認知機能の電気鍼とシナプス可塑性と神経炎症

2019年「電気鍼はアルツハイマー病モデル動物の神経炎症による認知機能障害を緩和する」
Electroacupuncture attenuates cognition impairment via anti-neuroinflammation in an Alzheimer’s disease animal model.
Cai M et al.
J Neuroinflammation. 2019 Dec 13;16(1):264. doi: 10.1186/s12974-019-1665-3.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31836020
https://jneuroinflammation.biomedcentral.com/…/s12974-019-1…


韓国、韓医学研究院の研究です。

以下、引用。

【結論】我々の発見は、電気鍼治療がアルツハイマー病モデルの神経炎症とシナプス退行性変性による認知機能障害を改善することを示した。

読んでみると難解ですが、画期的な研究だと感じました。アルツハイマー病はアミロイドβ沈着した部分のミクログリアやアストロサイトの炎症によって悪化します。

以下、引用。

まとめると、われわれのデータによれば、電気鍼治療はミクログリアを介してのアミロイドβ斑を減少させる。

凄いことがサラっと書いてあります。

以下、引用。

神経炎症は活性化ミクログリアの存在によって示され、アルツハイマー病の病因として重要な要素である。

活性化ミクログリアによって放出された炎症サイトカインを含むマーカーは、神経の退行性変性の結果であり、アミロイド斑と関連している。

いくつかの論文は、電気鍼の抗炎症効果は脳血管性認知症動物のTLFシグナルを含むTNFーα腫瘍壊死因子やインターロイキン1βを抑制し、認知機能を改善することを示している。

付け加えると、フェンらは電気鍼が認知機能低下と関連するインターロイキン1αやインターロイキン6、腫瘍壊死因子TNFーα-などの炎症サイトカインの発現レベルを抑制することを示した。

これらの論文出版物と一致して、われわれのデータは電気鍼が5XFADマウスの前頭前野での神経炎症と関連する蛋白質CD11b、GFAP、COXと、酸化関連蛋白質(HOー1、トランスフェリンそしてBax)を減少させることを示した。

これらのデータは、電気鍼治療がシナプス可塑性および神経炎症調節におけるシナプス構造を調節することを示唆している。

2018年頃から電気鍼が海馬のシナプス形成を促進して認知障害を改善するという研究が発表されていますが、上記論文はそれとは別の神経炎症に働きかける機序です。アミロイドβ斑の減少とは本当でしょうか。

2018年広州中医薬大学
『電気鍼は成人ラットでの認知障害を改善し、海馬のシナプス形成を促進する』
Electroacupuncture Ameliorates Cognitive Deficit and Improves Hippocampal Synaptic Plasticity in Adult Rat with Neonatal Maternal Separation
Lili Guo
Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine
Volume 2018, Article ID 2468105, 9 pages
https://doi.org/10.1155/2018/2468105
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5896274/
https://www.hindawi.com/journals/ecam/2018/2468105/

2019年1月10日 上海中医薬大学『神経再生研究』
「顔面神経挫傷後の電気鍼による末梢神経再生とグリア細胞由来神経栄養因子発現のアップレギュレイト上方向性調節」
Electroacupuncture promotes peripheral nerve regeneration after facial nerve crush injury and upregulates the expression of glial cell-derived neurotrophic factor
Jing Fei et al.
Neural Regeneration Research
Year : 2019 | Volume : 14 | Issue : 4 | Page : 673-682
http://www.nrronline.org/text.asp?2019/14/4/673/247471

現在、大きな話題になっているのが、神経障害性疼痛であり、 従来は「神経細胞=ニューロン」ばかり研究されていましたが、その周囲のグリア細胞(=神経膠細胞)は注目されませんでした。ところが、P2X4R受容体を研究するうちに神経障害性疼痛、慢性疼痛ではグリア細胞こそが主役であり、特にマクロファージ起源のミクログリア細胞が産生する因子が主役となることが判明しました。これはニューロンからだけ見ていたらわからなかった事実であり、疼痛理解のパラダイム・シフトになります。

神経損傷が起こると脊髄内のミクログリア細胞が活性化し、ミクログリア細胞内のP2X4R受容体が活性化するとミクログリア細胞はBDNF(脳由来神経成長因子)を放出し、脊髄第1層ニューロンを異常興奮させ、神経障害性疼痛となります。電気鍼はGDNF(グリア細胞由来神経栄養因子)と細胞間吸着因子のカドヘリンを発現させることで末梢神経再生をうながします。

鍼は神経可塑性(に働きかけるという論文が次々と発表されています。

2019年10月16日『統合神経科学』に北京中医薬大学が発表
「鍼治療は視神経損傷に対してRNAシークエンス分析により網膜遺伝子発現を逆転させている」
Acupuncture Treatment Reverses Retinal Gene Expression Induced by Optic Nerve Injury via RNA Sequencing Analysis.
Chen J et al.
Front Integr Neurosci. 2019 Oct 16;13:59.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31680887

以下、引用。

興味深いことに風池の場所は後頚部であり、眼の場所から離れているが、このツボへの刺鍼と刺激は網膜の遺伝子調節に影響し、それは眼疾患に対して風池が選ばれる理由を説明している。最後に、鍼治療は後根神経節と脊髄神経を介した電気シグナルによるものであり、眼の血流を調節し、鍼治療が開放隅角緑内障の眼血流量を調節する可能性が報告されている。

鍼治療は神経栄養因子と網膜における脳由来神経成長因子の発現を調節すると報告されており、網膜での遺伝子発現と神経栄養因子の供給を調節するのかもしれない。

鍼の神経可塑性と抗炎症作用のメカニズムこそが次のテーマだと思います。

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