【BOOK】『周―理想化された古代王朝』

 
佐藤 信弥
中公新書
 

 
 
中国古代史研究の最前線におられる佐藤信弥先生の『周―理想化された古代王朝』は、まさに新たに出土した中国古代遺跡の資料や青銅器に刻まれた金文の解読による成果をまとめられています。
中国の歴史を20年以上、勉強してきましたが、このような内容は初見です。1976年生まれの若き研究者による野心作だと感じました。
 
殷代の歴代の王の名前が甲乙丙丁の十干なのは有名ですが、周代も最初、王の名前を十干で記録していたのは初めて知りました。
 
十干は五行と関連があり、いったい五行説の起源はどの時代になるのでしょうか。
周は孔子が理想化した王朝ですが、実は戦争を繰り返していた「戦う王朝」だったという見解も新鮮でした。
 
 
【西周】
周の武王は太公望と周公旦を参謀として殷を滅ぼしました。孔子は周公旦の政治を理想としています。
 
 
【東周】
幽王が亡くなり、鎬京(こうけい)から洛邑(らくゆう)に遷都して東周の時代となります。
 
 
【春秋時代】BC772-BC403
孔子が著したとされる『春秋』が根拠になっています。
斉の桓公が名宰相の菅仲に補佐され、覇者となります。
晋の文公、重耳が19年間も各国を放浪して60代で王となり、覇者となります。
呉王、闔閭(こうりょ)は伍子胥(ごししょ)や『孫子』の孫武を使い、覇者となります。
越王、句践(こうせん)は范蠡(はんれい)の補佐によって呉をやぶります。臥薪嘗胆の故事です。
晋では韓・魏・趙の三国に分立し、これにより戦国時代となります。
 
周の時代でもっとも重要なのは、孔子による儒教思想の創始です。堯、蕣、禹、周公旦などを聖人として理想化しました。四書五経の『書経』に描かれた世界です。
また、伏羲が創り、孔子が注釈したと言われる『易経』も中国哲学の基礎となりました。
この時代の孔子が注釈したといわれる『春秋』も中国人の伝統的な歴史観に多大な影響を与えます。
 
周の時代は中国だけでなく、日本にも儒教を通じて多大な影響を与えています。
青銅器に刻まれた文字である「金文」の解読という確固とした証拠エビデンスに基づく歴史のアップデートに感動しました。歴史学にも新しい、若い優秀な先生方の波が押し寄せているのを感じました。
 
 

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