ミクログリア神経炎症と慢性疲労症候群

 
 
 
2016年5月
「慢性疲労症候群の病態機序とその治療」
渡邊 恭良, 倉恒 弘彦『神経治療学』Vol. 33 (2016) No. 1 p. 40-45
 
 
慢性疲労症候群(CFS)患者がミクログリア細胞の活性化により、脳内で神経炎症を起こしていることが明らかになってきました。
 
視床・中脳・扁桃体での炎症が強いと認知機能障害を起こします。帯状回や視床の炎症が強いと頭痛や筋肉痛を起こします。海馬の炎症が強いと抑うつ症状を起こします。
 
ミクログリア細胞が活性化され、神経炎症が起こると、思考力や集中力の低下や認知機能低下が起こります。また、前帯状回、眼窩前頭野などの脳血液流量低下も起こります。これらは全て鍼灸が作用しているところです。
 
慢性疲労症候群では神経炎症が起こり、認知機能障害・全身の筋肉痛・抑うつ症状を起こしている可能性が高いです。
 
ベテラン鍼灸師は筋痛性脳脊髄炎、慢性疲労症候群、全身性労作不耐症をよく経験していると思います。1930年代は筋痛性脳脊髄炎と呼ばれていました。
 
1984年にネバダ州で200人規模の大量発生があり、ウイルスの関与が疑われました。
 
1988年にアメリカCDCが慢性疲労症候群の概念を発表しました。エプスタイン・バー・ウイルスやヘルペスウイルスなど複数のウイルス感染が現在でも疑われています。
 
1991年に阪大を中心に疲労研究が行われました。
 
1993年にWHOのICD10でME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群)はウイルス感染後疲労症候群とまとめられました。
 
2015年にはアメリカで全身性労作不耐症に病名を変更すべきであると提言がなされました。
 
 
個人的意見では、ウイルス感染後疲労症候群の概念は鍼灸師にとって、重要だと思います。鍼灸はインフルエンザ感染症の後の疲労倦怠感や抑うつ気分にすごく効果があります。インフルエンザの関節痛にも鍼は効く実感があります。そしてインフルエンザ流行の後も、慢性疲労症候群そっくりの症状が起こります。  
 
 
2015年に、インフルエンザ・パンデミックの後は慢性疲労症候群の発病率が2倍以上になるというノルウェイの論文が発表されました。
 
 
2015年11月
「インフルエンザ・パンデミックに関連したME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群)」
Chronic fatigue syndrome/myalgic encephalomyelitis (CFS/ME) is associated with pandemic influenza infection, but not with an adjuvanted pandemic influenza vaccine.
Vaccine. 2015 Nov 17;33(46):6173-
Epub 2015 Oct 17.
 
 
さらに注目されるのは、C型肝炎患者さんが起こす認知機能低下や抑うつ症状であるC型肝炎による認知精神障害が慢性肝炎の患者さんの50パーセント近くにおきていることです。
 
 
「C型肝炎関連・神経認知的および神経精神的な障害:2015年の進歩」
Hepatitis C virus-associated neurocognitive and neuropsychiatric disorders: Advances in 2015.
Monaco S
World J Gastroenterol. 2015 Nov 14;21(42):11974-83. doi: 10.3748/wjg.v21.i42.11974.
 
 
さらに現在、うつ病の病因について革命が起きており、「炎症がうつ病の原因ではないか?」という仮説が勃興しています。
 
 
2015年
「炎症関連うつ病のエビデンス」
Evidence for Inflammation-Associated Depression.
Liu CS1,et al.
Curr Top Behav Neurosci. 2017;31:3-30. doi: 10.1007/7854_2016_2.
 
 
2019年4月17日北京中医薬大学『神経炎症雑誌』
「うつ病の反復における炎症の役割」
Role of inflammation in depression relapse
Chun-Hong Liu, et al.
Journal of Neuroinflammation201916:90
 
 
 
ME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群)と鍼灸についての論文は少なく、2017年のシステマティックレビューでは効果は不明です。
 
 
2017年「中国伝統医学における慢性疲労症候群の鍼灸:システマティックレビューとメタアナリシス」
Acupuncture and moxibustion for chronic fatigue syndrome in traditional Chinese medicine: a systematic review and meta-analysis
Taiwu Wang et al.
BMC Complement Altern Med
. 2017 Mar 23;17(1):163.
 
 
【参考文献】
※1:2008年 「中国における慢性疲労症候群の鍼灸治療のシステマティックレビュー」
A systematic review of acupuncture and moxibustion treatment for chronic fatigue syndrome in China.
Am J Chin Med. 2008;36(1):1–24. doi: 10.1142/S0192415X08005540.
 
 
※2:2011年「慢性疲労症候群患者への補完代替医療:システマティックレビュー」
Complementary and alternative medicine for patients with chronic fatigue syndrome: a systematic review.
BMC Complement Altern Med. 2011;11:87. doi: 10.1186/1472-6882-11-87.
 
 
※3:2014年「慢性疲労症候群への中医学:システマティックレビューとランダム化比較試験」
Traditional Chinese medicine for chronic fatigue syndrome: a systematic review of randomized clinical trials.
Complement Ther Med. 2014;22(4):826–33. doi: 10.1016/j.ctim.2014.06.004.
 
 
 

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