吸玉カッピングのエビデンス・マップと軟部組織の阻血と阻血性圧迫

 
2021年7月28日
「オリンピックのアスリートの肌に赤黒いマルとして吸玉療法がかえってきた」
 
 
以下、引用。
 
2019年に『伝統補完医療雑誌』で出版された研究によれば、大規模ランダム化臨床試験、システマティックレビュー、メタアナリシスによって、将来、その効果を白日のもとにさらす必要がある。
もっとも議論のある観点は、吸玉カッピング療法がプラセボ効果しか持たないというものだと、研究は述べる。
 
 
 
2019年サウジアラビア厚生省NCCAМ国立補完代替医療センター
『伝統補完医療雑誌』
「吸玉カッピング療法の医学的展望:効果とメカニズム」
The medical perspective of cupping therapy: Effects and mechanisms of action
Abdullah M.N.Al-Bedah et al.
Journal of Traditional and Complementary Medicine
Volume 9, Issue 2, April 2019, Pages 90-97
 
 
2019年にサウジアラビア厚生省・国立補完代替医療センター(NCCAM)が発表した論文です。サウジアラビアを支配するイスラム教のワッハーブ派は、イスラム教の中でも一番、厳格・保守的です。イスラム教の預言者ムハンマドが、聖典の中で「ハチミツ、吸い玉、焼灼」の3つを治療法として認めているので、ヒジャマと呼ばれる吸玉カッピング療法の研究は盛んです。
 
サウジアラビアの論文はとにかく保守的です。吸玉はイスラム教圏のユーナニ医学、インドのアーユルヴェーダ、古代ギリシャのヒポクラテスや近代アメリカ医学のウィリアム・オスラーまで使用しています。単なる中国の抜罐療法ではありません。
 
 
吸玉カッピング療法のEBМの最前線は、以下の韓国のエビデンス・マップです。
 
 
2021年4月17日 
韓国東洋医学研究所
『吸玉カッピング療法のエビデンス・マップ』
Evidence Map of Cupping Therapy
Tae Young Choi et al.
J Clin Med. 2021 Apr 17;10(8):1750. doi: 10.3390/jcm10081750.
 
 
吸玉カッピング療法について、より広い見地から検討しています。
頚部痛と腰痛に関して、吸玉カッピング療法は一定の効果が高いと個人的には思います。吸玉カッピング療法についてはかなり豊富な経験を積んでいると自負し、臨床効果は高いと感じているのですが、問題が山積みです。
 
まず、機序メカニズムの問題があります。東洋医学では舒筋活絡ですが、筋肉をのびやかにして経絡を通じさせると説明されます。しかし、吸玉カッピングしても頸部や腰部の筋肉は柔らかくならないことが2019年のドイツの実験で証明されました。
 
 
2019年12月ドイツ、フライブルク医科大学、補完医学センター
「組織の硬さは疼痛と関係しない:慢性頸部痛と背部痛の患者のコントロール研究」
Tissue Stiffness is Not Related to Pain Experience: An Individually Controlled Study in Patients with Chronic Neck and Back Pain
Ann-Kathrin Lederer et.al.
Evid Based Complement Alternat Med. 2019.
 
 
最新の仮説で面白いのはファッシャ的なアプローチである筋膜リリースの仮説です。ファッシャの癒着を剥がして軟部組織をリモデリングするという考え方は魅力的なように思えます。しかし、筋膜リリース自体に科学的根拠エビデンスは存在しません。
 
 
2018年「慢性筋骨格系疼痛への筋膜リリースの効果:システマティックレビュー」
Effectiveness of myofascial release in treatment of chronic musculoskeletal pain: a systematic review.
Laimi K et al.
Clin Rehabil. 2018 Apr;32(4):440-450. doi: 10.1177/0269215517732820. Epub 2017 Sep 28.
【結論】現在のエビデンスは、筋膜リリース療法について慢性筋骨格系疼痛に対しての治療法であることを保障するには十分とはいえない。
 
 
最近の論文で最も優れているのは、2020年にイリノイ大学と福建中医薬大学の研究者たちが発表した吸玉カッピングと皮膚血流量に関する論文です。
 
 
2020年
「カッピング吸玉療法の皮膚血液流量における圧と刺激持続時間の影響」
Effect of Pressures and Durations of Cupping Therapy on Skin Blood Flow Responses
Xiaoling Wang,et al.
Bioeng. Biotechnol., 08 December 2020
より短い持続時間(5分)は、より長い持続時間(10分)と比較して、より大きなピークと総皮膚血流を引き起こす。この研究は、皮膚の血流反応に対するカッピング療法の圧力と期間の影響を示す最初の証拠を提供する。
 
カッピング療法の潜在的なメカニズムについてのコンセンサスはないが、血流の局所的な増加はほとんどの場合、重要な要因として受け入れられている。
 
カッピング療法の持続時間の要因に関しては、水疱を避けるために持続時間は10分以内が推奨される。
 
この研究は、皮膚血流量反応に対するカッピング療法の圧力と期間の影響を示す最初の証拠を提供する。カッピング療法の圧力と期間のさまざまな組み合わせの下で、カッピング療法は微小血管系にさまざまな影響を与える可能性がある。
 
反応性充血の反応は、虚血の程度と関連している。
 
カッピング療法中、カップ内の軟部組織は骨から吸い出されて引張応力を受け、カップの縁の真下の軟部組織は圧縮応力を受ける。この状態では、血流はカップ内の軟組織の血管系に出入りすることができない。
 
カップを取り外すと、カップの領域内で皮膚血流量が急激に増加した(反応性充血)。
 
この研究では、カッピング療法後に反応性充血パターンが発生することをさらに確認した。この研究の結果は、カッピング療法後の反応性充血反応を実証することにより、カッピング療法に応じた局所的な調節を間接的に支持している(図1)。私たちの知る限りでは、これはさまざまな強度のカッピング療法後の反応性充血反応を文書化した最初の証拠である。
 
 
 
この2020年論文は納得できます。鍼灸と吸玉の違いは、吸玉は先ず広範囲に虚血状態となり、次に充血します。私は按摩マッサージ指圧師であり、阿是穴のグミのような手触りの硬結部分に、持続圧の長い阻血性圧迫の指圧を行います。これはトリガーポイント治療家やカイロプラクターやオステオパシー・ドクターの間でも行われている手技であり、阻血性圧迫をするとグミのような硬結が「溶けていく」とアメリカのカイロプラクターやオステオパシー・ドクターはよく表現します。これは、局所の阿是穴が阻血した直後に充血する現象が起こるわけです。そして、痛みがとれる現象が続いて起こります。指圧の技術的な秘密は持続圧です。つまり、ここではプラセボ効果だけでは説明できない「なにか」が起こっていて、現在はそれを記述するだけの科学的知識を持っていないだけなのです。
 
 
オリンピックのたびに吸玉カッピング療法が話題になります。吸玉療法のエビデンスの現状と吸玉療法カッピングの治効機序と現状の考えられるメカニズムは、鍼灸のメカニズムとも近い関係にあると考えられます。
 
 
 

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