世界の変化の中の中医

 
2021年11月22日
「『世界鍼灸の日』が小雪の節気に:古い中医について新しい方法を考える」
 
 
11月22日は『世界鍼灸デイ』なのですが、まったく盛り上がりません。
 
記事は、IT時代、情報化時代における中国伝統医学(中医学)の伝承に考えようという提案となっています。
 
2020年から2021年は、確かに時代のターニングポイントという印象があります。
 
第2次世界大戦が終わった1945年から、アメリカに支援された蒋介石・国民党政府は毛沢東ひきいる共産党政府と戦争を続けていました。
 
1949年に中華人民共和国が成立しますが、1950年には朝鮮戦争がはじまり、再びアメリカ軍中心の国連軍と共産中国+北朝鮮は戦争となります。
共産中国では毛沢東の盟友である朱璉が1951年に鍼灸療法実験所の所長となりましたが、西洋医学派でした。
 
 
1955年には承淡安先生が日本の経絡現象研究を紹介し、伝統医学派が反撃し、「弁証論治」がつくられます。劉貴珍の気功もブームになります。しかし、1966年からの文化大革命により、中国では伝統医学派はいったん壊滅的打撃を受けます。劉貴珍は便所掃除係となり、鍼灸弁証論治を創案した陸痩燕先生は上海中医学院の校舎内で拷問死します。孔子廟は破壊されました。
 
1972年2月にニクソン大統領が訪中し、1972年9月に田中角栄が日中国交正常化して、はじめて、アメリカ・日本と中国との戦争状態が終結します。
 
1972年から鍼麻酔ブームの形で日本で針灸ブームが起こり、1974年に浅川要先生グループが上海中医学院『針灸学』(刊々堂)を出版されて、ここから日本では中医学鍼灸が徐々に普及しはじめます。自民党田中派という親中派の時代でした。気功ブームも起こります。アメリカも日本も政治は「パンダ・ハガー(親中派)」の時代です。
 
 
1991年に冷戦が終結します。1995年にウィンドウズ95が発売されます。
 
1999年に法輪功事件が起こり、中国で実質的に気功は禁止されます。
 
2001年に中国がWTO(世界貿易機構)に加入します。これこそがターニングポイントです。また、2001年に日本では小泉政権が成立し、親中的な経世会の田中派政治から親米的な清和会系の政権の時代が続きます。
 
2002年の9.11世界貿易センター事件で世界は変わります。アメリカは2001年アフガニスタン戦争、2003年イラク戦争を起こし、国力を低下させます。
 
2008年のリーマンショックと世界同時不況となり、資本主義メルトダウンの中でアメリカの国力は劇的に低下します。
 
2009年にはブラジル・ロシア・インド・中国がBRIC会議を開き、2014年には南アフリカ共和国を入れたBRICs銀行が発足しています。
 
2014年にはエイペック・アジア太平洋経済協力会議で中国政府が「一帯一路」を提唱します。
 
2016年には中国主導で、アジアインフラ投資銀行(AIIB)が発足しました。
世界は多極化システムへと移行します。アメリカではトランプ政権が発足し、イギリスはEU離脱を決めます。
 
2017年には中国で中医薬法が成立し、一帯一路の思想から、世界中で中医学センターが設立されました。
 
2019年には、WHOの国際疾病分類‘ICDー11’に中医学の概念が入りました。
2019年は米中貿易戦争・新冷戦が勃発し、激化の一途をたどります。
 
2020年にはコロナ禍のなかでアメリカ大統領選挙があり、親中的なトランプ政権からバイデン政権への政権交代がありました。
地球環境問題、気候変動が大きな問題として可視化されてきました。西側世界の資本主義は歴史的な挑戦を受けています。
 
2021年に、中国は量子コンピューターの分野でブレークスルーを達成し、IT技術で世界トップクラスでありテクノロジー超大国としてアメリカの覇権に挑戦しています。
2021年、香港の民主派は中国共産党に政治的に制圧されました。香港は、漢方鍼灸など、かつての鎖国状態の中国と世界との窓口でした。
 
 
現在、アメリカや日本の政治家に親中派は存在しません。カッコつきの「中医学」が世界を席巻した米中友好時代、日中友好時代の政治的条件は、すでに消失している印象があります。時代的な制約があります。
 
「近代」という時代の終焉を迎えている印象があります。冷戦が終結した際に、フランシス・フクヤマの「歴史の終わり」という概念が流行しました。民主主義・資本主義が勝利して、あとは、それが普及していくだけという考え方です。
 
しかし、ポスト近代の到来とともに、西側世界の「ヒューマニズム」「人権」「民主主義」という価値観は、中国共産党式のポストモダン・ハイテク監視、社会、国家資本主義の挑戦を受けています。
 
中国の権威主義体制は人権を制限し、言論の自由・学問の自由を制限し、しかし経済だけは強い社会を構築しています。
 
 
一方で、西側世界の反中派は、中国に反発しつつ、自分たち自身が権威主義と情報操作にそまっていっています。自分たちが敵視するものに、どんどん似ていっているのです。
 
中国は意識的・戦略的に「超限戦」という情報戦を仕掛けており、五毛党というインターネット世論誘導工作に多大な予算と人員を割いています。
 
アメリカや西側社会もハイブリッド戦と捉えて、情報操作で交戦しています。間にはさまれた一般庶民はSNS情報操作で「人間兵器」となり、情報操作の道具として使われるわけです。
 
アメリカを中心とした西側世界と、中国を中心とした権威主義体制の間に、日本は地理的にも挟まれており、ポストモダンの歴史的激動時代に、わたしたちは伝統医学者として、歴史に試されていると思います。
 
 

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