鍼は鉄欠乏性肥満患者を治療できる:レプチンと鉄

2017年
「鍼は鉄欠乏性肥満患者の腸管での鉄吸収を促進できる:ランダム化比較試験」
Acupuncture Improves Intestinal Absorption of Iron in Iron-deficient Obese Patients: A Randomized Controlled Preliminary Trial
Xin-Cai Xie et al.
Chin Med J (Engl). 2017 Mar 5; 130(5): 508–515.
doi: 10.4103/0366-6999.200549
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/labs/pmc/articles/PMC5339922/

かつて、痩舌で淡白舌、舌尖(心)と舌辺縁(肝胆)に歯痕の陥凹があり、明らかな心肝血虚の患者さんに半年ぐらい補血の鍼灸治療をし続けて舌尖と舌辺縁の陥凹がなくなり、淡紅舌となり、睡眠状態が改善したことがあります。東洋医学の血虚は鍼灸で補血できると個人的経験から思いました。

西洋医学の鉄欠乏性貧血の患者さんで、鉄剤を飲むと胃腸の調子が悪くなり、貧血が悪化するパターンもあります。

1998年に発見された、肝臓で合成されるヘプシジンはマクロファージにおける鉄の貯蔵を調節します。

以下、引用。

これらの結果は、肥満患者によく起こる貧弱な鉄の状態はヘプシジンによる食事からの鉄吸収の阻害によって起こるという仮説を強めている。

レプチンは脂肪細胞から分泌されるホルモンで、食物摂取を阻害し、エネルギー消費を刺激する。レプチンはヘプシジンの発現を促進することが示されており、血漿ヘプシジンレベルと強い直接的な相関関係がある。レプチン血漿濃度は肥満のヒトで特に上昇する。減量プログラムにさらされた肥満の子供では、レプチンの減少はヘプシジンの減少に関連している。レプチンは肥満の状況でヘプシジン産生を制御する上で重要な役割を果たす可能性がある」

60人の鉄欠乏性肥満患者を鍼治療群30人と対照群30人に割り付け、中かん(CV12)・関元(CV4)・腹結(SP14)などに鍼を2週間した後で鉄補充療法を行いました。結果として、8週間後に鍼治療群は87パーセント、対照群は13.3パーセントが3キログラム以上の体重減少を記録しました。鍼治療群ではレプチンとヘプシジンの血清レベルが減少しました。

以下、引用。

私たちの研究は、鍼治療が全身のレプチン-ヘプシジンのレベルをダウンレギュレートすることによって腸の鉄吸収を促進する可能性があり、レプチン-ヘプシジンの減少は体重減少の結果である可能性があることを示唆している。

結論として、鍼治療は腸の鉄吸収を改善することにより、肥満関連の鉄欠乏症、鉄欠乏性肥満に対する経口鉄補充の治療効果を高めるように思われる。

鉄欠乏性貧血の患者さんが鉄剤を投与されると、胃腸に負担がかかって、逆に貧血が悪化するという現象はよく見られます。

鍼灸で胃腸の調子がよくなると、自然と貧血や東洋医学の血虚が改善される現象を臨床家の先生方はよく経験していると思います。この2017年論文は、臨床で経験する現実をよく説明できる印象があります。

鉄欠乏性肥満は高レプチン血症と高ヘプシジン血症を特徴としているそうです。全身性の炎症があり、さらに脂肪細胞、マクロファージからのインターロイキン6などの炎症性サイトカインは肝臓でのヘプシジン合成を促進して、さらなる高ヘプシジン血症からの鉄欠乏症を起こす悪循環があるそうです。

2014年『栄養』
「勃興しつつある、肥満のリスク・ファクターとしての鉄欠乏症」
Obesity as an Emerging Risk Factor for Iron Deficiency
Elmar Aigner et al.
Nutrients. 2014 Sep; 6(9): 3587–3600.
Published online 2014 Sep 11.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/labs/pmc/articles/PMC4179177/

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