情志病の経絡学基礎:経脈病

 
2006年「情志病の経絡学基礎」
情志病的经络学基础
张建斌 王玲玲
《辽宁中医杂志》 2006年05期
 
 
 
以下、引用。
(1)足陽明胃経の是動病の記述は精神・情志に関するものが主要である。洒洒と振寒し、よく呻き、しばしば欠し、顔が黒く、病が悪化すれば人に会ったり火を嫌がるようになり、木声を聞けば惕然(てきぜん=恐れおののくさま)として驚き、心は動を欲し、ひとり窓をふさいで閉じこもり、甚だしければ高所にあがりて歌い、衣を捨てて走り、贲响(ふんきょう)といって腸鳴し腹脹する。これを骭厥(かんけつ)という。所生病にも狂症がある。
 
 
 
足陽明胃経は癲(てん)や狂と深い関係があります。癲と狂は『霊枢・癲狂篇第二十二』に初出しています。
 
 
《黄帝内经·灵枢》癫狂病第二十二
 
 
『難経』二十難では「重陽は狂であり、重陰は癲である」と述べられています。『難経』五十九難でも癲狂に関する記述があります。まさに足陽明胃経の是動病・所生病です。
 
 
《难经》五十九难
五十九难曰:狂癫之病,何以别之?
然:狂之始发,少卧而不饥,自高贤也,自辩智也,自贵倨也,妄笑好歌乐,妄行不休是也。
癫病始发,意不乐,直视僵仆,其脉三部阴阳俱盛是也。
 
 
『金匱要略』五臓風寒積聚病脈証併治第11でも「癲狂」に関する記述があり、「陰気が衰えれば癲となり、陽気が衰えれば狂となる」と論じています。
 
邪哭使魂魄不安者.血气少也.血气少者属于心.心气虚者.其人则畏.合目欲眠.梦远行而精神离散.魂魄妄行.阴气衰者为颠.阳气衰者为狂.
邪哭者.悲伤哭泣.如邪所凭.此其标有稠痰浊火之殊.而其本则皆心虚而血气少也.于是寤寐恐怖.
精神不守.魂魄不居.为颠为狂.势有必至者矣.经云.邪入于阳则狂.邪入于阴则颠.此云阴气衰者为颠.阳气衰者为狂.盖必正气虚而后邪气入.经言其为病之故.此言其致病之原也.
《金匮要略心典》五脏风寒积聚病脉证并治第十一
 
 
 
癲狂の概念が「痰迷心竅」などの臓腑弁証的な考えに転換していったのは、おそらく明代、龔信著『古今医鑑』からです。
 
“盖君火者,心因怒发之,相火助盛,痰动于中,挟气上攻,迷其心窍,则为癫为狂。
《古今医鉴》癫狂
 
 
明代、龔廷賢著、『寿世保元』で「痰迷心竅(たんめいしんきょう)」が初出しているようです。
 
一人患心风。即痰迷心窍。发狂。
《寿世保元》癫狂
 
 
しかし、同時に『寿世保元』は癲狂を「胃と大腸の実熱」として分析して、心火や肝火との関連、心血不足なども論じています。この議論は参考になります。
 
是盖得之于阳气太盛。胃与大肠实热。燥火郁结于中而为之耳。此则癫狂之候也。曰癫曰狂分而言之。亦有异乎。难经谓重阴者癫。重阳者狂。素问注云。多喜为癫。多怒为狂。然则喜伤于心。而怒伤于肝。乃二脏相火有余之症。难经阴阳之说。恐非理也。大抵狂为痰火实盛。癫为心血不足。
《寿世保元》癫狂
 
 
 
清代、張璐(ちょうろ)著、『張氏医通』では、痰が心包を塞ぐ「痰迷心竅」という証を確立し、「安神豁痰(あんしんかったん)」という治則を提唱しています。
 
癫之为证。多因郁抑不遂。 傺无聊所致。精神恍惚。语言错乱。或歌或笑。或悲或泣。如醉如狂・・・皆由郁痰鼓塞心包。神不守舍。俗名痰迷心窍。安神豁痰为主。
《张氏医通》癫
 
 
清代、 沈金鳌 (しんきんごう)著、『雑病源流犀燭(ざつびょうげんりゅうさいしょく)』巻七 癲狂源流で、現代のような臓腑弁証の精神病理論となっていった印象があります。
 
癲狂源流 癲狂,心與肝胃病也,而必挾痰挾火。癲由心氣虛,有熱;狂由心家邪熱。
此癲狂之由。癲屬腑,痰在包絡,故時發時止;狂屬髒,痰聚心主,故發而不止。
《杂病源流犀烛》
 
