張克鎮先生と間質と生理的空間と経絡

2020年3月4日「人体における生理的空間の重要性と医学的含意」
The Significance of Physiological Spaces in the Body and Its Medical Implications
Kezhen Zhang
Resaach Volume: 2020
Published: 4 March 2020
https://spj.sciencemag.org/research/2020/7989512/


一流科学雑誌『サイエンス』の季刊雑誌『リサーチ』に生理的空間と経絡に関する論文が掲載されました。北京泰済堂中医医院の張克鎮先生の論文です。

2018年3月に西洋医学における解剖組織 、間質の発見が三焦や経絡と関連付けて報道されました。

2018年3月27日
「認識されていない人体組織における『間質』の構造と拡がり」
Structure and Distribution of an Unrecognized Interstitium in Human Tissues
Petros C. Benias 
Scientific Reports volume 8, Article number: 4947 (2018)
doi:10.1038/s41598-018-23062-6 Published online:27 March 2018
https://www.nature.com/articles/s41598-018-23062-6

以下、引用。

われわれは粘膜下組織、真皮、筋膜、血管外膜の解剖学的概念を改訂することを提案する。それはコラーゲンの壁のようなものではなく、流体で満たされた内腔・空間であることを示唆している。

「流体で満たされた組織」であり緩衝効果があります。これは『ニューズウィーク日本版』で以下のように報道されました。

2018年3月29日『ニューズウィーク日本版』
『 ヒトの器官で最大の器官が新たに発見される 』
https://www.newsweekjapan.jp/stories/…/2018/03/post-9844.php

以下、引用。

<ニューヨーク大学医学部を中心とする研究プロジェクトによって、皮膚を上回る大きさの新たな”器官”が見つかった>

器官とは多細胞生物の体を構成する単位で、その形態を周囲と区別でき、全体としてまとまった機能を担うものをいう。これまでヒトの器官で最も大きいものは、体重のおよそ16%を占める皮膚とされてきたが、このほど皮膚を上回る大きさの新たな”器官”が見つかった。

米ニューヨーク大学医学部を中心とする研究プロジェクトは2018年3月27日、科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」で研究論文を発表。「皮膚の下にあり、消化管や肺、泌尿器系に沿ったり、動脈や静脈、筋膜を囲んだりしている層は、従来、結合組織と考えられていたが、実は体液を満たし、相互に連結し合う区画が全身にネットワーク化されたものであることがわかった」とし、「これを間質という新たな器官として定義すべき」と世界で初めて提唱した。

体重のおよそ20%に相当する体液で満たされた間質は、強度の高いコラーゲンと柔軟性のあるエラスチンという2種類のタンパク質による網目構造で支えられており、臓器や筋肉、血管が日常的に機能するように組織を守る衝撃緩衝材のような役割を担っている。また、注目すべき点として体液の移動通路としての働きがある。この体液がリンパ系に流れ込むことで、いわば免疫機能を支えるリンパの元となっているのだ。

この研究成果に大きく寄与したのが、生きた組織を顕微鏡レベルで観察できる高性能なプロープ型共焦点レーザー顕微鏡(pCLE)だ。研究論文の共著者でもあるデビッド・カーロック博士は2015年秋、この新しい技術を用いて患者の胆管でがんの転移を調べていたところ、胆管の内面を覆う粘膜下組織レベルにおいて、これまでの解剖学とは合致しない、相互に連結する空洞を偶然見つけた。

2018年6月号の『医道の日本』は『経絡経穴ファッシャ論』という特集を組みました。
2018年6月、ダニエル・キーオン著、『閃めく経絡―現代医学のミステリーに鍼灸の“サイエンス”が挑む!』が出版されました。

2014年3月20日、Daniel Keown
『スパーク・イン・ザ・マシーン』
The Spark in the Machine: How the Science of Acupuncture Explains the Mysteries of Western Medicine

以下は、張克鎮先生の論文からの引用です。

生理学的な「空間」と中国医学のまったく新しい理解

中国伝統医学の理論では、穴は空っぽな空間を意味しており、結節やキャビテーション(流体の空洞現象)などと『黄帝内経』で表現されてきた。

たしかに経穴の別名は「骨空」です。

以下は、張克鎮先生の論文からの引用。

5.2 鍼の臨床の際に空間で特徴づけられる経絡は証明できている。

鍼の臨床をする際に、経験を積んだ鍼師は経絡のクボミの状態を直接、その手で感じることができる。

空間的な経絡の特徴の現代科学実験による証明

1950年代に中谷義雄とフランスのニボイエは患者の皮膚の電気抵抗を測定し、古典におけるツボが電気をより流す性質があることを示した。

経絡経穴の電気抵抗の低さの理由は、その部分が比較的に多い間質液・組織液を含んでいるからである。

2014年「経絡の電気抵抗低下の研究:鍼の経絡の病態生理学的機能に関する推測」
Investigation of the Lower Resistance Meridian: Speculation on the Pathophysiological Functions of Acupuncture Meridians
Weisheng Yang ,et al.
Evid Based Complement Alternat Med. 2014; 2014: 107571.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4267216/
Published online 2014 Dec 2

以下は張克鎮先生の論文からの引用。

カゼをひいたあとで、筋肉のような軟部組織はカゼの刺激のために固くなってしまう。

筋肉のコリがおこると間質の空間は比較的狭くなり、血管や神経は異なる圧力となり、血液の正常な循環に影響する。

神経システムは必然的に影響を受ける。結果として、患者はそのエリアにさまざまな症状、頭痛、めまい、のどの痛みや乾燥、肩凝りや背中の痛み、扁桃の腫れや咳などがでる。

治療の際に西洋医学は対症療法をおこなう。一方、中国伝統医学はこれらの現象を風寒束表によって引き起こされた現象であるとして、風寒によって身体表面の軟部組織がそのような状態になったとみなす。

そして、カゼの発熱も、張克鎮先生は「うつ熱」として捉えているようです。

以下は張克鎮先生の論文からの引用。

そのような風寒のカゼの治療の際に、中国伝統医学は体温調節中枢の治療をしない。代わりに辛温解表の方法を使う。

(麻黄湯や葛根湯のような漢方の)アクションのメカニズムは、(1)体表にある寒さによる収縮を空間的に開放リラックスさせる。そして、体内のうつ熱を散らして体温を正常に戻す。(2)筋肉のような軟部組織の内部のスペースを開放して復元する。

血管のプレッシャーや神経のプレッシャーが解放されるとさまざまな症状が改善し、痛みは短期間に改善する。

穴を「人体の空間的歪み」と捉えて、鍼灸は歪みを正常化するという考え方は、現在の私と同じです。

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