ドライニードリング鍼の後の橈骨神経損傷

 
 
2018年1月26日『ブリティッシュ・メディカル・ジャーナル症例報告』
「ドライニードリング鍼の後の橈骨神経損傷」
Radial nerve injury following dry needling
Robin McManus and May Cleary
BMJ Case Rep. 2018; 2018: bcr2017221302.
Published online 2018 Jan 26.
 
 
27歳女性の症例です。
 
以下、引用。
 
患者は肩の痛みのために、ディープ・ティシュー・マッサージとドライ・二―ドリングの理学療法を受けていた。理学療法士が鍼を挿入したときに、患者は痙攣を左手に感じて、手が下垂した。
 
鍼は腕の外側に挿入され、左上腕骨の中央と遠位部の接合部のレベルであった。患者はその日もいつもと同じような感じで挿入されたと述べている。フィラメント鍼は0.25㎜の太さで、50㎜の長さが使われていた。
 
【治療】
患者はハンド・セラピストに紹介されてコックアップスプリント装具の治療を受けた。集中的な手の治療にも関わらず、彼女は改善の徴候を示さず、手は下垂しつづけている。
 
橈骨神経の損傷はさまざまな形式がある。よくあるのは、上腕骨の骨幹の骨折後、腕の圧迫、サタデー・ナイト麻痺、ハネムーン麻痺、鉛中毒などである。
 
 
橈骨神経損傷は、上腕を枕にして寝たり、電車のポールや床など硬いもので橈骨神経が圧迫されて、次の日に下垂手となります。土曜日の夜に酔っ払って起こるために、サタデー・ナイト麻痺と呼ばれました。
あるいは、男性の上腕を枕替わりにして、女性の頭をのせて上腕の外側が圧迫されると起こるため、新婚旅行の後に起こるハネムーン麻痺と呼ばれます。
 
 
橈骨神経は、ツボで言うと手太陰肺経の天府(LU3)穴あたりの高さでは上腕骨の後面である上腕三頭筋の下を通っていますが、手少陽三焦経の消れき(TE12)あたりから上腕骨の外側をとおり、手陽明大腸経の手五里(LI13)や肘りょう(LI12)あたりの高さから、前腕の前面に近い橈骨神経管に向かいます。
 
このあたりは『カラーアトラス経穴断面解剖図解ー上肢編』の極泉(HT1)、天泉(PC2)、消れき(TE12)、手五里(LI13)、肘りょう(LI12)、尺沢(LU5)、手三里(LI10)の断面図で橈骨神経の走向を確認できます。

 
 
「経皮的にピン固定・スクリュー固定するための上腕骨の安全ゾーン」
Safe zones in the humerus for percutaneous pins or screws
 
 
上記のホームページは、上腕骨骨折で、ピン固定・スクリュー固定する際に、神経損傷しないために上腕骨の断面図と神経が書かれているため、参考になります。
 
 
 
2017年10月26日「上腕骨遠位における橈骨神経の走向:解剖学に基づく放射線造影アセスメント」
The course of the radial nerve in the distal humerus: A novel, anatomy based, radiographic assessment
H. P. Theeuwes
PLOS ONE Published: October 26, 2017
 
 
オランダの研究で、若い外科医による医原性の橈骨神経損傷を減らすために書かれており、特に概念図が参考になります。
 
 
 
2019年「インド人における橈骨神経デンジャーゾーン:死体研究」
Danger zone of radial nerve in Indian population – A cadaveric study
Ravi Kant Jain, Vishal Singh Champawat,⁎ and Pushpvardhan Mandlecha
J Clin Orthop Trauma. 2019 May-Jun; 10(3): 531–534.
Published online 2018 Feb 21
 
 
 
2021年「フィリピン成人における橈骨神経デンジャーゾーンの計測:死体研究」
Measurement of the Radial Nerve Danger Zone in Filipino Adults: A Cadaveric Study
DA Rubio, MD et al.
Malays Orthop J. 2021 Nov; 15(3): 45–51.
 
 
 
2017年から2021年の間に書かれたオープンアクセス論文を研究しました。
 
「2018年にトリガーポイント・ドライニードリング鍼で橈骨神経損傷が起こった」というのは単なる「情報」であり、何の役にも立ちません。
どうしたら鍼による橈骨神経損傷の可能性を減らすことができるのか、その具体的方法と対策のレベルまで考えないと、この貴重な(気の毒な)失敗事例、症例報告を活かすことにはならないと思います。
 
 

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