エピクロスの再発見

 
 
スティーブン・グリーンブラット著
柏書房2012年
 

 
 
ローマのルクレティウスの著作『物の本質について』は、古代ギリシャ、ヘレニズム時代の哲学者エピクロスの唯物論哲学を解説したものです。
 

 
エピクロスは、人間を死の恐怖から解きはなつために「死が訪れたとき、あなたはそこに居ない」と説きました。人間の生の意味は「幸せになること」「楽しみの追求」だと説きました。
 
この世界は空虚から構成されており、必然性も目的もなく偶然から存在していること、おそらく死後の世界は無く「神々は、例え存在したとしても我々、人間には関心がない」こと、だからこそ、人間は友情を結び、生きている間に互いに尊重しあうことを説きました。
 
死の恐怖から解き放たれた「ココロの平静な状態(アタラクシア)」がエピクロス哲学のキーワードです。
 
 
このエピクロスの思想を解説した、ローマ時代のルクレティウスの『物の本質について』は、1,000年後の1417年にルネサンス期のヨーロッパで再発見され、ヨーロッパの人々は、「おそらく神がいないことと、死後の世界が存在しないこと」「人間の生を尊重すること」に気づいていき、それがルネサンスを起こしたのです。
 
 
私の20代は哲学の探究がほとんどでした。
古代ギリシャからイスラム世界、中世ヨーロッパ、ルネサンスから近代哲学と彷徨して、ハイデガー、ヴィトゲンシュタイン、フーコーと現代哲学を学んでいる最中の1996年頃にフランスのルイ・アルチュセールの『不確定な唯物論のために―哲学とマルクス主義についての対話』(大村出版1993年)に出会いました。
 
大阪の天王寺の、今はないユーゴー書店の哲学書コーナーで、アルチュセールの『不確定な唯物論のために』を立ち読みしている最中に、自分の哲学探究が不意に終わったことを感じました。「おそらく一生、終わらないだろう」と感じていた哲学探究が不意に終わったことを感じて愕然とした感覚を今でも覚えています。
 
アルチュセールは「マキャベリの偶然の唯物論」と「エピクロスの偶然の唯物論」について語っていました。まさか自分が、現代思想とはほど遠い、古ぼけたエピクロス哲学の信奉者、エピキュリアンになるとは、10代に哲学探究を始めた頃は思いもしませんでした。
 
 
2012年に書かれた『一四一七年、その一冊がすべてを変えた』には、まさにバチカン法王庁に所蔵された、誰が書写したか不明の書写本『物の本質について』の最近の筆跡鑑定の結果が書かれていました。
 
なんと、筆写したのは『君主論』のマキャベリです。
ルネサンス期のマキャベリの哲学は、エピクロス=ルクレティウスの哲学だったことが判明しました。
私にとっては、1996年以来の新事実であり、哲学と歴史の問題の答え合わせだったので、本当に驚きました。
 
 
ニッコロ・マキャベリはロレンティオ・デ・メディチに仕えた政治家であり、チェーザレ・ボルジアを理想の君主とした『君主論』で知られており、権謀術数を意味するマキャベリズムの語源となっています。
 
しかし、マキャベリはルネサンス期イタリアでは喜劇作家として知られており、よく笑い、冗談を好み、ルネサンス期に笑いを解放した人物であることが2010年代の最新研究で判明してきました。
 
 
村田 玲(むらた・あきら)著
風行社 (2016/9/1)
 
 
 
ヘレニズム期のエピクロス哲学は、ローマ時代にルクレティウスによってまとめられます。1417年に「再発見」され、ルネサンス期のイタリアから世界中にひろまっていき、世界を変えました。
 
 

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