四物湯と血虚と不安・抑うつとレジリエンス

2021年07月26日『メディカル・トリビューン』
「精神症状への東洋医学的アプローチ」
東邦大学医療センター 大森病院東洋医学科准教授/診療部長 田中 耕一郎

補血の基本処方である四物湯は当帰、川芎、芍薬、地黄で構成されています。四物湯は最近、不安や抑うつ症状に使われています。心理学におけるレジリエンスを高めていくイメージです。

以下、引用。

【加齢による不安、抑うつ症状に対しての対策は?】
東洋医学では、一般的な人生を歩んでいれば「年を取って丸くなる」とは限らず、むしろ不安や恐れが増強すると考える。加味逍遙散、抑肝散は加齢に対する精神的機能低下(東洋医学的には血虚と呼ぶ)に配慮した処方である。そのため、鎮静という対症療法的な側面以外に、機能の低下速度を緩徐にする目的もある。この血虚を治療する基本的な処方が四物湯である。

 四物湯の有効性については、田原ら(2020)が不安、うつ症状に対して用いることで判断力が回復し、精神症状を改善すると報告している。患者が有する精神的な脆弱性を血虚と捉えることで、徐々にそのレジリエンスを高めていくイメージである。今後のさらなる高齢化の進展に鑑み、不安、抑うつ症状に対し、早期に検討してもよい選択肢かもしれない。東洋医学においては伝統的な処方であるものの、今後の科学的検証が期待される領域である。

2020年「四物湯を含む処方が精神症状を改善した6症例」
田原 英一,『日本東洋医学雑誌』2020 年 71 巻 2 号 p. 94-101

四物湯を含む処方が奏功した6例を経験した。
症例1は13歳男性で起床困難であったが、集中力低下を目標に治療したところ、通学も可能になった。
症例2は18歳女性で起床困難だったが、同じく通学が可能になった。
症例3は10歳女性で、治療により部分的に通学可能となった。
症例4は42歳男性で、社交不安に対して四物湯を追加したところ改善した。
症例5は多愁訴であったが、四物湯を含む処方で症状が軽減した。
症例6は56歳女性で同じく多愁訴であったが、四物湯を含む処方で症状が軽減した。いずれの症例もうつ、不安が明らかであり、4例でコルチゾールの低下を認め治療により回復した。
四物湯は血虚を治療することで集中力、判断力を回復し精神症状を改善すると考えられる。

2019年「神経変性疾患と血虚との関連性について」
溝井 令一『日本東洋医学雑誌』2019 年 70 巻 1 号 p. 1-7

神経変性疾患と最も関連性が高い証は血虚であった。四物湯類の処方を考慮することは、患者の苦痛軽減に寄与できる可能性がある。

四物湯は宋代の『太平恵民和剤局方』イコール『和剤局方』治婦人諸疾に初出しています。栄気・衛気を調益し、気血を滋養します。衝脈任脈の虚損、月経不順、臍腹痛、崩漏(子宮からの不正出血)などを治療します。

《太平惠民和剂局方》卷之九 治妇人诸疾
https://ctext.org/wiki.pl?if=gb&res=712108&remap=gb
四物汤
调益荣卫,滋养气血。治冲任虚损,月水不调,脐腹 痛,崩中漏下,血瘕块硬,发歇疼痛,妊娠宿冷,将理失宜,胎动不安,血下不止,及产后乘虚,风寒内搏,恶露生瘕聚,少腹坚痛,时作寒热。
当归(去芦,酒浸,
炒 川芎
白芍药
熟乾地黄酒洒,蒸,各等分上为粗末。
http://www.zysj.com.cn/l…/taipinghuiminhejijufang/index.html

四物湯はハーブであり、鉄分などの微量元素も豊富です。現在、鉄分や亜鉛やセレン、マンガンなどの微量元素(ミネラル)の不足と、不安、抑うつ気分などの精神症状の関連が議論されています。

2018年7月「鉄欠乏性貧血と『うつ』の関係:ウェブベースの日本の調査」
Association between iron-deficiency anemia and depression: A web-based Japanese investigation
Shinsuke Hidese et al.
Psychiatry Clin Neurosci
. 2018 Jul;72(7):513-521. doi: 10.1111/pcn.12656. Epub 2018 May 9.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/29603506/
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/pcn.12656

【結論】鉄欠乏性貧血の自己申告の病歴は、うつ病の自己申告の病歴と関連していた。

2019年「日本の労働者人口における低い亜鉛・銅・マンガン摂取と『うつ』『不安』の関係:食習慣と健康の研究」
Low Zinc, Copper, and Manganese Intake is Associated with Depression and Anxiety Symptoms in the Japanese Working Population: Findings from the Eating Habit and Well-Being Study
Mieko Nakamura et al.Nutrients . 2019 Apr 15;11(4):847. doi: 10.3390/nu11040847.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/30991676/
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/labs/pmc/articles/PMC6521019/

結果として、亜鉛と銅が同じくらいに低いと抑うつと不安のリスクは3倍高かった。

科学的には、亜鉛・鉄・銅・マンガンとうつ、不安の関係は不明です。おそらく、複数の要素が関係しているようです。

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