2010年代後半の鍼の自閉症研究

 
2021年11月29日『自閉症ペアレントマガジン』
「鍼は自閉症に効果がありますか?」
Is Acupuncture Effective for Autism?
 
 
以下、引用。
 
自閉症スペクトラムの子どもたちと両親は、鍼治療に耐えることができるように見えます。
 
パイロット観察研究は、研究の子供たちが鍼治療に耐えることを発見し、さらに彼らの両親は8週間の介入プロトコルを順守することに成功しました。著者らは、そのような結果は鍼治療が自閉症の子供たちにとって実行可能な介入である可能性を示唆していると感じました。
 
 
2017年
「自閉症スペクトラム障害の子どもへの鍼指圧インターベンションのパイロット観察研究」
A Pilot Observational Study of an Acupressure/Acupuncture Intervention in Children with Autism Spectrum Disorder.
Lana R. Warren, Patricia A. Rao, and David C. Paton
The Journal of Alternative and Complementary MedicineVol. 23, No. 11 Published Online:1 Nov 2017
 
 
以下、引用。
 
もう一つのレビューとメタアナリシスは、頭皮鍼が身体鍼と比較して3歳以下の子どもにとっても耐えることができて、それは四肢が動いても良いので受け入れやすいということである。
 
別のレビューとメタアナリシス(Lui et al.、2019)は、頭皮鍼治療は体のポイントでの鍼治療と比較して、子供(3歳未満)にとってより許容できる可能性があると述べている。著者によると、頭皮鍼治療は手足の活動を制限しないため実施が容易である。
 
 
 
2019年
「自閉症スペクトラム障害の子どもへの頭皮鍼:システマティックレビューとメタ・アナリシス」
Scalp acupuncture treatment for children’s autism spectrum disorders: A systematic review and meta-analysis.
Liu, C., Li, T., Wang, Z., Zhou, R., & Zhuang, L. (2019).
Medicine, 98(13), e14880.
 
 
以下、引用。
 
これらのポジティブな発見から、自閉症の症状のコミュニケーション障害、行動障害、睡眠障害という核心の症状に、報告された結果は有望であり、最初の3つのセッションで利益が得られるようである。
 
2018年の研究は、自閉症への頭皮鍼の効果は年齢増加とともに減少することを発見した。これらの後ろ向き研究は、自閉症スペクトラム障害における変化を目的としていた。付け加えるなら、年齢の影響を研究したものが先天性自閉症、自閉的退行で探求されている。
 
 
2018年「頭皮鍼の治療効果と先天的自閉症と自閉的退行」
The therapeutic effect of scalp acupuncture on natal autism and regressive autism
Chuen Heung Yau et al.
Chin Med. 2018 Jun 15;13:30.
(全文オープンアクセス)
 
 
香港バブティスト大学の研究者たちの視点は新鮮です。
 
自閉的退行は現在、増えているのですが、腸内細菌との関連も指摘されています。とくに腹部の灸を入れるのも良いかもしれません。
 
 
【自閉症の鍼灸】
 
自閉症は1943年にカナーが提唱し、アスペルガー症候群は1981年にローナ・ウィングが提唱した概念です。
そもそも中医学には五遅の語遅という発達障害の概念はありますが、自閉症やアスペルガー症候群のような概念はなく、そもそも治療対象であったのかという疑問があります。中医学では、2014年に北京中医薬大学の研究者による総説論文が『世界中医薬雑誌』に出版されています。
 
 
「自闭症中西医研究进展及中医研究思路浅析」
Research Progress of Chinese and Western Medicine Treating Autism and Exploration of Chinese Medicine Research Strategy
丁一芸、卫 利、王素梅 北京中医薬大学
『世界中医薬雑誌』(6):820-822 2014
 
 
自閉症の中医学の病機と弁証
1.脳源説
 
2.腎源説:『医宗金鑑』小児五遅の「小児五遅之証、多因父母気血虚弱…腎気不足」を根拠としている。
 
3.脾源説:小児の脾胃は虚弱であり、後天不足で起こるという学説。
 
4.肝腎之説:広州中医薬大学の「靳三針」の靳瑞教授が提唱した。自閉症は脳と心・肝・腎が密接に関係しており、先天不足で腎精が虚となり、心竅が不通となり、肝が条達を失い、肝欝気滞から起こる。
 
