不眠と脾鬱:うつと不眠を脾胃から治療する

2016年「『脾鬱』の角度からの不眠症の中焦論治の分析」
从脾郁角度探析失眠从中焦论治
张敏 纪立金 黄俊山
《中华中医药杂志》 2016年10期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-BXYY201610015.htm


『黄帝内経素問・逆調論篇第三十四』に「胃が不和なら眠れない」とあります。これは不眠治療で役立つ理論だと思います。

胃不和,则卧不安,此之谓也。
《黄帝内经·素问》逆调论篇第三十四
http://www.zysj.com.cn/lilunshuji/huangdisuwen/100-3-34.html

土鬱は脾鬱であり、明代の孫一奎著、『赤水玄珠』に「脾鬱では中脘がつまり、涎を生じて少食となり、四肢無力となる」と記述されています。

「思えば気結ぼれる」で中脘がつまり、精神症状がある場合は多いです。清代、黄元卸著、『霊枢懸解』は「愁憂は脾を傷つけ、中気が運化できずに土気が閉塞して通じないため、脾は四臓の母であり、病めばすなわち四肢に気がいかなくなる」「脾が盛んなら怒り、脾が不解なら五神の意を傷つけ、五神の意が傷つけばすなわち忘れ、四肢があがらなくなる」と論じています。

脾盛怒而不解则伤意,意伤则悗乱,四肢不举
《灵枢悬解》本神三十八
http://www.zysj.com.cn/liluns…/lingshuxuanjie/1291-10-1.html

黄元卸は清の絶頂期の皇帝、乾隆帝の侍医です。

中医学の弁証論治では『症状による中医診断と治療 上巻 下巻』(中医症状鑑別学の翻訳)が最もスタンダードだと思いますが、不寝(=不眠)は心陰虚、心腎不交、心脾両虚、胆気虚、肝胆欝熱、痰熱擾心、心火などに分類されています。

不眠で脾胃と関連する弁証分類は心脾両虚ですが、心脾両虚は心血虚と脾気虚であり、心脾両虚と脾鬱はニュアンスがかなり違うと思います。

足陽明胃経の是動病で以下の表現があります。「人と火を増み、木声を聞けば惕然(てきぜん=恐れおののくさま)として驚き、心は動を欲し、ひとり窓をふさいで閉じこもり、甚だしければ高所にあがりて歌い、衣を捨てて走り、贲响といって腸鳴し腹脹する。これを骭厥という」

足陽明胃経の病証では腹脹し、胃経が詰まって精神症状が出ます。

清代、林佩琴著『類証治裁』では「脾胃鬱」と表現しています。

脾胃鬱では気噎(きいつ)で咽がつまり、噦(えつ)でえづいて呃(あく)でしゃっくりとなる。金匱麦門冬湯に竹茹と丁香を加える。
《类证治裁》郁症论治
http://www.zysj.com.cn/lilunsh…/leizhengzhicai/592-15-8.html

鳩尾あたりから巨闕や中脘が詰まった心下痞(しんかひ)の脾胃鬱で食欲不振と精神症状、不眠がある方は多いと思います。西洋医学的には機能性胃腸症や胃食道性逆流症のタイプです。胃食道性逆流症でもイライラや易怒がないなら肝気犯胃ではないと思います。

2018年「胃食道性逆流症(GERD)の睡眠障害をともなうタイプへの督脈の背中の神経分節への針刺」
针刺督脉背段治疗胃食管反流病伴有睡眠障碍的研究
李晨阳 《北京中医药大学》 2018年
http://cdmd.cnki.com.cn/Article/CDMD-10026-1018205503.htm
本课题组前期研究发现胃食管反流病(Gastroesophageal reflux disease,GERD)患者在督脉背段T3~T12棘突下的压痛有一定的规律性。

上記の研究は胃食道性逆流症患者の督脈の第3胸椎棘突起下から第12胸椎棘突起下の圧痛を調べ、刺鍼し、西洋医薬のみの治療の患者の圧痛と比較しました。督脈のT3の身柱からT12の奇穴・接脊までの圧痛点を刺鍼することで胃食道性逆流症の症状と不眠は改善されました。この督脈のT3~T12の圧痛点の刺鍼は胃不和則臥不安の脾胃鬱への有効な治療法だと思います。

明代、『景岳全書』は思鬱と怒鬱をまったく別のものとして分類しています。

怒鬱のものはおおいに怒りて気逆するとき実邪は肝にあり、多くは気が脹満して腹張する、まさに平らにする所なり。

怒鬱の治療では、もしおおいに怒りて肝を傷つけいまだに解けないで脹満あるいは疼痛するなら暖肝煎が宜しい。

また、もし思鬱の者は・・・思えば気が結ぼれる。心で結ぼれると脾を傷つける。

思鬱の治療では、もし最初に鬱結があって開かないものなら和胃煎加減が宜しい。あるいは二陳湯、あるいは沈香降気散がこれを主る。

明代、万暦帝の侍医であった呉正倫著、『脈症治方』では「怒鬱の脈は弦脈で、思鬱の脈は緩脈である」と述べられています。

怒郁则脉弦.思郁则脉缓
《脉症治方》诸郁
http://www.zysj.com.cn/lilun…/maizhengzhifang/702-17-1.html…

思鬱と怒鬱を分類する立場から言えば、現代中医学のように「鬱証=肝鬱」から分析するのは、やや粗いと感じます。明代、趙献可と清代、汪昻が「木鬱を治療すればほかの全ての鬱は治療できる。これは逍遙散である」と逍遙散で肝鬱を治療すれば全身のうつが治療できるという主張をおこない、それから鬱証を肝鬱でまとめて疏肝理気の治則で治療するようになりました。しかし、加味逍遥散は口から入れるので、全身の理気して鬱証はとれますが、鍼灸の場合、すべてを肝鬱にするのは粗いと感じてしまいます。

【脾鬱に関する論文】
1998年「情志の変調と脾鬱」
谈情志之变与脾郁
唐学游
《山西中医》 1988年06期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-SHIX198806002.htm

2011年「抑うつ症(うつ病)の脾からの論治」
抑郁症从脾论治
赵晶
《吉林中医药》 2011年06期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-ZYJL201106006.htm
“脾在志为思”,与心主神明有关,”思出于心,而脾应之”,

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