慢性甲状腺炎・橋本病

2016年「橋本病・慢性甲状腺炎の中医学弁証論治の研究発展」
中医药辨证论治桥本甲状腺炎研究进展
马燕云,曾娟花,唐红
Traditional Chinese Medicine
Vol.05 No.01(2016), Article ID:16984,6 pages
https://image.hanspub.org/Html/5-2270114_16984.htm

橋本病・慢性甲状腺炎は1921年に日本の橋本策先生が発見・提唱しました。中国語では「慢性淋巴性甲状腺炎」です。中医学古典では瘿病(えいびょう)、瘿瘤(えいりゅう)、瘿気(えいき)
に相当します。

隋代、『諸病源候論』に瘿瘤として初出しました。当時から鍼をしています。「憂いや恚(いかり)によって気が結ぼれて生じる」と論じられています。唐代の『千金翼方』や『外台秘要方』には瘿瘤の処方が多数、掲載されています。

《诸病源候论》瘿瘤等病诸候
http://www.zysj.com.cn/lilu…/zhubingyuanhoulun/623-35-1.html
一、瘿候:瘿者,由忧恚气结所生,亦曰饮沙水,沙随气入于脉,搏颈下而成之。初作与瘿核相似,而当颈下也,皮宽不急,垂捶捶然是也。恚气结成瘿者,但垂核捶捶,无脉也;饮沙水成瘿者,有核 无根,浮动在皮中。
又云有三种瘿∶有血瘿,可破之;有 肉瘿,可割之;有气瘿,可具针之。

宋代、『聖済総録』『三因極一病証方論』では五瘿(ごえい)が論じられています。

《圣济总录》卷第一百二十五·瘿瘤门
http://www.zysj.com.cn/lilunshuji/shengjizonglu/index.html
论曰∶石瘿泥瘿劳瘿忧瘿气瘿,是为五瘿,石与泥则因山水饮食而得之,忧劳气则本于七情,情之所至,气则随之,或上而不下,或结而不散是也。

《三因极一病证方论》瘿瘤证治
http://www.zysj.com.cn/…/sanyinjiyibingzhengf…/627-19-2.html
夫血气凝滞,结瘿瘤者,虽与痈疽不同,所因一也。瘿多着于肩项,瘤则随气凝结。此等皆年数深远,浸大浸长。坚硬不可移者,名曰石瘿;皮色不变,即名肉瘿;筋脉露结者,名筋瘿;赤脉交络者,名血瘿;随忧愁消长者,名气瘿。五瘿皆不可妄决破,决破则脓血崩溃,多致夭枉。

明代の『普済方』で気血凝滞という病機が確立され、清代、祁坤著、『外科大成』では気血虚弱から四物湯が使われました。
明代、陳実功著、『外科正宗』では気・痰・ 瘀壅结と病因がまとめられています。

2016年の「橋本病・慢性甲状腺炎の中医学弁証論治の研究発展」の論文では、初期を肝気鬱結・気鬱化火として分析し、中期は痰凝気滞血瘀として、後期は欝熱が陰を灼いての陰虚火旺、あるいは脾腎陽虚から温陽散寒しています。橋本病を陽虚だけでなく、鬱熱や陰虚の側面から分析しているのが勉強になります。

2012年に何金森先生は橋本病患者さんの任脈の関元(CV4)と督脈の命門(GV4)に附子灸をして効果を報告されています。これは陽虚に対する強い補陽作用です。

2012年「関元・命門の隔附子灸による橋本甲状腺病への甲状腺機能への影響」
隔附子饼灸关元、命门为主对桥本甲状腺炎患者甲状腺功能的影响
夏勇 夏鸣喆 李艺 刘世敏 具紫勇 何金森
《中国针灸》 2012年02期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-ZGZE201202012.htm
※灸药组予隔附子饼灸,穴取①膻中、中脘、关元,②大椎、肾俞、命门,两组交替,轮流施灸

2019年に湖北中医薬大学の研究者は「橋弓」穴という奇穴への推拿と体鍼を橋本病患者に行い、効果を報告しています。「橋弓(http://www.rentixuewei.com/…/zh…/xuewei/2013/1214/12297.html)」穴は頸動脈洞を刺激します。

2019年「針刺と推拿治療の結合による橋本甲状腺病の治療の臨床観察研究」
针刺结合推拿治疗桥本氏甲状腺炎的临床观察研究
陈子安 《湖北中医药大学》 2019年
http://cdmd.cnki.com.cn/Article/CDMD-10507-1019125221.htm

※推桥弓推拿手法与针刺结合治疗,首先取双下肢足三里、阴陵泉、阳陵泉、三阴交、太溪、太冲等穴与双上肢曲池、外关、列缺等穴按照针刺标准规范进行针刺治疗,与此同时平刺围刺颈部甲状腺局部部位,针刺后立即予以推桥弓手法推拿治疗,3个疗程后观察评估疗效。

一つの疑問として、例えば放射能汚染による甲状腺の病気は、中国伝統医学の病因病機で何と表現するかがあります。わたしの感覚では「毒」です。現実問題として、アメリカの鍼灸は抗がん剤化学療法副作用の末梢神経障害に使われています。これは「薬の毒」を解毒しているわけです。中国政府は新疆ウイグル自治区、タクラマカン砂漠のロプノールで核実験を行い、被曝した物理学者・科学者たちを鍼灸・漢方で治療していました。これは「解毒」の治療です。今後の日本では解毒の治療論が不可欠だと考えています。

デンマーク・コペンハーゲン大学の小児科医ニールス・スカケバエク教授の提唱する精巣形成不全症候群は尿道下裂、停留精巣、低い精液の質、精巣癌から成る概念です。その概念を研究している最中に、名古屋市立大学病院が2018年に発表した論文を見つけました。

2018年「福島原発事故後の全国での『停溜精巣(cryptorchidism)』の増加」
Nationwide Increase in Cryptorchidism After the Fukushima Nuclear Accident.
Murase K et al.
Urology. 2018 Aug;118:65-70. doi: 10.1016/j.urology.2018.04.033. Epub 2018 May 8.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/29751027

以下、引用。

【結論】停溜精巣の入退院率は日本全国で増加していた。低体重の赤ちゃんおよび早産の赤ちゃんという停溜精巣のリスクファクターは、研究期間中、一定であったので、停溜精巣の増加は原発事故と関連していることが示唆される。

2018年5月には福島第1原発事故後に赤ちゃんの停溜精巣が日本全国で増加していることが学術論文で報告されました。

2019年3月には福島第1原発事故後に1歳未満の乳児に対する複雑心奇形手術の件数が日本全国で増加していることが日本胸部外科学会のデータを使った学術調査で判明し『アメリカ心臓病学会雑誌(JAHA)』という一流医学雑誌で報告されています。

2019年3月13日「福島原発事故後の複雑心奇形の日本全国での増加」
Nationwide Increase in Complex Congenital Heart Diseases After the Fukushima Nuclear Accident
Kaori Murase , Joe Murase, and Akira Mishima
Journal of the American Heart Association Vol. 8, No. 6
https://www.ahajournals.org/doi/10.1161/JAHA.118.009486

上記の情報は新聞やテレビなどの大手メディア、医療メディア、「サイエンスライター」は報道していません。臨床家としては事実とデータから帰納法的推論をおこない、危機管理学・公衆衛生学における予防原則にしたがい、未来に予測される甲状腺疾患の増加にも対応ができるように個人的に研究・準備するだけです。

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