。

現代中医学では肝気鬱結が支配的ですが、鬱証の理論の歴史にはもともと肝鬱だけでなく、心鬱・脾鬱・肺鬱・腎鬱などがありました。私はうつ症状に対して督脈・足太陽膀胱経を多用してきました。

さらに怒・思・悲・憂・恐・驚などの七情や魂・神・意・魄・志の五神の問題もあります。
明代から清代の古典を読むと、腎鬱(水鬱)、思鬱、憂鬱などが普通に書いてあります。現代中医学の肝気逆や肝気鬱結は優れてクリエイティブな理論であると考えていますが、七情や五臓の五神との関連が弱いです。

私は秋の肺鬱は五神の魄(はく)の不足や七情の「憂」や「悲」との関連を考えてきました。中医学成立以前の中国伝統医学の理論の「肺鬱」「憂鬱」「悲鬱」の理論を応用すると、臨床的現実をうまく説明できます。

現代の鍼灸臨床には、 軽いうつや悲哀や憂うつの感情などの軽度の気分障害やプチうつ、虐待などの恐怖が原因のPTSDや不安障害なども既往歴や病歴としてある患者さんが来られます。純粋な季節性感情障害が疑われる患者さんもおられます。この多様な鬱証を肝鬱、気鬱化火、陰虚火旺だけで分析するのは不可能だと思います。

鬱証の古典理論を検証すると、七情からの七情鬱証や、気・血・湿・痰・食・火からの六鬱、肝鬱・心鬱・脾鬱・肺欝・腎鬱の五臓鬱もあり、肝鬱だけにとらわれない弁証論治が可能となります。

鬱証を古典から再検証し、さらに現代の臨床に適合させることは中医学鍼灸による心身からの治療を拡げる可能性があると感じます。まずは水鬱です。明代、李用粹著『証治匯補(しょうちじゅんほ)』に水郁治法には「水腫脹満、二便がふさがるのが水鬱である」と論じて「脹満の病の如きは水気が侵淫して滲道を塞ぎ、すなわち土が弱まり水を制御できなくなる。まさに脾土を実するべし」と書かれています。水鬱に脾土を実するのが本来の中国伝統医学だと思います。具体的には陰陵泉の灸頭針はどうでしょうか。

明代、李用粹著『証治匯補』
http://www.zysj.com.cn/lilunshuji/zhengzhihuibu/636-8-7.html

明代、王肯堂著、『証治准縄(しょうちじゅんじょう)』にも「水鬱折之」という、ほぼ同じ論述があります。

《证治准绳·杂病》郁
http://zhongyibaodian.com/zhengzhizhunshengzab…/571-8-2.html
水郁折之,折者、制御也,伐而挫之也,渐杀其势也。如肿胀之病,水气淫溢而渗道以塞,夫水之所不胜者土也。今土气衰弱不能制之,故反受其侮,治当实其脾土。

腎鬱に関して、明代、李用粹著『証治匯補』は「腎鬱では腰が脹れ、淋濁し、久しく立つことができない」と腰痛との関連を述べています。

肾郁腰胀淋浊.不能久立
http://www.zysj.com.cn/lilunshuji/zhengzhihuibu/636-8-7.html
明代、李用粹著『証治匯補』

恐鬱に対して、清代、 林佩琴著『類証治裁』では補腎陽の八味丸(八味地黄丸)を処方しています。

恐郁阳消精怯,八味丸加减,或鹿角胶酒化服。
http://www.zysj.com.cn/lilunsh…/leizhengzhicai/592-15-8.html
清代、 林佩琴著『類証治裁』

驚鬱に対して、清代、 林佩琴著『類証治裁』では 去痰瀉熱の温胆湯を用いています。

惊郁胆怯欲迷,人参、枣仁、茯神、龙骨、石菖蒲、南枣、小麦。惊郁神乱欲狂,清心温胆汤。
http://www.zysj.com.cn/lilunsh…/leizhengzhicai/592-15-8.html
清代、 林佩琴著『類証治裁』

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