【BOOK】『超人の秘密』 究極のメンタルタフネスとフロー体験

 
スティーブン・コトラー
‎早川書房 (2015/10/22)
 

 
 
心理学者、チクセントミハイの提唱した「フロー(flow)」や「ゾーンに入る」という状態があります。「欲求五段階説」の心理学者、マズローの言う「至高体験」です。
 
 
野球では川上哲治の「ボールが止まって見える」「サッカーで時間感覚が遅くなり、自分の後ろの選手の動きや競技場全体を俯瞰しているような感覚」であり、従来は「一流選手に一生に一回くらい訪れる状態」と理解されていました。
 
 
しかし、ロッククライミングやスカイダイビング、スケートボード、30mの高さの波へのサーフィンなどの命がけのエクストリーム・スポーツの世界では全く異なります。フローやゾーンに入ることはサバイバルのための最低条件であり、「24時間、ゾーンの状態を継続する」「何日間もゾーンの状態を維持する」ことができないと生存に関わるのです。
 
 
今までのスポーツのフロー体験とは異なり、エクストリーム・スポーツで必要とされるのは漫画『鬼滅の刃』で、24時間全集中を続ける「全集中の呼吸・常中」や、さらにその奥の「透明な世界」のレベルなのです。
 

 
 
「ナショナルジオグラフィック」の2019年の映画『フリーソロ』はお勧めです。動画配信の『ディズニープラス』でも見れます。
 

フリーソロ [DVD]

 
 
ロッククライマーのアレックス・オノルドが何時間ものフロー体験に入りながら、命綱なしでヨセミテ国立公園のロッククライミングの難所、エル・キャピタンを登頂するシーンを見ることが出来ます。
 
フロー体験、ゾーンに入る体験に達した人間に何ができるのかがわかります。人類の到達した集中力の最高峰、究極のメンタル・タフネスです。一歩間違えれば間違いなく死ぬという状況では、ゾーンに入ることなしには登頂できないそうです。
 
 
『超人の秘密』の第5章「フローを呼び込む近道」の「クズからサムライへ」は、脳科学や学習科学からフロー体験を科学的に解明しようとしています。
 
命を賭けることで、エクストリーム・スポーツ実践者は究極の緊張とアドレナリンを体験し、脳の中にドーパミンなどの化学物質が大量に分泌され、脳のポテンシャルがサバイバルのために全開になります。「宇宙との一体感」「時間の歪み(全てがスローモーションに感じる)」「恐怖の消失」「エゴの消滅」を経験します。
 
 
エクストリーム・スポーツの実践者の多くは離婚した家庭に育ち、車の中に住み、入れ墨を入れて、ジャンクフードを食事にして、ドラッグを常用しています。自己嫌悪に苦しみ、社会からクズと思われている彼らはフロー体験の中で超スピードで学習し、人格的にも成長して別人になっていきます。全てのスポーツ科学や学習科学を全否定する存在です!
 
 
日本の禅の真髄を弓術を学ぶ過程で体得したドイツの哲学者オイゲン・ヘリゲルも、まさか自分が到達した東洋哲学の究極の領域に「エクストリーム・スポーツに夢中のクズども」が到達するとは思いもしなかったはずです。
 
 
オイゲン・ヘリゲル『日本の弓術 (岩波文庫)
 

 
 

 
 
サーシャ・バインさんの『心を強くする 「世界一のメンタル」50のルール』は、メンタル・タフネス研究の入門書です。
 

心を強くする 「世界一のメンタル」50のルール

 
 
 
ジョッシュ・ウェイツキンさんの『習得への情熱』は、メンタル・タフネス獲得の最高の技術書です。
 
スティーブン・コトラーさんの『超人の秘密:エクストリームスポーツとフロー体験』は、さらに「その先」の人類の到達した究極の心の領域を垣間見せてくれます。
 
 
 

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