破局的思考

2014年「疼痛部位の違いが心理状態に及ぼす影響について」
田中真一、et al.
『西九州リハビリテーション研究』 7, 27-29, 2014
http://www.nisikyu-u.ac.jp/…/libr…/information/detail/i/396/

以下、引用。

Cho CH ら(2013)は肩の慢性痛患者は不安が強く睡眠障害に陥っていることを報告しており、Keef FJ ら(2000)もまた、変形性膝関節症の患者は反芻や無力感などの破局的思考に傾いていることを報告している。上肢や体幹、下肢は ADL においてそれぞれ異なる役割を担っているため、痛みが ADLに及ぼす影響はその疼痛が存在する部位によって異なると考えられ、さらに有痛部位によって心理状態も異なる可能性がある。

慢性疼痛が急性疼痛とまったく違う病態であることがようやく認識されてきました。その差異の一つとして、慢性疼痛患者は破局的思考をもっていることが分かってきました。

破局的思考による疼痛の慢性化を意味する「ペイン・カタストロフィジング」という専門用語はウィキペディア英語版にも載っています。痛みに対する不安や恐怖が極度になってしまった状態の患者さんは、痛みが慢性化しやすいのです。予言の自己成就の状態です。

特に変形性ひざ関節症の患者さんは、破局的な思考を持っていることが多いです。

2009年
「ペイン・カタストロフィジングと変形性関節症患者の痛みに関連した恐怖:痛みと機能障害との関係」
Pain Catastrophizing and Pain-Related Fear in Osteoarthritis Patients: Relationships to Pain and Disability
Tamara J. Somers,
J Pain Symptom Manage. 2009 May; 37(5): 863–872.
Published online 2008 Nov 28. doi: 10.1016/j.jpainsymman.2008.05.009
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC2702756/

破局的思考は痛みの慢性化の予測因子となります。

【ペイン・カタストロフィジングの概念の歴史】

1955年
アルバート・エリスが論理療法を創り、のちに理性感情行動療法(REBT:Rational emotive behavior therapy)に発展させました。

1963年
精神科医のアーロン・ベックがアルバート・エリスの論理療法を参考にして「認知の歪み」をキーワードにした認知療法を創りました。

1977年
ドナルド・マイケンバウムが「認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy:CBT)」という言葉を創りました。

1970年代から1980年代に疼痛への認知行動療法(CBT)を行なっている心理臨床家によってペイン・カタストロフィジングの概念が認識されてきました。

1995年
破局的思考スケールが開発されます。

1995年「破局的思考スケール」
Catastrophizing Scale: development and validation.
Sullivan MJ, Bishop S, Pivik J.
Psychol Assess. 1995;7:524-532.

2007年
破局的思考スケールの日本語版が開発されました。

2007年
「痛みの認知面の評価 : Pain Catastrophizing Scale日本語版の作成と信頼性および妥当性の検討」
松岡 紘史, 坂野 雄二
『心身医学』2007 年 47 巻 2 号 p. 95-102
https://www.jstage.jst.go.jp/…/47_KJ000044949…/_pdf/-char/ja

ペイン・カタストロフィジング(破局化)の概念は、以下の論文を読むとわかりやすいです。

2010年
「慢性疼痛と破局化(<特集>慢性疼痛の心身医学)」
水野 泰行
『心身医学』2010 年 50 巻 12 号 p. 1133-1137
https://www.jstage.jst.go.jp/…/50_KJ00006…/_article/-char/ja

鍼灸臨床家は慢性疼痛を治療することが多く、ペイン・カタストロフィジング(破局化)の概念は疼痛理解に役立ちます。

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