古代中国の金属鋳造技術と実験考古学

 
 
神戸市の白鶴美術館で展示されている「中国青銅器ー円と方の協調美」を見てきました。
 
晩年の白川静先生は、毎年、ここで甲骨文字について講演されていたそうです。
 
学芸員の方が、スライドで展示品の解説をされていました。これは聞いて良かったです。
青銅器の「饕餮(とうてつ)」の文様についてなのですが、解説がなければ、せっかくの青銅器の展示品を見ても、どこが饕餮の頭や目なのかわかりませんでした。
 
 
そして、何より嬉しかったのは、殷の時代の青銅器に刻まれた「金文」の甲骨文字を読めたことです!
「これは十干の『辛』じゃないか」と思ってから解説を読むと、その通りでした!少しでも読めるとうれしいものです。
 
西周や戦国時代の青銅器も見ることができました。
戦国時代の金で装飾した青銅器は、本当に美しいです。
 
 
殷の時代の、4000年前の青銅器の細かい文様や甲骨文字の金文を眺めながら、「これはどうやって造っただろうか。現代の技術でも無理なのではないか」と疑問が湧いてきました。
 
 
「中国古代青銅器の鋳造技法 : その一、金文(きんぶん)の鋳造方法に関する調査報告及び考察」
三船 温尚
『高岡短期大学紀要』 (4), 67-89, 1993
 
 
まさに白鶴美術館の青銅器を使って分析し、結論は「青銅器の金文を鑿(のみ)で彫ることは物理的に不可能」というものでした。今日、見てきたばかりの青銅器なので、内容が理解できます!
 
三船先生は、高岡の大仏で知られる日本一の銅器の技術を持つ富山大学芸術文化学部で、中国の古代青銅器を再現する実験を続けてこられました。
 
 
『「3千年前の中国安陽の土」で鋳型をつくり青銅を鋳造しました。/三船 温尚(芸術文化学部 教授)による古代鋳造技法の復原実験』
 
 
以下、引用。
 
3千年前の中国古代青銅器の鋳造技術は、今も復原できていません。多くの研究者が長年研究しても、どういう方法で精緻な文様を鋳造したのか、複雑な形を鋳造したのか、未だ謎のままです。今の技術よりも、3千年前のほうがはるかに高かったから、今の研究者には解明できないのではないでしょうか。これは、古代人のほうが器用だったという手先の問題ではなく、彼らの叡智がわれわれの想像をはるかに超えた域にあったから、分からないのではないかと推測しています。
 
 
殷の時代の現物の青銅器を見たからこそ、「この青銅器の饕餮のデザインや金文の甲骨文字を鋳造するのは、技術的に、現代人でも無理なのではないか」という意見の正しさが実感できます。
 
三船先生が、若い研究者や芸術家たちに、古代中国、殷の青銅器の製法のリバースエンジニアリングを実際にやることで、若者を教育する姿勢に感動しました。これこそが教育だと思います。
 
解答のない問題を考えさせて思考力を育み、さらに謙虚さと先人の技術への畏敬を自然に感じさせ、さらに「大学教授でも全てを知っているわけではなく、全力を尽くしてチャレンジしても失敗する」という後ろ姿まで見せています。凄い教育者だと思いました。
 
古代の青銅器の鋳造技術は、そのまま鍼の金属加工の技術につながります。古代中国の金属加工の技術の高さを実感できて、本当に良かったです。
 
 
 

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