香港の拒食症流行と文化結合症候群

 

 
 
 
香港の医師、李誠先生は、世界的な摂食障害、神経性やせ症の学者です。香港における神経性やせ症の最初の1例を発見した医師です。
 
 
2018年李誠著
「香港における神経性やせ症ーなぜ中国では多くないのか」
Anorexia Nervosa in Hong Kong Why not More in Chinese?
Sing Lee et al.
The British Journal of Psychiatry
Volume 154 Issue 5
Published online by Cambridge University Press: 02 January 2018
 
 
クレイジー・ライク・アメリカ』では、李誠医師がどのようにして神経性やせ症が存在しなかった香港で最初の1例をみつけ、さらにマスメディアがセンセーショナルに報道した後に「拒食症の大流行」が起こった様子を描写しています。
 
 
マスメディアのセンセーショナルな報道の後に、人々が精神症状を起こすことは普通に見られます。
 
1986年に日本のアイドルが投身自殺をした後は、日本の若者の自殺はピークとなりました。
 
1967年に精神科医ジョローム・モットーが「自殺の伝染」を最初に提唱しました。
 
1974年に社会学者のデヴィッド・フィリップスが社会調査から報道による自殺の伝染をウェルテル効果と命名しました。
 
1984年に社会学者のイラ・ワッサーマンがウェルテル効果の追試を行い、報道が自殺を起こす可能性が確認されました。
 
 
2018年『アメリカ社会学レビュー』
「模倣と自殺:ウェルテル効果の追試」
Imitation and Suicide: A Reexamination of the Werther Effect
Ira M. Wasserman
American Sociological Review
Vol. 49, No. 3 (Jun., 1984), pp. 427-436 (10 pages)12:26 2021/08/17
 
 
 
少なくとも、海外のジャーナリズムの世界ではジャーナリストとしての研修を受ける際にウェルテル効果と自殺報道ガイドラインは必修の知識となっています。
 
 
「メディアが病気をつくりだす」ことは日本で最近、観察されました。
 
日本でグラクソ・スミスクラインがパキシルを売り出す際に「精神病は文化によって異なる」という文化人類学者のアドバイスを受けてマーケティングを行い、女優を使った「ウツは心の風邪」というテレビ・コマーシャルのあとで、日本にしかない「プチうつ」という奇妙な精神病が流行し、パキシルは売り上げをすごく伸ばしました。これは医系の方々がなかなか認めたがらない苦い歴史です。
 
 
文化結合症候群は他にもあります。フロイトの時代のヒステリーは流行が終わりました。
日本の神経衰弱はフロイトの精神分析はまったく効果がなく、禅仏教の影響を受けた森田療法が効果的でした。
神経衰弱やノイローゼは日本で一時期、大流行して、現在はみられません。
 
 
対人恐怖症は日本で多い文化結合症候群です。韓国には火病や鬱火病という文化結合症候群があります。中国の走火入魔(=気功反応性精神病)も文化結合症候群です。精神の病気には文化の側面があり、生物学的には割り切れません。
 
 

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