 
2013年「痰邪による癲狂と臓腑の相関性」
论痰邪引发癫狂的脏腑相关性
赵永厚 赵玉萍 柴剑波 于明 林雪莲
《辽宁中医杂志》 2013年10期
 
 
2017年「狂・癲の両証の針灸治療の文献比較研究」
对针灸治疗狂、癫两证文献的比较研究
刘立公 黄琴峰 胡冬裴
《中医文献杂志》 2017年01期
※治狂可取巨阙、身柱、心俞、膏肓俞、神门、少商、足三里、丰隆、三阴交等;
治癫可取百会、水沟、上星、风池、神庭、申脉、解溪、然谷等。
 
以下、引用。
(2)足太陰脾経の所生病には煩心がある。
 
 
『霊枢』経脈篇第十の足太陰脾経の所生病では煩心の症状があります。煩心は「心中が煩悶してのびやかでない」ことを指します。煩悶は気分が晴れないという意味です。
 
是动则病舌本强,食则呕,胃脘痛,腹胀,善噫,得后与气,则快然如衰,身体皆重。
是主脾所生病者,舌本痛,体不能动摇,食不下,烦心,心下急痛,溏瘕泄,水闭,黄疸,不能卧,强立,股膝内肿厥,足大趾不用。
《黄帝内经·灵枢》经脉第十
 
 
以下、引用。
 
(3)足太陽膀胱経の所生病では癲狂の病となる。
 
 
 
足太陽膀胱経の所生病では、狂と癲(てん)があります。
 
膀胱足太阳之脉・・・,
是动则病冲头痛,目似脱,项如拔,脊痛,腰似折,髀不可以曲,腘如结,踹(腨)如裂,是为踝厥。
是主筋所生病者,痔、瘧、狂、癲疾、頭項痛,目黃、淚出,鼽衄,項、背、腰、尻、膕踹(腨)、腳皆痛,小趾不用。
《黄帝内经·灵枢》经脉第十
 
 
以下、引用。
 
(4)足少陰腎経の是動病では「気不足すればよく恐れ、心はテキテキとして人に捕らえられるが如し」、所生病では「煩心」「心痛」とある。
 
 
 
足少陰腎経の是動病、骨厥(こつけつ)」でも、よく恐れて、人に捕らえられるような不安となります。
 
是动则病饥不欲食,面如漆柴,咳唾则有血,喝喝而喘,坐而欲起,目(盳盳)如无所见,心如悬若饥状。气不足则善恐,心惕惕如人将捕之,是为骨厥。
是主肾所生病者,口热,舌干,咽肿,上气,嗌干及痛,烦心,心痛,黄疸,肠澼,脊股内后廉痛,痿厥,嗜卧,足下热而痛。
《黄帝内经·灵枢》经脉第十
 
 
以下、引用。
(5)手厥陰心包経の是動病では胸脇支満、心中タンタンと大動して動悸し、顔面が赤く、目が黄色く、喜び笑い止まず、所生病では煩心と心痛となる。
 
 
 
心主手厥阴心包络之脉・・・。
是动则病手心热,臂肘挛急,腋肿,甚则胸胁支满,心中憺憺大动,面赤,目黄,喜笑不休。
是主脉所生病者,烦心,心痛,掌中热。
《黄帝内经·灵枢》经脉第十
 
 
足少陽胆経もよく太息(たいそく=ため息)し、口苦く・・・、心下淡淡し、人に捕まえられるが如く恐れると『霊枢』邪気臓腑病形篇にあり、精神・情志と関係しています。
 
胆病者,善太息,口苦,呕宿汁,心下淡淡,恐人将捕之,嗌中吤吤然数唾。在足少阳之本末,亦视其脉之陷下者灸之;其寒热者取阳陵泉。
《黄帝内经·灵枢》邪气藏府病形第四
 
 
また、足厥陰肝経も精神・情志と関係しています。『霊枢・根結篇第五』では「悲しめば厥陰を取る」と論じています。
 
合折,即气绝而喜悲。悲者取之厥阴。
《黄帝内经·灵枢》根结第五
 
 
 
『霊枢・厥病篇第二十四』では厥頭痛に「心悲しみ、よく泣くのは足厥陰を取って調える」とあります。『霊枢』の時代は怒りではなく、悲しみに足厥陰肝経を取っていました。
 
 
厥頭痛、頭脈(頭の経絡)が痛み、心悲しみ、よく泣くのは頭の動脈拍動をみて、盛んなら刺して血を去り、のちに足厥陰肝経を刺して調える。
 
厥头痛,头脉痛,心悲,善泣,视头动脉反盛者,刺尽去血,后调足厥阴。
《黄帝内经·灵枢》厥病第二十四
 
 
 
『霊枢』の時代の情志と経絡の関係は明代、清代の臓腑中心の理論とかなり違うようです。
 
 
 
 

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