【BOOK】『プロレス社会学のススメ コロナ時代を読み解くヒント』

 
 
斎藤 文彦 (著), プチ鹿島 (著)
ホーム社; New版 (2021/12/15)
 

 
 
プチ鹿島さんは時事芸人、斎藤文彦さんはプロレスライターであり、早稲田大学で『プロレスの社会学的考察』という修士論文で修士を取り、大学で講義もされています。
 
副題の「コロナ時代を読み解くヒント」について、読む前は「なんで?」と思っていましたが、一読後に納得しました。
 
プロレスこそ、大昔からフェイクニュースと各団体による情報操作、善悪二元論では片付かないグレーゾーンしか存在しない世界だからです!まさに「コロナ時代の先取り」です!
 
とにかく、面白い!
目からウロコがポロポロ落ちます。
子ども時代から信じていたことが、次々とひっくり返っていきます。
プロレスからの「学び」と「気づき」がこの本のなかには詰まっています。
 
 
この本にはあまり書いていないことですが、バトル・オブ・ザ・ビリオネアーズという有名な対決があります。
ドナルド・トランプがプロレス企業WWEのヴィンス・マクマホン会長と髪の毛を賭けて闘い、マクマホンがバリカンを頭の隅々まで入れられたというものです。
マクマホンの決めゼリフ、「お前はクビだ(You’re Fired!)」をトランプはリアリティ・テレビ番組『アプレンティス』で使い、人気者となって大統領への道を駆け上がります。トランプの政治手法はプロレスの人心掌握術の悪用なのです。
 
 
同時に感じたのは、雑誌の死、ジャーナリズムの死の時代ということです。
 
日本のプロレス・ブームは、実は『週刊プロレス』などの雑誌メディアがつくったものです。
編集者、町山智浩さんによれば、バンドブームは雑誌『宝島』がなければ起こらなかったし、
洋楽は『ロッキンオン』や『ミュージック・ライフ』、そしてガンプラ(ガンダムのプラモデル)は『ホビー・ジャパン』がなかったらブームにならなかったそうです。海外でも映画雑誌『カイエ・デュ・シネマ』がなければヌーヴェルバークはないです。
 
つまり、雑誌が意見交換の場を提供し、それを読む人たちは同族を形成していました。
 
やがてインターネットが雑誌に取って代わり、雑誌文化が崩解しました。結果として「評論・批評」というチェック機能が急激に落ち、連動する形でジャーナリズムが崩解しつつあります。
編集者によるファクト・チェック機能が働かないままフェイク・ニュースが流通するポスト・トゥルースの時代です。
 
 
面白いのは『東スポ(東京スポーツ)』についてです。
 
「日付以外は全部ウソと嗤われる東スポは、実はプロレス業界では『ワシントンポスト』『ニューヨークタイムズ』なみの情報の信頼度・権威をもっている」というのは、プチ鹿島さんのお得意のギャグですが、本当です。
 
プロレスは『東京スポーツ』と二人三脚で発展してきました。
『東京スポーツ』の創業者は右翼の児玉誉士夫であり、『東京スポーツ』はプロレスを支援するために創られたのです。アメリカの国立公文書館の情報公開文書でCIAのエージェントであることが判明した児玉誉士夫です。
 
 
相撲部屋を引退した力道山は、新田建設の資材部長をしている最中にGHQ進駐軍の幹部と知り合います。そこでGHQ幹部の勧めでアメリカ修行に行くのですが、プロレス社会学研究者の斎藤文彦さんが問題にしているのは、朝鮮国籍だった力道山のパスポートであり、おそらく超法規的措置でアメリカにプロレス修行に行っています。
 
日本プロレス協会ができますが、会長はCIAの児玉誉士夫で、副会長は山口組三代目組長の田岡一雄でした。読売新聞・日本テレビの創業者、正力松太郎が日本中に街頭テレビを設置して、1950年にプロレスとテレビは日本に普及していきます。
スポンサーは三菱電機や保守政党の幹部であり、NHKと日本テレビがプロレスをテレビ中継しました。当時の日本の支配層の勢力が政界・財界・マスコミ・裏社会の共同プロジェクトでプロレスを普及したことを著者の斎藤文彦さんは指摘しています。
 
 
2006年に正力松太郎はアメリカ国立公文書館の情報公開により、CIA協力者コードネーム「ポダム」であることが判明しました。
 
 
有馬哲夫著
 

 
 
 
当時のアメリカ進駐軍GHQはスポーツ・スクリーン(映画)・セックスの「3S政策」という心理作戦をおこなっていたことが今では判明しています。
 
これが日本におけるプロレスの起源です。プロレスは最初から心理操作作戦だった可能性が高いです。『プロレス社会学のススメ』の最大の収穫でした。
 
 

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