P2Xレセプター

2019年9月 「P2Xレセプターと鍼鎮痛」
P2X receptors and acupuncture analgesia
YongTangacHai-yanYincJuanLiucPatriziaRubinibPeterIllesbc
Brain Research Bulletin
Volume 151, September 2019, Pages 144-152
https://www.sciencedirect.com/…/arti…/pii/S0361923018305768…

もともとユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの神経科学者ジェフリー・バーンストックがプリン受容体を2000年代に研究しました。プリン受容体の一種がP2Xレセプターです。また、2010年にロチェスター大学のマイケン・ネダーガード先生がナンナ・ゴールドマン先生と『ネーチャー・ニューロサイエンス』に歴史的な鍼の研究を発表しました。鍼は神経を刺激するのではなく、皮膚・皮下組織・結合組織を歪ませることでケラチノサイトからATPが放出されてP2X3受容体を介して鎮痛作用を発現するというのです。 ATPが鍼の鎮痛に重要な役割を果たすことが判明しました。

2010年「アデノシンA1受容体を介した局所の鍼の抗侵害受容的効果」
Adenosine A1 receptors mediate local anti-nociceptive effects of acupuncture
Nanna Goldman,Maiken Nedergaard. et al.
Nature Neuroscience 13, 883–888 (2010)
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3467968/

上記の論文はイギリス国営BBC放送で「鍼の鎮痛の分子を特定」と大きく報道されました。

2010年5月30日イギリス国営『BBC』
「鍼の痛み分子が特定された」
Acupuncture pain molecule pinpointed
https://www.bbc.com/news/10185247

ATPの研究者、マイケン・ネダーガード先生は、2013年に脳からの老廃物を排出するリンパ系と翻訳されるグリンファティック・システムを発見しました。この脳からの排出経路はlymphatic system(リンパ系)とglial cell(グリア細胞)とを組み合わせて 「グリンファティック・システム(Glymphatic system)」 とマイケン・ネダーガード先生に名づけられ、大発見として世界的に報道されました。これはグリア細胞依存の水排出システムです。

この辺りから、我々の解剖学や生理学の知識には認識論的陥穽、落とし穴が空いていることが明確になってきました。しかも、かなりの大穴が空いているのです。現代に生きる人々の多くはこの大穴の存在さえ気付かず、しかも死ぬまで気付かない可能性の方が高いです。サイエンスのエッジの部分ではパラダイム・シフトが進行中で、ついていくのさえ精一杯の変化が起こっています。

以下、引用。

ツボにあるケラチノサイト、フィブロブラスト線維芽細胞、エピシィーリアム上皮細胞、エンドシィーリアル内皮細胞、メルケル細胞、ラングハンス細胞などへの異なる刺激によってATP放出が起こる役割は何なのか?

鍼鎮痛における神経影響

(A)鍼や灸のような鍼灸プロセデュワは皮膚、皮下組織、筋肉を刺激する。

(B)鍼は細胞内から細胞外空間にATPを放出させる。ATPとその酵素減成生成物は脊髄後根神経節ドーザル・ルート・ガングリア由来の感覚神経の末梢のP1、A1、P2X/P2Yレセプター受容体を刺激する。

(C)これらのレセプター受容体群は直接、脊髄後根神経節DRGの活動電位の伝播を調整するが、非間接的にも高次の痛覚センターに終わる上行性ニューラル・パスウェイの化学トランスミッションを調節する。脊髄神経の脊髄後根神経節の神経細胞体は、感覚インプットと運動アウトプットと隣接して見られる。

8.結論

一方で、全ての形式の鍼刺激でATPが放出され、このATPはアデノシンの前駆物質として供給され、神経のA1レセプターを活性化して鍼鎮痛を引き起こすという明白なエビデンス証拠が存在しているが、ATPの役割は理解されているというには程遠い。

ATPは感覚トランスミッター/局所と中枢神経をつなぐ神経疼痛パスウェイである。三つのタイプのP2X受容体群が含まれており、P2X3受容体は感覚ニューロンに含まれ、P2X4受容体はミクログリアに含まれ、P2X7受容体はミクログリア、アストロサイト、オリゴデンドロサイト乏突起膠細胞に含まれており、グリア細胞で刺激される。そしてP2X3受容体は直接、神経機能を調整するが、P2X4受容体とP2X7受容体はグリア細胞ニューロンのクロストークを通じて間接的に神経に機能するのである。

不明な点は多いのすが、ATPと結合組織、グリア細胞が鍼鎮痛の謎を解くためのポイントのようです。2020年代の鍼の科学的研究のテーマが徐々に見えてきました。

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