5.心源説
中医薬では肝腎両虚に六味地黄丸、狂躁型肝腎陰虚・肝陽上亢に釣藤飲、心脾両虚型に帰脾湯、心腎不交型に黄連阿膠湯などが用いられている。
 
 
 
中医鍼灸では、2010年に王海丽著「林氏头皮针治疗儿童自闭症11例体会」『福建中医药』41(3) 39-40 2010が書かれています。
 
 
2011年には『中国鍼灸』に李诺著「头针疗法治疗自闭症」『中国针灸』 2011年31卷08期 692-696页が書かれています。使用したのは智九针(额五针、四神聪)、情感区、心肝区です。
 
 
中医鍼灸分野では、広州中医薬大学の靳瑞教授による靳三針による自閉症鍼灸治療がもっとも大きなトピックスのようです。
 
「靳三针治疗儿童自闭症不同中医证型疗效分析」
袁青, 吴至凤, 汪睿超 ,
『广州中医药大学学报』2009,26(3):241-245.
 
 
靳三針では、自閉症を肝欝気滞、心肝火旺、痰迷心竅、腎精不足の4型に分類しています。
広州中医薬大学の靳瑞教授は、1932年生まれで1950年に広州の中医学校に入学、1956年に広州中医学院の針灸科の講師となり、1966年の文化大革命期に鼻炎を鼻三針(迎香・上迎香・印堂)で治癒させたことから靳三针疗法を提唱しました。
 
1990年代からは、颞三针を脳卒中後遺症に、智三针を発達障害児童に、启闭针を自閉症に、定神针を多動症に、老呆针を老人性認知症に用いました。
 
 
 
【自閉症スペクトラムの鍼灸EBMの歴史】
 
2008年にエジプトのカイロにあるナショナル・リサーチ・センターの研究者アーラム(※1)が最初の自閉症スペクトラムの鍼の臨床試験を行い、YNSA(山元式新頭鍼)の頭皮鍼でポジティブな効果を報告したものが世界最初の臨床試験です。
 
 
※1:Scalp acupuncture effect on language development in children with autism: A pilot study.
AllamH, ElDineNG, HelmyG.
J Altern Complement Med. 2008;14(2):109–114.
 
 
2009年に香港の研究者(※2)たちが七星鍼(梅花鍼)の臨床試験でポジティブな効果を報告しました。
 
 
※2:Seven-star needle stimulation improves language and social interaction of children with autistic spectrum disorders.
ChanAS, CheungMC, SzeSL, LeungWW.
Am J Chin Med. 2009;37(3):495–504.
 
 
2008年(※3)から香港の研究者たちが中医学的な弁証論治による症例報告をしました。
使っているツボは四神聡、印堂、内関、神門、太衝、太渓、三陰交などです。
主に電気鍼が使われています。
 
この結果を受けて2010年に真鍼と偽鍼のランダム化比較試験が行われました。
四神聡、印堂、内関、神門、太衝、耳穴の神門、三陰交が使われました。
偽鍼は3〜5㎜ツボをずらして浅く刺しています(※4)。
そして同じ研究者たちが2010年に舌鍼のランダム化比較試験を行いました(※5)。
香港では、香港中医学独自の舌鍼療法の孫介光、孫雪然先生が有名です。
 
 
2011年のコクラン・システマティック・レビュー
「自閉症スペクトラムへの鍼」
Acupuncture for autism spectrum disorders (ASD).
Cheuk DK, Wong V, Chen WX.
Cochrane Database Syst Rev. 2011 Sep 7;(9):CD007849.
 
