片頭痛とストレス・コーピング

心身症診断・治療ガイドライン〈2006〉』では、鍼灸の臨床でひんぱんに出会う疾患がいかに心身に関連しているかを学ぶことができます。

腰痛に対する認知行動療法は、いかに慢性疼痛が精神や脳と関連しているかを教えてくれます。膝痛では「破局的思考」がキーワードになりつつあります。

片頭痛では片頭痛性格があります。スティーヴン・キングや三国志の英雄、曹操は典型的な片頭痛性格です。痛みの感受性が強く、自責的であり、野心家で完全主義などです。ダーウィン、フロイト、モーツァルト、ショパンも片頭痛があったそうです。クリエイティブなアーティストも多いです。曹操が鍼で片頭痛を治療してもらっていたことは正史『三国志』にも記録されています。

その後の片頭痛性格の研究について調査したところ、進展がありました。

1999年
「女性片頭痛患者の性格特性とメンタル・ストレスの精神医学的反応」
Personality Traits and Psychological Reactions To Mental Stress of Female Migraine Patients
DL Stronks,,
Cephalalgia
1999
https://journals.sagepub.com/…/10.1046/j.1468-2982.1999.019…

片頭痛患者は易怒性(怒りっぽい)などの片頭痛性格というわけではなく、ストレスのコーピング戦略が異なるというのが最新研究のようです。日本でも同じような研究があります。

2001年
「一般大学生における片頭痛と精神疾患, ストレスコーピング様式および行動面の特性について」
端詰 勝敬
『心身医学』2001 年 41 巻 8 号 p. 619-626
https://doi.org/10.15064/jjpm.41.8_619

前兆を伴わない片頭痛では、頭痛のないものと比較して能動的なストレスコーピング様式をとる傾向にあり、前兆の有無にかかわらず片頭痛の性格特性として時間切迫性が高いことが示唆された。

「時間切迫性」、つまり関西弁でいう「イラち」であることは言えそうです。ただ、鍼灸臨床家の実感として、易怒性は肝鬱タイプなら十分当てはまるという実感はもっていると思います。

鍼灸は対症療法として片頭痛の痛みを緩和できますが、片頭痛という患者さんの体質までは変えられないと思います。ストレス・コーピングの能動性や時間切迫性という性格特性も存在し、遺伝性もあるので、片頭痛は患者さんの個性であるとも言えます。

科学的にはともかく、臨床的には多くの臨床家が片頭痛性格の実在を認めると思います。片頭痛性格の存在は病気のとらえかたと関わってくると思います。英語の「コープ(cope)」は「対処する」であり、「コーピング」とは「なんとか対処する」という意味です。鍼灸は病気を治療するのではなく、病気との「コーピング」を助けるのではないかと最近は考えています。

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