月経痛への三陰交の直刺と横刺、鍼の深さ問題

 
2022年1月13日 北京中医薬大学
「エオタキシン/CCケモカイン受容体タイプ3の抑制による好酸球ー肥満細胞活性化を弱めることにより鍼は月経痛を弱める」
Acupuncture Alleviates Menstrual Pain in Rat Model via Suppressing Eotaxin/CCR3 Axis to Weak EOS-MC Activation
Wen-Yan Yu
Evid Based Complement Alternat Med. 2022; 2022: 4571981.
Published online 2022 Jan 13.
 
 
以下、引用。
 
月経は炎症性イベントと見なすことができる。
従来の研究では、好酸球が月経前・月経中の子宮にみられることがわかっている。
好酸球と肥満細胞は、月経サイクルで形態学的変化の重要な役割を果たしており、子宮の炎症性微小環境に関与する重要な炎症細胞であると考えられている。
最近の証拠は、ケモカインを介した炎症が痛みの導入と維持に関与していることを示しており、ケモカインは痛みのコントロールの新しいプレーヤーとして明らかになった。
好酸球で発現されるCCケモカイン受容体タイプ3を介して炎症組織への好酸球動員を誘発することができる。最近の研究では、原発性月経困難症の患者でエオタキシンの血清レベルが上昇することが示されている。
好酸球カチオン性プロテインは肥満細胞を刺激してヒスタミンをリリースさせ、子宮を収縮して痛みを悪化させる。
したがって、EOS-MC活性化を弱めるエオタキシン/ CCR3軸の不活性化は、その後の月経痛を調節する抗炎症および鎮痛メカニズムに関与している可能性がある。
低温凝固性月経困難症ラットモデルを準備した後、動物は三陰交でそれぞれ直刺と横刺を20分間受けた。
 
 
ラットは免疫学的測定法ELISAでエオタキシン、ヒスタミン、インターロイキン6を測定します。
リアルタイムPCR法とウェスタンブロッティングでCCケモカイン受容体タイプ3やヒスタミンH1受容体を測定しました。
 
 
以下、引用。
 
【結果】
鍼は低温凝固性月経困難症ラットの月経痛を、特に横刺技術によって顕著に軽減した。
電気生理学的記録データは、子宮収縮性の増加が鍼治療によって改善されたことを示した。
さらに横刺はエオタキシン、ヒスタミン、インターロイキン6の放出を減らし、CCケモカイン受容体タイプ3やヒスタミンH1受容体の発現を減少させた。そして、免疫組織化学実験により好酸球と肥満細胞、好酸球ペロキシターゼ酵素、好酸球カチオン性プロテインの発現の増加が横刺によって逆転した。
 
 
 
三陰交の横刺=浅い鍼で月経困難症の子宮の収縮や痛みが軽減することが動物実験で証明されたわけです。
 
 
わたしは以前から「胃病に対する足三里や婦人科の三陰交など、手足の末梢の経絡を使った遠隔取穴の場合は灸や浅い刺鍼など『浅い刺激』でないと効きにくい」と主張してきました。
 
現代の中医薬大学のような中国鍼の深刺+得気は、あまり良くないと考えてきました。
実は、2019年頃から、少なくとも北京中医薬大学の研究者たちは、そのことに気づきつつありました。
 
 
2019年北京中医薬大学
「原発性月経困難症患者における三陰交刺鍼の鎮痛効果に対する得気感覚の強度、成分、および広がりの影響:ランダム化比較試験の二次分析」
Influence of the Intensity, Components, and Spreading of the Deqi Sensation on the Analgesic Effect of SP6 Needling in Primary Dysmenorrhea Patients: A Secondary Analysis of a Randomised Controlled Trial
Ni-Juan Hu et al.Evid Based Complement Alternat Med. 2019 May 16;2019:6462576.
 
私たちの以前の研究では、痛みの緩和は得気を自己報告しなかった患者で発生した。
興味深いことに、手首または足首の皮下組織レベルで、操作や針の感覚を使わずに浅く皮膚を通して針を挿入する針療法である手首-足首鍼(腕踝鍼)は、従来の鍼と同様の鎮痛効果を発揮する。
 
 
これは、浅い鍼で十分効くことに気づいてきたかと思った記憶があります。
 
 
2020年北京中医薬大学
「原発性月経困難症の患者の三陰交への直刺と横刺の鎮痛効果の比較:ランダム化比較試験のプロトコル」
Comparison of the immediate analgesic effect of perpendicular needling and transverse needling at SP6 in patients with primary dysmenorrhea
Study protocol for a randomized controlled trial
Mohammad Reza Afshari Fard Medicine (Baltimore). 2020 Jan; 99(3): e18847.Published online 2020 Jan 17.
 
 
YouTube『東洋医学の最新情報(第51回) 月経困難症』で取り上げましたが「月経困難症への三陰交の鍼は、浅く、得気なしでも効く」ということに、北京中医薬大学の先生方は明確に気づいていることが判明しました。
実験のプロトコルだけで、実験結果はまだですが、この実験デザインは「臨床的現実に気づいている」としか思えないです。
 
日本では、赤羽幸兵衛先生が三陰交への皮内鍼の実験ですでに1950年代に指摘していることではあるのですが、この知識は日本でも受け継がれ損なっていると思います。
 

 
 

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