2021年Covid19空気感染とピエール・ブルデュー的アプローチ

 
 
 
2021年5月26日『ストレイツ』
「研究者たちは政府の健康部門がCovid-19の認識が遅れたのはスキャンダルだと言っている」
 
 
オックスフォード大学の著者による以下の論文についての記事です。フランスの社会学者ピエール・ブルデューの社会学的分析を用いています。
 
 
2021年5月26日
「正統派、錯覚、そして科学ゲームをプレイする:Covid19パンデミックのブルデュー的分析」
Orthodoxy, illusio, and playing the scientific game: a Bourdieusian analysis of infection control science in the COVID-19 pandemic [version 1; peer review: awaiting peer review]
Trisha Greenhalgh
 
 
論文を読むと、WHOはファクト・チェックで「Covid-19は空気感染する」という正しい情報を2020年3月にフェイク・ニュースと呼んでいました。ドナルド・トランプと同じ事をWHO世界保健機構がしていたわけです。
 
以下、『ストレイツ』より引用。
 
彼は、2020年6月8日の『ネーチャー』でCovid19がエアロゾルによって感染するという証拠が増大していると論文を書いた。これらのパーティクルは飛沫よりも小さく、呼吸や会話で吐き出される。
 
 
2020年7月8日『ネーチャー』
増大する証拠はコロナウイルスが空中浮遊していることを示唆している。—しかし、健康に関するアドバイスは追いついていない。
 
2020年7月の『ネーチャー』論文で既に今回のパラダイム・シフトの主役であり、『サイエンス』論文を書いたリディア・モラウスカ教授が空気感染を既に警告しています。わたしも昨年のFACEBOOK記事で何度もMITの流体力学者などの物理学者たちがエアロゾル感染の可能性を警告しているコンピューター・グラフィックス動画や実験動画を紹介しました。
 
 
フランスの社会学者、ピエール・ブルデューは、学会などの知的世界を権力をめぐる闘争ゲームとして分析しています。物理学者、エアロゾル科学者たちはメインストリームの医学者たちに最初、徹底的に排除されました。それはブルデューの視点からは権力と支配のゲームなのです。
 
以下、引用。
 
(空気感染するというエアロゾル科学者たちの)異端の見方は、医学の分野の外側であるサイエンティスト科学者たちの間では支配的である。トップ・ジャーナルである『ネーチャー』は動物実験による空気感染の証拠を論文として多数出版した。
もう一つのトップ・ジャーナルである『サイエンス』も空気感染仮説をサポートする実験研究を出版している。
「SARS-CoV-2の感染は主に空中浮遊である」というエアロゾル科学者からのメッセージは無視され、2020年の医療および健康政策の主流の中で却下されたが、異端学説は死ななかった。それどころか、2021年春までに空中伝播の優位性は医学界でもより受け入れられるようになった。
例えば、2021年1月、Journal of Hospital Infectionは「重症急性呼吸器症候群コロナウイルスの空中伝播に関する神話を解体する」というタイトルの論文を発表した。2021年4月には、英国医学雑誌が「COVID19は空気感染を再定義した」を掲載した。」『ランセット』は『COVIDの空気感染を支持する根拠となる10の理由』を出版した。JAMAは(空気感染に対する)換気と空気フィルタリングに関するレビュー論文を掲載した。
 
ブルデュー的分析を行ったオックスフォード大学の論文著者は、アメリカ・イギリス・カナダ・日本の対策を比較していきます。その中では、日本の「3密対策」は空気感染を暗黙のうちに含んだものとして評価しています。これは私には無かったユニークな視点でした。私が論文を読むのは「自分では絶対に思いつかない視点を得るため」です。
 
空気感染を主張したのは物理学者たちであり、論文著者に医師が含まれていても、レイモンド・テイラー教授のように医学部の感染症教授になる前は物理学と数学の専門家だった人物なのです。そして、物理学者たちが医学史・文献学をさかのぼることで歴史学の手法を使って「5ミクロン以下のパーティクルのみが空気感染する」という非科学的信念が生まれた経緯を完璧に立証したことが「空気感染」派の勝利に決定的影響を与えました。ランダム化比較試験や実験データなどではなかったのです。
 
ミシェル・フーコーが『言葉と物』『知の考古学』『監獄の誕生』などでおこなった知の考古学的アプローチを物理学者たちがおこなって、ようやく論争に決着がつきました。この論文自体が、ミシェル・フーコー的手法をピエール・ブルデュー的に分析するというフレンチ・アプローチです。
 
これは今後の科学史・科学哲学・科学認識論に大きな影響を与えると思われます。この『ストレイツ』の記事や『オープンリサーチ』に掲載されたブルデュー的分析の論文は、まさに科学哲学の最前線であり、地球上のインテリジェンスの最高峰だと感じました。医学者と科学者たちが行っている権力と支配のゲームを見事に分析しています。これこそがインテリジェンスです。
 
 

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