 
2011年の香港クイーン・メリー病院の研究者らによるコクラン・システマティックレビュー「自閉症スペクトラムへの鍼」が発表されています。
 
著者の一人である香港大学のヴァージニア・チンネイ・ウォン教授は、現代の小児科鍼灸EBM研究の一人者だと思います。
 
 
2014年には香港・自閉症の鍼治療研究の一連の論文の著者であるヴァージニア・チンネイ・ウォン香港大学教授が自閉症患者に舌鍼を行い、PET(ポジトロン断層法)で脳の変化を観察するという論文を発表しています(※6)。
 
 
2017年5月22日に『ジャーナル・オブ・オルタナティブ・アンド・コンプリメンタリー・メディスン』にKKI(ケネディ・クリーガー研究所)の画期的な研究が発表されました。
 
 
「自閉症スペクトラム障害(ASD)のツボ指圧または鍼介入のパイロット客観研究」 
A Pilot Observational Study of an Acupressure/Acupuncture Intervention in Children with Autism Spectrum Disorder
Warren Lana R., Rao Patricia A., and Paton David C..
The Journal of Alternative and Complementary Medicine
May 22, 2017
 
 
3-10歳の自閉症スペクトラム障害の子どもに対して、8週間の介入です。
最初の4週間はライセンス鍼師がツボ指圧を行い、次の4週は鍼またはツボ指圧を行い、さらに親が寝る前に指圧をしました。
 
以下は論文より引用。
 
予測しなかったことではないが、このパイロット研究で観察された最も堅固な発見とは(ツボ指圧プラス鍼の)介入の後、子どもの表現と受容的ソーシャル・コミュニケーションが顕著に改善したことである。
 
これらの発見は、鍼のあとで言語の理解とソーシャル・インタラクションを含む社会コミュニケーションが改善したという以前の研究と一貫性がある。
 
 
※3:Electroacupuncture for children with autism spectrum disorder
ChenWX, Wu-LiL, WongVC.
J Altern Complement Med. 2008;14(8):1057–1065.
 
 
※4:Randomized controlled trial of electro-acupuncture for autism spectrum disorder. Randomized controlled trial
Wong VC, et al.
Altern Med Rev. 2010.
 
 
※5:Randomized controlled trial of acupuncture versus sham acupuncture in autism spectrum disorder. Randomized controlled trial
Wong VC, et al.
J Altern Complement Med. 2010 May;16(5):545-53.
 
 
※6:Randomized control trial of using tongue acupuncture in autism spectrum disorder
Virginia Chun-Nei Wong.et al.
Journal of Traditional Chinese Medical Sciences 1 July 2014, Vol.1(1):62–72,
(全文オープンアクセス)
 
 
レビューとしては、2011年に香港の著者らによるコクラン・システマティック・レビュー(※7)が発表され、2012年にアメリカ・ニュージャージー医大のミンらが『エビデンス・ベースド・コンプリメンタリー・アンド・オルタナティヴ・メディスン』にレビュー文献(※8)を発表し、同じく2012年に韓国のリーやエッアート・エルンストがレビュー文献(※9)を、発表しました。
 
 
※7:Acupuncture for autism spectrum disorders (ASD).
Cheuk DK, Wong V, Chen WX.
Cochrane Database Syst Rev. 2011 Sep 7;(9):CD007849.
 
 
※8:Acupuncture for Treatment of Autism Spectrum Disorders
Xue Ming,et al.
Evidence-Based Complementary and Alternative Medicine
Volume 2012 (2012), Article ID 679845, 10 pages
 
 
※9:Acupuncture for treatment of autism spectrum disorders.
Lee MS, et al.
J Autism Dev Disord. 2012.
2018年1月11日 には韓国、慶熙大学の研究が発表されました
 
 
以下、引用。
 
行動教育介入を補完した鍼は、顕著に子どもの自閉症レーティングスケール(CARS)と自閉症行動チェックリストを減少させた。
しかしながら、自閉症スペクトラム障害を改善させたかは不明瞭である。
単独療法としての鍼は自閉症レーティングスケールを減少させた。報告された有害事象は許容可能な範囲であった。
 
結論として、このレビューは鍼が効果的で安全であるかもしれないことを示しているかもしれない。しかしながら、鍼治療の方法は従来の治療とは異質であるから結論を導くことはできない。
 
 
※10:「自閉症スペクトラム障害の子どもの鍼治療の効果と安全性:システマティックレビューとメタアナリシス」
The Efficacy and Safety of Acupuncture for the Treatment of Children with Autism Spectrum Disorder: A Systematic Review and Meta-Analysis
Boram Lee,
Evid Based Complement Alternat Med. 2018; 2018: 1057539.
Published online 2018 Jan 11. doi: 10.1155/2018/1057539
 
 

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