前立腺肥大症への鍼の深さ問題

前立腺肥大症、前立腺肥大症は中医学の癃閉(りゅうへい)に相当します。鍼灸では中りょうや
次りょうなどの八りょうがよく使われます。わたしは八髎の圧痛点をよく使いますが、浅くても効く印象をもっています。

この論文では中極と関元、足三里と三陰交の2Hz電気鍼で、42人の被験者に筋肉層への挿入と
皮下組織への挿入で週に2回の合計12回6週間の治療で効果を比較し、どちらのグループも尿流量が増加しました。

以下、引用。

(2Hzと100Hzの電気鍼の効果が違うという先行研究があり)したがって電気鍼の効果を増やす方法についてさらなる研究が必要である。年齢、前立腺サイズ、排尿ボリューム、全尿流量など、(深刺の真鍼グループと浅刺の偽鍼グループの)2つのグループで顕著な差は存在しなかった。

深く刺しても浅く刺しても効果は同じという研究は他にも沢山あります。

『黄帝内経素問・宣明五気篇』では「膀胱不利なら癃(りゅう)となり、膀胱不約なら遺溺(いにょう)となる」と初出しています。

膀胱不利为癃，不约为遗弱
《黄帝内经·素问》宣明五气篇第二十三
http://www.zysj.com.cn/lilunshuji/huangdisuwen/100-3-23.html

『霊枢・本輸篇』では「実すれば閉癃し、虚すれば遺溺となる。遺溺ならすなわちこれを補し、閉癃ならこれを瀉す」とされています。

三焦者･･･，入络膀胱，约下焦，实则闭癃，虚则遗溺，遗溺则补之，闭癃则泻之。
《黄帝内经·灵枢》本输第二
http://www.zysj.com.cn/lilunshu…/huangdilingshu/101-3-2.html

隋代、巣元方著『諸病源候論』では、膀胱虚寒では頻尿となり、膀胱と腎が虚して熱があれば小便数となるなどの基礎理論が論じられています。

小便利多候：小便利多者，由膀胱虚寒，胞滑故也。肾为脏；膀胱，肾之腑也，其为表里，俱主水。肾气下通于阴，腑既虚寒，不能温其脏，故小便白而多。其至夜尿偏甚者，则内阴气生是也。
小便数候：小便数者，膀胱与肾俱虚，而有客热乘之故也。肾与膀胱为表里，俱主水，肾气下通于阴。此二经既虚，致受于客热。虚则不能制水，故令数小便热则水行涩，涩则小便不快，故令数起也。
《诸病源候论》小便病诸候
http://www.zysj.com.cn/lilu…/zhubingyuanhoulun/623-18-3.html

宋代、陳言著『三因極一病証方論』では、淋は古は 癃(りゅう)とよばれて、名称は同じではなかった。癃は「罷(罢=止める)」であり、淋は「滴(したたる)」と論じています。

淋，古谓之癃，名称不同也。癃者，罢也；淋者，滴也
古方皆云∶心肾气郁，致小肠膀胱不利，复有冷淋、湿淋、热淋等，属外所因；既言心肾气郁，与夫惊忧恐思，即内所因；况饮啖冷热，房室劳逸，及乘急忍溺，多致此病，岂非不内外因。
《三因极一病证方论》淋闭叙论
http://www.zysj.com.cn/…/sanyinjiyibingzhengf…/627-16-5.html

個人的には癃閉と淋証の概念は難しいと感じています。

金元代、朱丹渓著『丹渓心法』では、「小便不通は気虚、血虚、痰があり、風閉と実熱がある」と論じて、さらに腎･膀胱･小腸の関係を論じています。

小便不通，有气虚、血虚、有痰、风闭、实热。
肾主水，膀胱为之府，水潴于膀胱而泄于小肠，实相通也。
《丹溪心法》小便不通四十
http://www.zysj.com.cn/lilunshuji/danxixinfa/650-14-13.html

明代、張景岳著『景岳全書』では癃閉や関格を論じていますが、難解です。

凡癃闭之证，其因有四，最当辩其虚实。有因火邪结聚小肠膀胱者，此以水泉干涸，而气门热闭不通也。有因热居肝肾者，则或以败精，或以槁血，阻塞水道而不通也；若此者，本非无水之证，不过壅闭而然，病因有余，可清可利，或用法以通之，是皆癃闭之轻证也。18:58
《景岳全书》癃闭
http://www.zysj.com.cn/lilunsh…/jingyuequanshu/124-40-2.html

清代、李用粹著『証治匯補』では、腎・膀胱・小腸・三焦の関連、肝経の不通、脾の湿熱、肺などの関連が詳細に論じられています。

膀胱者．州都之官．津液藏焉．气化则能出矣．故膀胱不利为癃．三焦者．决渎之官．水道出焉．故三焦实则闭癃。
内因：有心肾不交．阴阳不通．而内外关格者．有热结下焦．壅塞胞内．而气道涩滞者．有肺中伏热．不能生水．而气化不施者．有脾经湿热．清气郁滞．而浊气不降者．有痰涎阻结．气道不通者．有久病多汗．津液枯耗者．
有肝经忿怒．气闭不通者．有脾虚气弱．通调失宜者．
治法：一身之气关于肺．肺清则气行．肺浊则气壅．故小便不通．由肺气不能宣布者居多．宜清金降气为主．并参他症治之．若肺燥不能生水．当滋肾涤热．夫滋肾涤热．名为正治．清金润燥．名为隔二之治．燥脾健胃．
《证治汇补》癃闭
http://www.zysj.com.cn/lilunshu…/zhengzhihuibu/636-14-7.html

良性前立腺肥大( BPH)の下部尿路症状(LUTS)について、2017年に中西医結合診療ガイドラインの試行版が発表されています。

2017年「良性前立腺肥大の中西医結合診療ガイドライン」
良性前列腺增生中西医结合诊疗指南(试行版)
孙自学 宋春生 邢俊平 毛向明 李湛民 郝高利
《中华男科学杂志》 2017年03期
http://www.cnki.com.cn/Article/CJFDTOTAL-NKXB201703024.htm
http://www.pubmedchina.com/…/Jia…/pdffulltext/1527038480.pdf
(↑全文オープンアクセスPDFファイル)

腎気虚、中気下陥、気滞血オ、湿熱蘊結、腎虚血オ、腎虚湿熱、湿熱オ阻、脾腎両虚などの弁証パターンが提唱されています。